Blood1:吸血ノ少女 part9
僕のそれを聞いた小梅先生は視線を下に落とし、その表情はいくらばかりか暗くみえた。
もしかしてこれは聞いてはダメなものだったかな?と、自分の言動について反省し始めた頃。
「山葵ちゃん…クラスの中で孤立しているんですよ~」
やっぱりというかなんというか、返ってきた言葉は当然のごとく反応しづらいものであった。
「孤立……ですか?」
「はい~……。あ、でもでもいじめとかそういうものじゃないんですよ~。先生のクラスの子たちはウェルカムな子たちばかりですし、むしろ仲良くしようとしてるんですけど…その…なんていうか自分から周りと凄い距離を開けているようで~…」
自分から距離を開けている…という事は、まずそうなるきっかけがどこかであったということである。
それがこの学校でなのか、はたまた別の所でなのかは分からない。
が、しかしそうなってくると小梅先生が言っていた“クラス内でのいじめはない”というのも果たして一概にそう言い切れるかどうかは怪しいところである。
それこそ先生の前では良い子ぶって、実は裏ではとんでもないことをしでかしている輩などごまんといるのだから。
小梅先生は少し人を疑う必要があると思う。
「でも自分と同い年の魔払い師なんて滅多に近くにいるものじゃないし、それなりに目立つ存在ではあると思うんですけどね」
「いえそれがですね~…実は山葵ちゃん、自分が魔払い師だっていうことを隠していたんですよ」
「は…?隠していた?学校側にもですか?」
いえいえ流石に先生は知ってましたよ~、と小梅先生は座っている椅子が高いのか自分の足をプラプラと振り子のようにせわしなく揺らしながらそう言った。
「山葵ちゃんが三週間前位に転校してきたことは知ってますか~?」
何度か会っているなかで、そういったことも本人の口から聞いて知っていた僕は頷き一つで返事をする。
「転校するにあたって、本来であれば転入試験を受けてもらわなければいけないんですが~、魔払い師だけはお仕事の都合とかもあるので特別に無条件で転入することができるんですよ~」
それだけを聞けば随分とお高い身分だなと思うかも知れないが、実際はそうではない。
世界中の魔払い師を統括、管理している国際魔払い師協会…通称【協会】は魔払い師個人の生活をあまり問題視しない強引なやり方を用いることで有名だ。
それもあってか転々と各地を回らせられることもある魔払い師達は、だからこそ何かと色々な場面で特別待遇をうけているのだ。
そう考えると転入試験の有無くらいをどうこういうのも、何だか小さいものに感じてくる。
「でもでもそれには協会から特別な書類をもらわなくてはいけなくてですね~、山葵ちゃんもそれは例外ではありませんから提出してもらったんですよ~」
「ふーん…だから先生方は鈴山さんが魔払い師だってことを知っていたんですか」
「そうなんです~。ああ、そういえば~その書類提出の時もなんだか凄くてですね~」
と、小梅先生はなにかを思い出したらしく、それから記憶をたどるようにして言葉を発していく。
「書類だけをもらえれば良かったんですけど~、なんと協会本部の上層部の方が直々にここまで足を運んでくださって~、そのまま直接書類を手渡ししてくださったんですよ~。ね、凄いでしょ~?」
「凄いっていうか、にわかには信じられないんですけど……」
協会の本部はイギリスの首都、ロンドンにある。
そこには“九神武衆”と呼ばれる協会本部の護衛と管理を任された上層部九人の魔払い師がおり、小梅先生が会ったというのもその内の一人なのだろう。
しかし、前述でも述べたように協会は魔払い師個人の生活など特に気にかけない効率最優先な思考をもった集団だ。
それなのに、わざわざ1魔払い師のためにイギリスから遠路はるばる日本までやってきて、更には生活するための準備までやってくれるとは……正直いって不可解極まりない。
「先生もおかしいな~とは思ったんですけどね~。そういえばそこで付き添いの上層部の男の人に山葵ちゃんが魔払い師だということを伏せておいてくれって言われたんですよ~」
「伏せておくようにって……何か理由でもあったんですか?」
「それがさ~っぱりなんですよ~。唯一分かるとしたら、その男の人がド派手なロングコートに手袋をしていてまるで真冬みたいな格好だったってことくらいですかね~」
「もうそれ鈴山さんのことじゃないよね先生」
僕のもっともな指摘に、あっははは~と呑気な笑い声をあげて軽く誤魔化す小梅先生。
チェックすべきポイントが的外れなのにも程がある。
というか、そのロングコートを着ていたという人も多少は季節感をだしてほしいものである。
まさか九神武衆とは、そんな変人だらけの集団なのだろうか?と、思わず世界トップクラスの魔払い師様方を偏見のまなざしでみてしまう。