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vivre―黒い翼―  作者: すずね ねね
1章 des magouilles
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謁見【2】

「すまないが、マルグリットを暫く預かっては貰えぬだろうか」


その申し出を予期していたのか、青年は驚きはしなかった。

驚いたのはエドワールとオルガだ。


「陛下!目の届かぬ場所でマルグリットに何かあったら……」


エドワールが狼狽して声を上げる。

だが、ユークリッドは緩やかに首を横に振ると、小さく溜息を零した。


「だからといって、お前や儂が常に側で守り続ける事は出来ぬ。冒険者ならば、上手い身の隠し方も知っていよう。マルグリットを守る為の協力は惜しまぬし、そなたの望みのものも出来る限り用意させる。なんとか引き受けては貰えないだろうか」


ユークリッドは真っ直ぐに青年の瞳を射抜く。

その眼差しは紛れもなく、娘を想う父のものだ。

青年はややあって頷いた。


「いいだろう。ただし、一つ調べて欲しいことがある。これはまぁ、見つからなければそれでいいんだが、俺だけではどうも探しきれないみたいだからな」


「ふむ、調べ物か。善処しよう。それで、何を調べさせる?」


「災禍の魔女の居場所だ」


青年の言葉に、ユークリッドとエドワールの顔色が変わる。

オルガはその言葉に聞き覚えがないのか、首を傾げている。


「何故、災禍の魔女を?」


ユークリッドが尋ねる。

ユークリッドが怯えるのも無理はない。

災禍の魔女とは、かつてこの世界がまだ一つの海と一つの大陸しかなかった気の遠くなるような過去に、大地を裂き、当時生きていた生物を滅ぼしかけたという。

原初よりこの世界に君臨する闇の王とも言われ、各地に魔女のものと言われる爪痕が今も尚残っている。


「……呪いだ」


ぽつり、と青年が答えた。


「この身にかけられた、魔女の呪いを解きたい」


「魔女に会ったことがあるのか?」


エドワールが目を見開く。

俄かには信じられない事だ。

魔女に出会って無事であったという、その事実が。


オルガは、森で見た青年の肌を思い出す。

あの鱗が、呪いなのだろうか。


「……見つけられる保証はないぞ。そもそも、まだ生きておるのか?」


「生きてるだろうな。呪いがかかったままだ」


「ううむ……」


ユークリッドは唸ると、ややあって頷いた。

いずれにしても、今は青年を頼るほかないのだから。


「では、マルグリットの事はくれぐれも頼むぞ」


「陛下……」


オルガが思わず、といった様子でユークリッドに縋りつく。

ユークリッドもまた、その瞳を悲しみの色に染め、オルガの背を撫でていた。




城を出る頃には、昼を過ぎていた。

ヴァレリーが戻ってきていてもおかしくないし、またすぐに王都ガレイアから出る必要があった。

とにかくヴァレリーと合流するために、青年たちはエドワールの屋敷に戻ってきた。


「お帰りなさい、どうだった?」


無事に戻り応接室で待っていたヴァレリーが、心配そうに尋ねてくる。


「急だが、また旅に出ることになった」


「今度はいつ戻れるかわからないの。ヴァレリー、本当に私のワガママに付き合わせてごめんなさい。魔術学校の課題、一人でも提出できそうかしら……」


マジックアイテムの材料は集まったので、次はそれを精錬し加工しなくてはならない。

これにはそれなりに苦労することになるだろう。


だが、ヴァレリーが首を横に振る。


「そんなこといいのよ。それより、どうしてまた旅に出るの?」


ヴァレリーの疑問に、オルガが国王ユークリッドとの話を伝えた。

ヴァレリーは驚いていたようだが、少しして微笑んだ。


「私も行くよ」


これにはオルガが反対した。

いつ戻れるかもわからない、いつ命を落とすとも限らない旅に、大切な友人であるヴァレリーを連れ出すわけにはいかなかった。

それでも、ヴァレリーの決意はかたい。


ついにはオルガが根負けすると、両親の許しがもらえるなら、という条件で了承した。


「話はおわったようだね。それで、ルー殿。セザール殿が首謀者じゃないだろうと言っていた件についてだが」


エドワールが言うと、青年が頷いた。


「俺を見て、何も言わなかった。まぁ、隠すのがうまいのかもしれんが、少なくともその手の雰囲気は感じなかった」


「抽象的な理由ですね」


「だろうな。だから不安なら探っておいた方がいい。オルガ……いや、マルグリットか。こいつが国を出て急に態度がでかくなるやつとかな」


「なるほど。そこに関しては陛下と私で目を光らせておくことにしよう。それで、首謀者がわかってからだが」


「遠距離の連絡用魔術なら、王都から隣国くらいまでなら私が使えます!」


連絡用魔術は、遠くの相手にそれほど時間差がなく情報を伝えられる手段だ。

風魔法を応用したものだが、その距離は術者の経験と魔力の量に大いに影響される。


通常、ギルドや国家間の連絡はそれ専門の魔術師が、いくつかのポイントを経由して伝言ゲームのように伝える。

だが今回は、こちらが移動する形になる。


「大都市のギルドの魔術師に経由を頼むしかないか……」


それだと、オルガの居場所が不特定多数に目撃される可能性もある。

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