氷の都【1】
クレイアイスの首都は、グラーゼという。
美しい石畳の建物が並び、その重厚な建造物を純白の雪が覆う。
防寒着を着ていなければたちまち凍えてしまうだろう。
いつものように荷馬車とセバスチャンを預ける。
子竜は連れていけないので、セバスチャンに子守りを頼んだ。暫くは目覚めないだろう。
ルードを連れて、まずは冒険者ギルドへ向かった。
「まぁ、ファブリス様今日はご依頼の確認ですか?」
ギルド職員の女性はファブリスの顔見知りなのか、親しげに話しかけてきた。
「いや、今日は俺じゃないんだ」
「すまないが、金貨を少しおろしたい」
青年が冒険者のカードを見せながら割り込む。
ギルド職員の女性はカードを預かると、何やらチェックをしてから顔を上げた。
「いかほどお引き出しになりますか?」
「そうだな……この辺りで、貴族が着るような上等なドレスの仕立て屋はあるか?」
「ございますよ。メインストリートを北上して十字路の右側に。大きな看板が出ていますから、すぐわかるかと」
「そこで一揃えしたい。必要な分だけおろしてくれ」
「かしこまりました」
ギルド職員が差し出した書類にサインすると、暫くして他のギルド職員が金貨の入った大きな袋を3つ持ってきた。
「どれくらい入っているのかしら……」
「さあなあ」
ヴァレリーとファブリスがコソコソと話す。
青年の預金額が気になるところだったが、まずは必要なものを買い揃えなければならなかった。
青年とファブリスで大量の金貨を運ぶのはそれなりに目立ったが、目的の仕立て屋にはすぐ辿り着けた。
ショーウィンドウには煌びやかなドレスが展示され、店内も貴族がこぞって買い求めるような流行の最先端をいっている。
「いらっしゃいまし」
みすぼらしい冒険者が何の用かと言いたげな店主を余所に、青年はオルガを手招きする。
「こいつに上等なドレスを一揃え、見繕ってやってくれ」
「そ、それは構いませんが……その、お客様。失礼ですが、お金の方は」
「ファブリス」
「おう、ここに金ならあるぞ」
ファブリスが金貨の袋を地面に置く。
途端に店主の顔色が変わる。
「か、かしこまりました!」
「あ、あの。あまり派手なのは……」
オルガが焦って言うが、既に店主は奥に引っ込んでしまった。
「ファブリス、そこから金貨を少し持って馬車を借りてきてくれ」
青年がファブリスに頼むと、ファブリスは頷いた。
「あ、私も行くわ」
ヴァレリーがファブリスに引き摺られながら出て行くルードを追うと、店の奥から店主が戻ってきた。
「こちらなんてどうでしょう、お嬢さんの美しさを引き立たせる素晴らしい刺繍です。あ、こちらの商品は遠くレイダリアの淑女がたにも人気でして、よく注文頂くんです。こちらのネックレスと合わせるとそれはもう」
「ネックレスは、結構です。これをつけたいの」
オルガがごそごそとペンダントを取り出し店主に見せる。
店主は目を見開いて危うく手に持った装飾品を取り落とすところだった。
「そ、それは……お嬢さん、いや、貴女は!レイダリアのマルグリット様では?」
冷や汗をかきながら店主が後ずさる。
さすがに貴族相手に商売をしているだけあり、異国の姫であるオルガの紋章を知っているようだった。
「あの、出来ればお忍びなので……他の方には……」
オルガが申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや!あの!大変申し訳ございませんでした……!マルグリット様と知っていれば、一番上等なものをお出ししましたのに!」
「いえ、いいのです。そうだ、こちらのドレスは城の舞踏会で似たものを見たことがあります。これにします」
オルガが選んだのは、光沢のある水色の生地に、上半身は藍色の糸で雪の結晶を模した刺繍がされたものだった。
下半分はレースがふんだんに使われ、膨らんだバッスルが着るものを益々華奢に見せるだろう。
店主は焦りながらも、いかにマルグリット王女が美しく可憐かを褒めちぎり、ドレスに似合うパンプスや髪飾りを見繕っていった。
「着替えたいのですが、着付けられる方はいますか?」
「ええ、奥の部屋をお使いください」
「ありがとうございます。ルーさん、少し待っててくださいね」
オルガが着替えている間、青年は支払いを済ませた。
店主は受け取れないと言っていたが、オルガについての口止め料ということで納得させた。
「ただいま!あれ、オルガは?」
馬車を借りてきたヴァレリーが店内に顔を覗かせる。
「今着替えてる」
「そっか。とりあえず借りてきたよ」
ヴァレリーが報告していると、奥からオルガが戻ってきた。
髪も結い上げて貰い、すっかり王女マルグリットにしか見えなかった。
「さあ、行きましょう」
青年にエスコートされ、オルガは馬車に乗り込む。
ファブリスは御者席で手綱を握り、その横にはルードが。
青年とヴァレリーは一緒に乗るわけにはいかないので徒歩だ。
ファブリスは馬車をゆっくりと走らせ、青年たちが遅れないように気をつける。
そうして城の前の広場までやってきた。
衛兵が、訝しんで近寄ってくる。
「何者だ」
「レイダリア国より参りました、王女マルグリット様でございます。国王陛下に謁見をお許し願いたく参上いたしました」




