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vivre―黒い翼―  作者: すずね ねね
1章 des magouilles
3/82

少女の依頼【2】

 翌朝、ルーに伴われヴァレリーとオルガは街を歩いていた。

 まず立ち寄ったのは魔術師ギルドだった。魔術師ギルドは、冒険者ギルドの中でも、特に魔術師向けの依頼や店が入っていたりする。

 依頼の他にも、個別に主を求めるフリーの魔術師が雇い主を探す斡旋所の役割も持っている。

 その中にある店のひとつに3人は足を運んだ。

 ルーたちが中へ入ると、奥で作業していた男が顔をあげた。

 青白い顔に煤けたローブ、細い枯れ枝のような腕や指には不気味な色の宝石をあしらった指輪や腕輪。見るからに胡散臭い魔術師だった。


「あー……。久し振りー……」


 ルーの姿を見止めた男から眠たげに放たれた声は、意外にも若いものだった。


「んー? そっちのお嬢さんは魔術師かなー……?まだ駆け出しかー……」


 ヴァレリーは自らに不躾な視線を投げかける男に、驚いて目を見開いている。

 ルーはそれを無視して、目の前の男を見つめた。


「適当に見繕ってやってくれ。また後で来る。お前は残れよ」


「え! あ……はい」


 正直なところ、こんなに怪しげで薄気味悪い場所に長居はしたくなかった。しかもどうやら、一人で置いておかれるらしいとわかり、ヴァレリーは観念したように項垂れる。店を出て行くルーと、心配そうにヴァレリーを気にしつつもルーの後を追うオルガ。ヴァレリーは、そんな二人を寂しそうに見送る他なかった。



+++++++



 店を出たルーとオルガが次に向かったのは、ヒーラーギルドだった。

ここでは怪しげな店に入ることはなく、オルガの為に新しい杖とローブ、それと解毒薬をいくつか買った。


「あの、なんだか申し訳ありません……」


 オルガが言うと、ルーは首を横に振った。


「依頼だからな」


「……そう、ですか」


 依頼。確かにそうなのだが、ヴァレリーもオルガもルーに対して充分な報酬を用意できるとは言い難い。その上旅に必要なものの用意まで面倒をかけているのだ。恐縮しない人間は、頭が悪いかしたたかかのどちらかだろう。

 もっとも、したたかさと柔軟さに関して言えば。冒険者には必要なものだろうが。

 ルーの本性がどのようなものだとしても、オルガにしろヴァレリーにしろ、信じるしかないのだ。オルガは困ったように微笑むと、それ以上何も言わなかった。

 買い物を終えたルーとオルガは、ヴァレリーを迎えに魔術師ギルドにある店に戻ってきた。ちょうどヴァレリーの用意も整ったようだった。

 魔術師用の杖と、魔力増幅のサークレット、そしてイヤリング。


「僕としてはさー……杖はもうワンランク上がいいと思うんだけどねー……。彼女、重いっていうからー……」


 使用者に見合わない武器は、軽々しく扱えるものではないのだ。身の丈に合わない武器は、どれだけ強力なものでも充分な性能を引き出すことが難しい。ヴァレリーが感じた「重さ」が、まさにそれだ。

 ヴァレリーの技量では、今手にしているもの以上の武器は扱いにくいということだ。これは筋力の問題ではない。ヴァレリーの魔術師としての技量が上がれば、自然と強力な武器を扱えるようになるはずだった。

 だが、ルーは感心する。今ヴァレリーが持っている杖は、魔術に詳しくないルーでもわかる程度には名のある名工が作ったもので、それなりに実力……というより魔力の高いものでなければ扱えない代物だ。

 それがギリギリとはいえ持てているということは、ヴァレリーは経験さえ積めばそれなりにいい魔術師になる可能性を秘めいているということだ。


「助かった。金はいつもの方法でいいな?」


「構いませんよー……」


 男は呑気な返事を返すと、何やら怪しげな作業へと戻っていった。

 やっと辛気臭く陰鬱な店から解放されるとあって、ヴァレリーはあからさまに吐息をこぼす。そんなヴァレリーを苦笑しつつオルガが眺め、ルーは無言で店から出て行った。

 ヴァレリーとオルガも、置いていかれては大変だと慌てて後を追う。

 その後も旅に必要な保存食の確保や、旅に使う寝袋などを用意しているうちにあっという間に一日が過ぎた。


「今日はありがとうございました」


 ヴァレリーがルーに言うと、彼はなにも言わず頷くだけだった。

 少しだけ居心地の悪いものを感じつつ、ヴァレリーは頭を下げる。


「あの、ちゃんとお金、返しますから……」


 現在持ち金の少ないヴァレリーやオルガにとって、誠意を見せることしかできない。無知というのは幸せな事なのだ。

 今日ルーが彼女達に買い与えた装備品だけで、一般的な冒険者は無駄遣いしなければ2ヶ月は食べていける。

 それでも、彼女達が課題を終えて作るマジックアイテムの方がはるかに高いのだが。冒険者としての一歩すら踏み出していない彼女たちがそれを知るのは、もう少し後になっての話だ。

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