レイダリアの若き鷹【5】
「無事に帰られたようで何よりですな」
城の入り口から、声が響いた。
そこには2人の男が立っていた。
1人は今し方声を発した人物だろう。
貴族らしい華美な服に身を包み、頭が半ば禿げ上がっている。
若い頃も大していい男ではなかっただろうが、つぶらなグリーンの瞳だけが油断なく青年を見つめている。
男は肥えた腹を揺すりながらゆっくりと階段を降りてくる。
その後ろを歩くのは、栗毛の癖っ毛に濃い茶色の瞳の、可愛らしい顔をした青年だ。
「お久しぶりです、セザール様、ダヴィド様」
恐らく青年に知らせる為だろう。
オルガが彼らの名を呼び、優雅にドレスの裾を掴みお辞儀をした。
「珍しいな、お前がセザール殿といるのは」
「今日はお祖父様の仕事を手伝っていたんですよ」
柔らかい笑顔で答えたのは、ダヴィドだ。
セザールは尊大な態度でふんぞり返ると、侮蔑のこもった目で青年を見た。
「エドワール様、この従者の教育がなってないのではないですかな?全く、図が高いというかなんというか。使用人など、同じ空気を吸わせてやってるだけでも感謝していいほどだというのに」
セザールの言葉に、オルガが明らかに何か言いたそうに顔をしかめる。
だが、エドワールがそれを制する。
「申し訳ありません、私の不徳といたすところ。何分私もまだ若いので、指導が足りませんでした。ご容赦下さい」
爽やかな笑顔でエドワールが言うと、何故かセザールは赤面しながら咳払いをする。
さてはそっちの趣味か。青年は内心呆れながら、セザールの足元に跪いた。
「ふ、ふん。エドワール様の人徳に感謝するのだな」
セザールはそれだけ言うと、ダヴィドを連れて去っていった。
青年は2人が見えなくなると、何事も無かったように立ち上がる。
「ルーさん……」
「君の頭の回転が速くて助かるよ。すまないね」
「いや、いい。収穫もあったからな」
青年が言うと、エドワールが首を傾げる。
「恐らくあいつは、この件には絡んでいないだろうな。気持ち悪い趣味は持っているようだが」
「ほう……まぁ、ここだと人目もある。陛下との謁見が済んで、屋敷に戻ったら話そう」
青年とオルガは頷くと、エドワールについて歩き出した。
エントランスを抜け、長い廊下を歩く。
人通りはまばらだが、すれ違う使用人たちはエドワールとオルガが通るとその度仕事の手を休め静かに礼をしていた。
この城の掃除は大変だろうと青年が考えていると、一際大きな両開きの扉に着いた。
扉の両側にはフルアーマー、フルフェイスの騎士が立っていて、エドワールを見ると胸の前で一度腕を掲げた。
「陛下がお待ちです」
フルフェイスの奥からくぐもった声が響く。
「ご苦労」
エドワールが言うと、扉がゆっくりと開いた。




