レイダリアの若き鷹【3】
エドワールの別邸は、さすが一国の王子が使っている建物なだけはあり見事な造りをしていた。
庭の生垣一つをとっても、庭師が丹念に手を入れているのだろう。
綺麗に磨き上げられた調度品や、塵一つ落ちていない廊下。
明るい色に統一された室内は華美な印象こそ与えないものの、きっちりと整えられていた。
エドワールの召使いが青年を案内したのは、いくつかある客室の一つだった。
彼が泊まったことのあるどんな宿屋のベッドよりも豪華なベッド、控えめな装飾のされた鏡台、応接セット。
応接テーブルの上には、クッキーのバスケットが置かれていて、側には火の魔力を封じ込めたお湯入れと、ティーセットが置いてあった。
ベッドの側の扉は開かれていて、その奥はバスルームになっているようだった。
招かれた貴族が泊まることもあるのか、バスルームの側に大きなクローゼットと金色の装飾が施されたタンスが置かれていた。
引き出しを引くと、中には綺麗に畳まれたタオルやシーツが入っている。
青年は部屋の様子を大体把握すると、外套をソファに放り投げた。
背負っていた剣は、ソファに腰を下ろすと時にテーブルの上に乗せた。
ふかふかのソファもクッションも、青年は初めて触った。
その感触を暫く堪能すると、野宿で凝り固まった筋肉をゆっくりとほぐした。
そして、立ち上がると剣を掴みバスルームへ足を踏み入れた。
中はそれなりの広さがあり、猫足の真っ白いバスタブには並々と湯が張ってあった。
ここにも、火の魔力を応用しお湯の温度が下がりすぎない工夫がされている。
青年はバスタブの側に剣を立て掛けると、服を脱ぎ捨ててお湯に浸かった。
青年の身体は、相変わらず細かな鱗に覆われている。上半身だけでなく、下半身もだ。
鱗に覆われていないのは首から上と、手や足先位のものだ。
青年が湯船で汚れを落としていると、部屋の扉がノックされたようだった。
「何だ?」
バスタブから身体を浮かせ、青年はすぐに剣を掴めるように身構える」
「あ、ヴァレリーだけど」
「開いてる」
青年が言うと、扉が開き、閉じる音がした。
「あれ、ルーさん?」
「こっちだ」
青年が面倒くさそうに言うと、ヴァレリーが浴室に顔を覗かせた。
青年は全裸のままだ。
「あ、ここにい……っきゃあああああ!」
ヴァレリーが悲鳴を上げて顔を引っ込める。
青年にしては驚いて、バスタブから出るとヴァレリーを追いかけた。
「おい、大丈夫か?」
タオルを探してキョロキョロしつつ、青年が尋ねる。
ヴァレリーは顔を真っ赤にしながらタンスの方へ駆けて行くと、なるべく青年の方を見ないようにしながらタオルを差し出した。
「悪いな、持って入るのを忘れたんだ」
乱暴に髪を拭きながら、青年がのんびりと言った。
ヴァレリーは気が遠くなりそうな錯覚を覚えながら、ベッドの上の毛布を青年の頭の上から被せた。
「は、早く服を着てよ!」
「あ?あぁ」
ヴァレリーが起こっている理由が理解できないとでも言いたげに、青年は首を捻りつつ新しい洋服に袖を通した。
「何を怒ってるんだ」
「な、何をって……普通、いきなり裸で来られたら誰でもビックリするんだから……」
「最初に部屋に来たのはお前だろう」
納得できないと言いたげな青年に、ヴァレリーは脱力する。
「も、いいです。でも、普通は簡単に人前で裸になっちゃダメなんです、せめて隠して」
「む、そうなのか。すまない」
大人しく頷く青年に、ふとヴァレリーは首を傾げる。
「こういうことを教えてくれる人は、周りにいなかったの?冒険者としての知識はあるのに?」
「いないわけじゃないんだが……人間ってのは面倒くさいな」
青年もどう説明すればいいのかわからないようだった。
ヴァレリーは青年の言葉の後半が引っかかったが、仕方なしにそれ以上追求する事を諦めた。
「そういえば、用事があったんじゃないのか」
「あ、そうだった!一応明日の行動を確認をしておこうと思って」
「そうか。お前はあのグレイウルフを見に行くんだろ?」
「ええ、その後実家に寄って、またここに戻って待ってようかなって。オルガの事、お願いすることになっちゃうけど」
「まあ、そうする他はないだろうな」
ヴァレリーにはエドワールの部下が護衛につくようだし、街中で殺されるような危機にあうことは少ないだろう。
どちらにしても王女であるオルガやエドワールならともかく、ヴァレリー一人では簡単に城に入れてはもらえない。
それなら、確実に合流できる場所で待たせておいた方がいい。
「じゃあ、そういうことで決定ね!」
ヴァレリーは微笑むと青年の部屋を出て行った。




