彼女の嘘【6】
念の為追っ手を警戒しつつ進んだが、青年の読み通り目立った動きはないようだった。
特に問題もなく青年たちは、日の暮れかけたフレミアの森に辿り着いた。
既に森の中は暗く、これ以上進むことは無謀とも言える。
青年はなるべく今まで歩んできた草原から死角になり、なおかつ森の中にあまり入りすぎない場所を探すと、そこに魔物除けの糞を撒き火を起こした。
「まぁ、追っ手に追いつかれれば火で居場所はバレるだろうが……仕方ないな。お前たちにはどっちも脅威になる」
どっちも、というのはフレミアの事も指すのだろうとヴァレリーは思った。
確かに、フレミアを見たことがない以上、充分脅威になり得る。
「少しでも休んでおけよ。俺は見張ってるから」
「ごめんなさい……」
ヴァレリーが呟くと、青年は小さく溜息を零した。
「それぞれの役目を果たせばいい。お前たちは今日魔力を使ってるから、休んでおかないといざという時に困ることになる」
「ルーさんの言う通りね。ヴァレリー、夕飯を食べたら、少し眠りましょう」
「そうね。そうだ、せめて夕飯は頑張らせて」
ヴァレリーの言葉通り、彼女は質素な材料をなるべく工夫し夕食に彩りを添えた。
「課題が終わったら、お前たちはどうするつもりだ?身を守るためとはいえ、王都の騎士を倒している以上、これからの行動について考えておいたほうがいい」
「それなんですが、エドワール様に事情を話し、保護をお願いしようかと」
「信用できる人間なのか?」
「少なくとも私の異母兄弟たちの中では、一番誠実なお方だと思います。それに、一番有力な世継ぎですからね。この方が今回の件に直接関わっている可能性は低いと思います」
オルガの言葉に青年は頷くと、荷物の中から地図を取り出した。
使い古された地図を焚き火の灯りに照らしながら、青年は王都とフレミアの森を指差した。
「今朝見逃した兵がティリスで馬を用意して王都に戻っていれば、兵の再編を合わせても2、3日で追っ手がつくだろうな。困るのが、黒幕がティリスのオーバン侯や、アラン王子だった場合だ。それだと明日には追っ手に追いつかれる可能性がある……が、これは可能性は低いだろうな」
「私もそう思います」
「え、なんで?」
ヴァレリーが首を傾げる。
「誰が世継ぎとして有力か、という話が関係するの。エドワール様もアラン様も、私の母上の家よりも格が高い家柄の御生まれで。そういう意味では、今回私を女王にという話が出た所で、それほど立場に揺らぎが生じないのがこのお二人なのよ」
もちろん、それを隠れ蓑にして暗殺を企てるという事も考えられないことではないのだが。
「じゃあ、他の人たちはオルガが脅威になるのね」
「大臣の孫にあたるクリストフ様とダヴィド様。このお二人はお孫さんですけど、実はお二人のお母様はセザール様が養女に迎えられたお方なの。セザール様には本当のお子様がいらっしゃらなくて、養女だということで身分も私の家よりは若干劣るのよ」
「オルガのお祖父様は、当代の国王様をお護りしていた将軍様だっけ」
「今は隠居して、陛下に領地を頂いて北の屋敷で暮らしているけどね。エドワール様に剣術の指南もしていたの。お祖父様はあまり政に関心がある方ではないから……」
ヴァレリーは頷きつつも、改めてオルガの置かれる状況の厳しさに眉間に皺を寄せ俯いた。
「問題は、こいつら以外が黒幕だった場合だ。騎士団の鎧なんて王都に暮らしていてそれなりの地位があれば手に入れることも可能だろう。エドワールに助けを求めるにしても、その王都へ戻る事を考えつつ、国王との約束を守るとなると、少し厳しいだろうな」
「わかっています」
「それならいい。なるべく早く素材を集めて、王都に戻ろう」




