レイダリアの若き鷹【1】
グレイウルフーーセバスチャンは、ヴァレリーの側で骨付の燻製肉を大人しく囓りながらも、その尖った耳が時折ピクリと動いては低く唸り声を上げていた。
どうやら、番犬ならぬ番狼のつもりらしい。
その点においては、青年は素直に感謝することにした。
空が暗くなり始めていた。
青年は改めてヴァレリーとオルガを見つめる。
「安全に王城へ行くにはどうしたらいい?」
「まずはやはり、エドワール様に保護を求めるべきかと思うんです」
「やはりそうなるか……」
青年は騎士団の体制に詳しくはなかったが、オルガから聞いた状況やエドワールの立場からいって、彼がオルガの命を狙う可能性は少ないだろう。
「騎士団といっても、色々と部隊がわかれているんです」
通常この国で騎士団といえば、一番に挙げられるのがエドワール率いる灰狼騎士団だ。
この地方によくいる、グレイウルフを模した紋章を身につけ、華々しく活躍するエースだ。
国王を護る近衛騎士団は、かつてオルガの祖父フェルディナン侯が率いていたが、今はフェルディナン侯の副官を務めていたカジミールが将軍として率いている。
将軍はそのまま有事になれば他の騎士団の指揮系統も掌握が可能だ。
また、王都に駐留することはあまりないが、衛星都市ティリスを守護するティリス騎士団や、王都防衛の要である銀騎士団などがある。
オルガはそれらの騎士団を説明し終えると、青年を見つめた。
「俺もひとまずエドワールに接触するのがいいだろうと思う。お前はどうする?」
話を振られ、ヴァレリーも頷いた。
「国王陛下に謁見するのは無理だろうけど、せめてエドワール様が安全な方だとわかるまではついていくわ」
「決まりだな」
青年も頷くと、立ち上がった。
「あ、そいつは置いていけよ。目立ちすぎる」
大人しく座っているセバスチャンを指差す。
青年に言われ、ヴァレリーは明らかにガッカリしたようだった。
「大人しく待ってるのよ、もし陛下にお目通りが叶ったら、オルガを守ったご褒美で大きなお肉を貰えるようにするからね」
ヴァレリーが言うことが理解できたのか、セバスチャンはヴァレリーの頬を大きな舌でひと舐めした。




