謁見【1】
玉座の間は、入り口から真っ赤な絨毯が通路のようにひかれていた。
奥に玉座があり、初老の男性が座っていた。
エドワールが歳をとれば、こうなるのかもしれない。
髪にこそ白いものが混じり始めていたが、その瞳には力強い光が宿り、静かに青年たちを見据えていた。
エドワールが静かに王の前に進み出ると、恭しく頭を垂れる。
その後ろで、青年とオルガもそれに倣う。
「よく帰ったな、マルグリット」
空間に、王の声が響く。
「既に大臣より、無事課題を終えたことの報告は受けておる。さあ、顔をよく見せておくれ」
オルガは立ち上がると、一歩前に進み出て改めて王の前で跪いた。
「わたくしの我儘を聞いてくださり、陛下には感謝しております」
「よい。それよりも、その者は?」
王が青年を指して言う。
オルガは頷くと、ゆっくりと立ち上がった。
「ルーさんといって、冒険者です。道中知り合いになり、わたくしを助けて下さいました」
「そうか、それは苦労をかけたな、旅の御仁」
オルガは青年の条件通り、一緒に課題をこなしたことは伏せた。
王は青年を信頼したのか、目を細めて笑う。
「儂がユークリッド・ヴァン・レイダリア3世だ。娘が世話になった、何なりと褒美をとらせよう」
「それなんですが、陛下」
エドワールが口を挟む。
国王ユークリッドは、 訝しげにエドワールに視線を送る。
「マルグリットが命を狙われたという件はご存知ですか?」
途端にユークリッドの目つきが変わった。
彼はオルガに視線を送る。オルガが間違いないという風に頷くので、その顔は益々険しくなった。
「儂の可愛いマルグリットを狙うとは……」
「だからでしょうね、心中お察し申し上げます」
淡々と話してはいるが、エドワールも同じ気持ちなのだろう。
その表情は晴れない。
「して犯人は捕らえたのだろうな」
「実行犯の数人は、治療院にいたのでこちらで押さえてはありますが、首謀者と所属に関しては調査中です」
「ふぅむ……」
ユークリッドが唸りながら腕を組んだ。
首謀者がわからない以上、オルガを王宮においておくこともまた危険が伴う。
兵をオルガにつけたところで、その兵が首謀者の回し者である可能性も捨てきれないからだ。
「ルーといったか、旅の者よ。一つ、頼まれてはくれぬか?」
ややあって、ユークリッドが諦めたように重い口を開いた。
「条件次第だが」
青年が答えると、ユークリッドが頷く。




