衛星都市ティリス【1】
翌日、ついに3人は旅だった。
女将は相当心配していたが、ヴァレリーはそれでもなんとか言いくるめて出てきた。
王都ガレイアからのびる街道は、白い街道と呼ばれている。その名は、敷き詰められた石畳に由来し、希少な魔力石で作られた広い街道と王都周辺の石壁は、その魔力故に弱い魔物であれば近寄ることは出来ない。
これこそ、この国が永きにわたり繁栄してこれた要因のひとつとも言える。
この街道もどこまでものびている訳ではなく、自国の村や都市にしかのびていないことから、その他の森や平野、山といった場所に魔物が生息していることにかわりはないのだが。
「お前たち、どの程度の術が扱えるんだ?」
青年の言葉に、先を歩いていたヴァレリーは笑顔で振り向いた。
「私の専攻は炎と土、それと風を少しです」
魔術にはそれぞれ特性がある。
炎は攻撃に特化していて、土や風はどちらかといえば防御や補助に向く魔術だ。
攻撃方法がないわけではないが、大抵は土や風を極めるよりは炎や水といった攻撃特化の魔術を極める。
そして、大抵の人間は一つか二つ習得できればいい方だ。その点から言っても、ヴァレリーの才能が伺える。
「炎だけなら、ランクCの単位を取りました!」
誇らしげに胸を張って見せる。だが、実績がなければランクは上がってはいかないのも冒険者の悲しいところだ。
「私はヒーラーなので、治癒と薬学を。あとは、風の魔術も素養があると言われて、少しだけ……」
魔術師もヒーラーも、魔力を使っているという点ではそれほど違いがあるわけではないのだ。ただ、オルガの様に治癒と魔術の両方を習得出来る人間は少ない。
それは、素養の問題だ。
人間の体内にどんなに少なくても魔力が内在する。そして、それには必ず属性がある。オルガの場合、治癒に使う魔力と、風に使う魔力が内在し、ヴァレリーには炎と土、それと風を内在する。
魔力を必要とする点では同じでも、治癒と魔術ではそもそも発現に必要な術式が違うので、両方を習得出来るのは希だ。
「お前たち、優等生なのか」
「そんなことはないですけど……」
ヴァレリーは微笑むと、ゆっくりと伸び上がった。
「お腹すきましたねー」
話しているうちに昼を過ぎたようだった。街道を進んでいれば周辺に魔物は近寄れないので、軽いお昼にすることにした。
「母さんのサンドイッチです、美味しいですよ!」
ヴァレリーがてきぱきと昼食の用意をする間、青年は紅茶を啜りながら街道の先を見つめた。このペースなら、暗くなる前には衛星都市ティリスが見えてくるはずだった。
「私、初めて街の外に出たの」
オルガがぽつりと呟いた。今どき珍しくもない。他国では戦争も多く、最近は移民や魔物など、どうも物騒なことが多い。王都の人間の中には、死ぬまで王都の外に出ない人間もいる。
「私も店があるから初めて! でも、オルガの理由とは違うけど」
どこか含みのある言い方に引っ掛からないでもなかったが、青年は特に突っ込まずに最後のサンドイッチを口に放り込んだ。