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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood6:傲慢ナ頼ミ part8

以下、博識ナ女ノ口上劇。


さて話を聞く準備はできたかな?


なに?その前に今の状況を説明してくれだって?


おいおい…説明をするもなにも既に君は答えを知っているじゃないか。


ご丁寧にご提示されているじゃないか。


おや今ギョッとしたね?君の顔からサーッと血の気がひいていくのが容易に想像できるよ。


君が思った通りそこにいるのは正真正銘、九神武衆が一人【華】を司るやり手コンサルタントこと津雲 一心その人だ。


あははははは!そんなに謝ることもないだろうに。君の言うことももっともだよ。突然自分が神だと言う存在が現れたとしてそれを正直に信じる方がおかしいからね。


嘘はいけない。けれどそれを見極める目は養っておくべきだよ。君は良い目をしているんだから。その名に恥じぬ良い目を雑に扱っちゃあいけないよ。


おいおい、あまりコクリコクリと頭を垂れるものじゃないよ。


君の将来の就職先は赤べこかなにかかい?


ああ、そうだ春斗君。申し訳ないけれど良ければスピーカーをつけた状態にしてもらって私も二人の話の中にいれてはくれないかい?


安心してくれよ。私は君と違って場違いな行動や言動はしないよ。なに、余計なことを言わないか心配だって?


それは他人を巻き込みたくないということかな?


相変わらず君は知り合いに対しては滑稽なまでに気を張り巡らせるねぇ。


今回に関していえば大丈夫だ。そこは保証しても良い。


というのも今回の適役者は君なんだから。


誰かを追加で投入なんていうことにはならないさ。


まあ勝手についてくるとかイレギュラーなことを向こう側がしてこなければの話だけどね。


私は何でも知っているけれども、その知っているとおりに事が進まないことはもちろんある。


それこそ君のようにアグレッシブな年頃の男の子なら特にね。


ほら、そろそろ君の前にいる彼も混ぜて話をしようじゃないか。


え、スピーカーモードにして話に私をいれても良いかを聞いてもいいか、だって?


………………………………………………………沈黙は肯定の他に別の意味合いが含まれているって知っているかい?


以上、博識ナ女ノ口上劇終演。


僕はリリーさんの言うとおり携帯のスピーカーをONにしてそれを机のちょうど真ん中、僕と一心さんの中間に位置する場所に置く。


僕の突然の行動に一心さんは最初理解に困った顔をしていたが、そこから発せられた声に全てを理解する。


「やあ、一心君。津雲 一心君。九神武衆の中でも全ての経営管理を行っている優秀な一心君。君がそろそろ来るだろう事は知っていたよ」


「………………お久しぶりですリリー=カルマ様。私のような者の名前を覚えていただき誠に光栄です」


そういって一心さんは別に本人が見ているわけでもないのに携帯に向かって一礼をいれる。


リリーさんがコンサルタントとか経営管理とか言っていたし、この人はそういうお堅い役職の人でこういう礼儀作法が癖になっているのかもしれない。


人を信じなかった僕が礼儀作法どうこうを説くのもさてどうなのかということになるので、ここは静かに言葉を飲み込んでおくことにする。


「相変わらずお堅いねぇ。そんなんだから部下達から怖い怖いと避けられるんだよ」


「そ、それは……あまり知りたくなかったことですが、貴重なご指摘ありがとうございます」


いやいや、この場合はそうじゃないだろう。


自分を軽くけなしていることに、ありがとうございますとはこれいかに。


まだ僕が若く考え方も青臭い子供だからかもしれないが、そこは感謝の前にちょっとした嫌みの一つや二つくらい言い返してやるべきではないだろうか。


上下関係の激しい大人社会は僕にはまだ居心地の悪いものである。


「君がこの街に来ることもその理由も私は知っていたからね。私としては少しでも君の負担を減らそうと、それこそ相手が自分の友人だとくれば先に事情を話しておこうとしたわけだ。律儀に、健気に、友人としてそのための電話をかけたわけだが……」


「ちょちょ、ちょっと待ってよリリーさん!それはあなたが非通知でかけてきたのが悪いと思うのは僕だけでしょうか!?」


「どうせ私の名前で堂々とかけた所で君は由佳奈ちゃんとのイチャイチャタイムに呑気に浸っていただろう?そもそも彼女に電話をしていなかったらこうして一心君との対談も君は携帯の電源をきっていたから気付かなかっただろうし一心君にも迷惑がかかっていたんだよ?感謝をされる筋合いはあってもそれに文句を言われる筋合いはない」


どうにもリリーさんに押し切られた感があるが、彼女の言うことはもっともだし、確かにそんな恨みしか与えないような未来にならなくて良かったと安心している自分さえいる。


なんだか申し訳なくなり一心さんに目をやると、ああ……と妙に今の会話からなにかを納得したようで分かる分かるとでも言うような顔つきで僕の方を見て二、三度うなずく。


その行動に若干の苛立ちを感じるがそれもこれも僕が一心さんを頑なに信じなかったのが原因だ。


どうやらこの人の僕への印象は早とちりの多いドジっ子少年(笑)になっているみたいであった。


否定できない自分の愚かさがなんとも心苦しく同時に憎らしくもあった。


そんな己の生み出した負の感情と戦う僕をしりめにリリーさんは話を進めていく。


「それじゃあ話とやらをしておくれよ一心君。私にではなく目の前にいるおっちょこちょいな可愛い私の友人に」


「はっ、それでは失礼して………春斗君。私が君をここに呼んだ理由というよりはどうして君との接触を試みたかというところから話していこうと思う」


一心さんは失礼、と言ってからスーツの上着を脱いでそれを近場にいた式の一人に渡す。


今日はやや湿った空気が外を覆っている。


恐らく今の今まで暑かったのに無理をしてあの暑いスーツを着ていたのだとすると、つくづくバカ真面目な人だと失礼ながら思ってしまう。


上着を脱ぎネクタイも緩めて完璧クールビズ状態へと仕上がった一心さんは涼しげな顔で口を開く。


「まず私がこの街に来た理由は先月あたりに起きた大型合成魔事件で崩壊した九頭宮の復旧を一任されたからだ。本来こういう仕事は部下がやってくれるんだが今回は勝手が違っていてね。私自ら出向いたというわけだ」


「(………これもクラウドジェリーとかの調査と関係があるのか…?)」


由佳奈から聞いた最近になって調査の結果が出たという話。


それはクラウドジェリーは誰かが改造した疑惑がある合成魔、もとい合体獣として上に報告されたと。


恐らく一心さんはそれを確かめるために復旧という建前で現場であるこの街にやってきたのだろう。


しかしそこは追求するべきところではない。


彼ら大人の事情というのもあるのだろうし、なによりあの事件についてなんらかの進展があればそれに越したことはないからである。


「それで……それと僕になんの関係が?」


「復旧作業といっても私がすることはそれにあたっての経営管理だからそれに関しては早く終わるだろう。だが私もこれで忙しい身分でね、この仕事が終われば今度はすぐにロシアに行ってまた別の仕事をしなければいけないんだ」


けれど、と一心さんは両腕を組んで困ったような顔をする。


「つい最近それに被せるように本部から直々の任務が届いてね。内容に関しては現物を見てもらった方がなにかと分かるだろう」


そういって一心さんは鞄の中から一通の封筒を取り出す。


手紙でもはいっていそうな白い封筒に協会本部からの任務だと分かるように、シンボルマークでもある月桂樹の葉とそれを咥える鳩の焼印がしっかりとおされている。


手紙は既にあいていた為、特に気をつけることもなく封筒から一枚の紙を取り出す。


そこには任務の詳細がびっしりと記されており、一見すれば何のこっちゃな部分も多々あるが要点だけをまとめてみればそこに記されている内容はおおまかだが理解できた。


「ようは菊川にいる記録の巫女とやらが最近何者かに命を狙われていて、彼女は昔から協会ご用達の存在で死なれては困るから護衛兼犯人の確保ってことですか?」


「本当に要点だけまとめて言うね……まあ、長々と書いてはいるが結論だけ言えばそういうことだから間違いではないけれど」


僕は手紙を一心さんに返してから、結局何故僕を今回この場に呼んだのかについて質問をする。


「ああ、それなんだが記録の巫女が所属している言の葉寺は魔払い師禁制……というか霊術を使う者をいれないようにしているんだ」


「それはどうしてですか?」


僕のその質問にしかし答えを提示したのは博識な女だ。


「言の葉寺は元は飛鳥一族という一族が陰陽師の生業をしていたのが始まりでね、腕はあったがなんでも暴力で解決するその傲慢なやり方から周囲の同業者とのいざこざはもちろんのこと気性の荒い奴らが集まってるっていうのもあって内部抗争も激しくてね。武器を取り上げても霊術使って大暴れなんてのはざらにあったんだ。それを良しとしなかった三代目頭首は寺の境内に大規模な結界を張ったんだ。この結界は霊術の使用を一方的に遮断するものでこれにて戦争時代は幕をおろしたってわけさ」


「それに更に磨きがかかって一昔前から霊術を主として活動する魔払い師は戦争の火種になるからと一方的に拒絶されているんだ」



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