フレミアの森【2】
毒々しいまでの紫の花弁。
その下に伸びる茎は、太く絡まり合い棘の生えた蔦が荒々しく脈打ち地を叩く。
根が進化した足のような部分が、地面を踏みしめヴァレリーたちの方へと歩を進める。
3メートルは優に超えるその巨体が、ほんの10メートル程の位置に近づいた時、我に返ったオルガが空を飛び出した。
慌ててヴァレリーも後を追うと、魔術を発動するために意識を集中する。
「炎よ!」
「光よ!」
ほぼ同時に魔力を解放する。
巨大なフレミアの行く手を遮るように、ヴァレリーの放った魔力が地を走り、炎の檻となって立ち塞がる。
オルガの魔術もまた、光の盾となってヴァレリーたちを守るようにその眼前に美しく揺らめく。
フレミアは一瞬炎に怯えたようだった。
しかし、ヴァレリーの放った炎の檻を、その長い蔦で振り払うと、突風とともに炎を消し去った。
フレミア自体が魔力を帯びた、巨大なマジックアイテムの様なものなのだ。
小手先だけの魔術では、この巨大なフレミアには通用しない。
ヴァレリーはもう一度魔力を解放すべく、大きく息を吸い込む。
ところが。
それより早く、フレミアがその太い蔦を薙ぎ払い、オルガの光の盾を叩き壊した。
魔力が打ち消される不快な音に、思わずヴァレリーもオルガも顔をしかめる。
だがそれよりも憂慮しなくてはならないのは、この化け物を前に今自分たちが丸裸にされたということだ。
唸りを上げて、フレミアの蔦が振り上げられる。
次に来る一撃を予想して思わず2人は固く目を閉じる。
だが、来るはずの衝撃は訪れなかった。
かわりに、どさりという音が響く。
「ルー、さん……」
目を開いた2人が見たのは、あの美しい剣がフレミアの太い蔦を切り落としたところだ。
そして、2人を庇ったせいなのか、右手の袖が蔦に生える棘で引き裂かれ、露わになったその肌。
黒……というよりも、紫に近いかもしれない。
鱗のようなものが、衣服の間から見えた。
「それは……」
ヴァレリーの言葉を青年は背中で聞きつつ、未だ暴れるフレミアの蔦を掻い潜り、その頂にある花弁へ向けて跳躍した。
美しい軌跡を描いて剣が舞い、吸い込まれるように花の根元に沈む。
静かにフレミアの花が落ちると、そこでようやく戦いの終わりを知った。




