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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood7:走リユク鉄ノ檻 part6


席をクルリと回して林檎の方をむいていたということもあって、僕と椿からは今さっき車内にきた男の座る姿はよく見えた。


男は座った後、仕事の確認かスケジュール帳を開いて、それを指でなぞりながら確認している様だった。


一見すればただの仕事先に向かうサラリーマンだろうが、どこか引っかかるところがあった。


それがなにかは知らないし、もしかすると先程の椿と近衛 林檎とのドラマさながらのやりとりに影響を受けてのことかもしれない。


やれやれテレビの中の特撮ヒーローを夢見るお年頃はもう終わったと思っていたのに、と僕は皮肉めいたことを考える。


そういえば、この新幹線が東雲を出発してから既に40分近くが経とうとしているが何時になったら指定席のチケットを確認しに駅員がやってくるのだろう。


普通こういう全席指定席となっている乗り物は逐一確認するというのが一般的なものなのだが……この新幹線に関して言えばそれは当てはまらないのか?


そもそも貧乏学生にとって新幹線などという高料金モンスターとはあまり縁がないので単純に僕が間違っているだけなのかもしれない。


「なあ、林檎。林檎は結構前からこの新幹線に乗ってたんだよな?その時チケットの確認とかってされたりした?」


「え、えぇ。私は乗車してから数分くらい経った後に駅員さんが来て確認してくれましたよ。……も、もしかしてチケットないんですか?」


「人を無断乗車したみたいに言うな。ちゃんとあるよ。ご丁寧に式の分も含めてね」


そういってチケットホルダーにいれていたチケットを抜きとり、ヒラヒラと見えるように持つ。


青と緑の中間色くらいの微妙な色合いをした一枚のチケットには指定席の番号と、それを使う日時や目的地なんかが端的に書いてあった。


しかし、それは表面のみに限るようで裏面はというと黒い背景に白い文字でびっしりと注意事項らしきものが書き巡らされている。


こんなところにまで手をかけたところで誰も見はしないだろうにと、これに費やしたであろう労力にお辞儀をしたくなる。


さて証拠は見せたことだし、また戻そうかと上体をひねると扉の上にある電子掲示板が目に付いた。


そこにはちょうど『指定席のチケット確認がお済みでない方はお降りの際に再度チケットを確認させていただきます。スムーズな対応にご協力ください』とのことが記載されていた。


内容はなんともお上品に言ってはいるが、その真意はいつから乗ったんだ?どこまで行くつもりだったんだ?本当にこれうちの会社のチケットか?など手段選ばずの質疑応答タイムが発生しますけど良いですよね?だってこっちはちゃんと言ってますから。みたいな感じだ。


それにただの高校生が旅行でもないのに学生服を着込んで新幹線に乗っているというこの状況は正に疑いの目がかけられる絶好のシチュエーションである。


「…………僕ちょっと駅員呼んでくるよ。チケットの確認してもらわないと」


「待っていれば良いではないか。そもそも確認など向こうから来るものだろう?」


「いいの!ちょっと車内観光でもしたいな~位の意気込みなの!邪魔しないでよね!」


何故かオネエ口調になりながら僕は駅員を探すために、席を立ち上がり駅員探しの旅にでることとなった。


順調に行けば菊川まで残り30分位。


その間に駅員が必ずしも来るとは限らない。


その心配の理由として今日は乗客も平日でしかも微妙な時間帯ということもあり、あまり乗っていない。


つまりチケットの確認作業そのものにてこずることはあまりないのだ。


それなのにもう30分くらい放置されているということは、確認作業を忘れられていると考えるのが妥当だろう。


こんなところまできて変に問題事になるのは僕も嫌だし、なにより一心さんの名誉に支障を浸す恐れがある。


まわりまわって九神武衆をクビなんてことになったら椿に殺されかねない。


まあ、死なないのだが。


「う~ん……そういえば駅員って、いつもどこら辺にいるんだ?やっぱり運転席とか?」


あまりこういった乗り物に詳しくない僕はとりあえず運転手にでも話しておくかという軽い気持ちで、微妙に揺れ動く車内を歩き出す。


と、ここで先程飲んでいたアイスコーヒーがその利尿作用をフルに発揮して尿意を催させた。


これはグッドタイミングだとばかりに僕の目的ランキングは駅員探しが2位に、トイレ探しが1位にランクインした。


下腹部からの強張りを感じながら僕は車両同士の間に設置されたトイレを見つける。


さすが大型新幹線、乗客のことを考えてトイレも車両の間に必ずあるように設計されている。


鼻歌を歌いながら変にハイテンションな感じで、僕なトイレのドアノブに手をかける。


しかし、ガチャガチャと変な音がなるだけで開かない。


鍵がかかっているのかと思いドアノブ近くにある鍵穴をみるが、そこには今現在誰も入っていませんよという意味の青いラインが表示されている。


「なんで鍵がかかってないのに開かないんだ?建て付けが悪いとか?」


一応確認のため、トイレのドアを何度かノックする。


しかし反応は返ってこない。


「(壊さない程度にちょっと力任せにやれば開くかな?)」


ややバーサーカーじみたことを考えた僕は、少し強引に扉を引っ張る。


引っ張る段階でなにかおかしな感覚があった。


というのもどうにも建て付けが悪いというよりは内側からなにかに引っ張られているのに近い感覚だったからだ。


しかしながらそれを頭が解決するよりも早く、トイレのドアがようやっと開かれた。


ちょっと力任せになどと言ってはいたが結構力をいれて引っ張ったが、壊れて開いたとかではないだろうかと心配しながらトイレの中をみる。


すると、そこには不気味な模様が描かれた包帯のようなものを体全身に巻き付けられ、動きを完全に封じられた駅員らしき男の姿があった。


口にはガムテープが貼られていて、助けを呼ぶこともできなかったようだ。


くわえて、体に巻き付いている包帯の一部がトイレ内部のドアノブにもしっかりと巻き付いており、トイレのドアを外側から開かせないように駅員の体重をストッパー代わりに使っていたようだった。


これでは僕みたいに人体のリミッターがきれていないかぎり開けることは不可能だっただろう。


「お、おいっ!大丈夫か!?」


僕は急いで駅員に近づき口に貼られたガムテープをはがす。


呼吸さえギリギリだったのか、駅員は荒い息をして

息を整える。


その間に僕は体に巻き付けられた包帯をとろうとするが、これが不思議なことに巻き取れ無い。


まるで接着剤でもつけたように体から離れないそれに疑問を覚えるが、そこに描かれた不可解な模様から霊術の一種ではないかと推測した。


「それならこれで……」


そういって僕は左手に意識を向ける。


すぐに左手の甲に逆十字架の模様が浮かび上がり、狂乱の力の発動準備の完了を知らせてくれた。


僕はその左手を包帯のようなものに押し当てる。


すると左手が一瞬赤く光り、それにあわせるように駅員を縛り付けていた包帯のようなものが四散する。


狂乱の力によって法則性を乱され術として機能しなくなったのだ。


「(狂乱の力が発動したって事は霊術の類なのは確かだ……ということは術者の仕業か?でもなんでこんなことを…?)」


霊術を使えるからといって必ず魔払い師にならなければいけないという決まりはない。


それはつまるところ協会に属してしまえばなにかと制約が発生するが、フリーで行けば何にも縛られないということである。


協会に所属していないため仕事の善悪は問わず様々な事案が舞い込むフリーの術者は、こういったことを平気でやってくる。


だが、それをふまえた上でも駅員を捕縛するなど、その利点がよくわからない。


今の今までこの事に気づかなかったという点から、プロの仕業だというのは分かるが、それ以上は分からない。


ここで都合よく息も整い気持ちも落ち着いたらしい駅員が、顔いっぱいに脂汗を浮かばせながら僕の存在をようやっと冷静に理解し始めたようだ。


「はぁ……はぁ……あ、ありがとう。君が来てくれなかったらどうなっていたか…」


「それは良いんですけど、一体何があったんですか?」


僕の発言に辺りをきょろきょろと見回し、周りに誰もいないことを確かめた後、小さな声で僕に耳打ちしてくれた。



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