フレミアの森【3】
巨大なフレミアから取れた素材は、課題を終えるには充分な量だった。
間違いなく荷物の中にしまうと、ヴァレリーとオルガは改めて青年に頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ああいうときはすぐに仲間を起こせ、自分たちの力量を推し量れないようだと、死ぬぞ」
青年はそれだけ言うと、小さく吐息を零した。
「あの……」
オルガが言いにくそうに声を掛ける。
青年は穴が開いてしまった袖を見つめ、もう一度深い溜息をついた。
「気になるか」
「ええ」
オルガが頷くと、青年は躊躇なく上に纏っていた服を脱ぎ捨てた。
冒険者らしい、鍛えられた筋肉は、最早芸術とすら言えるだろう。
だが、それだけではない。
彼の上半身は、首から下がびっしりと黒い鱗に覆われていた。
彼の呼吸に合わせ、蛇腹のように僅かに動くそれは、本物の鱗だ。
ヴァレリーとオルガは、その異様さと相反する美しさに、思わず言葉を失った。
「リザードマンなの?」
ヴァレリーが尋ねる。
リザードマンとは、かつて竜に仕えていたとも、竜になり損なったとも伝えられる竜のような鱗を持つ亜人のことだ。
その身体能力は高く、リザードマンならば先程のフレミアとの一戦のような立ち回りも納得できた。
王都やティリスには少ないが、ここよりも暖かい南方の国々には、リザードマンと暮らす集落もあると聞く。
だが、青年はどこか自虐的な笑みを浮かべると首を横に振った。
「それに関しては、話すと長くなる。だが、亜人ではない」
「偽名と関係があるの?」
ヴァレリーの問いに、青年はややあって頷いた。
「そのうち話す時が来るかもな」
そっけなく言い放つ。
今はまだ、その口を開くつもりはないようだった。




