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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood6:傲慢ナ頼ミ part3

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授業も終わりおじいちゃん先生からの説教もキチンと聞き流した後、僕と由佳奈は放送部へと足を運ばせた。


しかしながら僕の歩みは重い。


というのも今回はただの娯楽に興じるための放課後ではなく、れっきとした部活動を行うためである。


その証拠に部長の由佳奈は分厚いファイルを参照しながら別部屋に置いてある放送機器を使う為やたらと長い申請書を書き、僕はといえば参考資料として由佳奈がピックアップした映像フィルムやらDVDやらがたっぷりと収納された段ボール箱を引っ越し業者のごとく部室に運んでは戻り運んでは戻りの永遠ループを繰り返していた。


「むしろ今までが何事もなさすぎたんだよなうちの部活は」


今まで平穏に過ごしてきた読書やらゲームやらといった満喫タイムを振り返り、それがむしろよくもここまで特に指摘されることもなく許されてきたものだなと不思議に思う。


それは財前 由佳奈という一種のブランドが掲げられていたことが教師陣から指摘することそのものを考えさせなかったというものが大きい。


やはり名の知れた名家はどこへいっても王様気分な特別扱いなのである。


「お~い由佳奈~これで言われたものは全部持ってきだぞ~」


部室の扉を両手が塞がっているため手ではなく足を器用に使って開けながら僕は我が女王に報告をいれる。


そこには既に使用許可もとれ、項目リストにチェックをいれパソコン片手に文章を入力するスーパーエリートの姿があった。


「ん、ありがと。後はそこに置いて休んでて良いわよ」


由佳奈は僕に対して感謝の言葉をかけた後、しばしの休息を与えてくれた。


帰って良いわよ、と言わない辺りどうやらまだ仕事は残っているようだ。


とはいえ簡単な肉体労働なだけで他は対して疲れもしていない僕は、由佳奈が持ってこさせた箱の中から手近にあったDVDを引っ張り出し、それを部室のテレビで見ることにした。


どうせ後で見ることになるのならという浅はかな考えで適当に眺めてみる。


僕らが今取りかかっているものは、ここから新幹線で大体1時間程度のところにある菊川という街で行われる予定の言の葉祭りの紹介動画を作って欲しいと言われたからである。


言の葉祭りとは街の人総出で作り上げる大規模なお祭りで毎年大盛況の夏にはいって初めてのお祭りのことである。


なんでも最近若者の数が急激に減っているようで、カモンヤングボーイヤングガール!菊川はこんなにグレイトな場所だぜ!?特にメインはこれ!言の葉祭り!さあさあ興味がわいたら住んでみよう!的な安易な発想から今回の件につながったというわけだ。


もともとうちの学校はそういったボランティア精神を重要視しており、つまりは校長命令で僕らに矛先が向けられたという簡単なお話である。


そういうわけか由佳奈が持ってこさせた動画は過去の町おこし動画や名産の紹介動画などといった大変興味のきの字もそそられない退屈なものだった。


「……こんなジジ臭い動画とかばっか作ってるから若者も減ってくんじゃないだろうか…?」


「そんなこと言って、若者向けのハイカラなものでも作ってみなさいよ。頼んできたおじさまおばさま方は納得できずに突き放すだけよ」


それだと結局若者向けではなく、年寄りを納得させるための動画づくりとなってしまうため正に本末転倒なのではないだろうかと考えてしまうが頼んできた本人達が納得するのであればそれでも良いかと変に納得する僕。


テレビに映し出されている名産茶渋まんじゅうとやらを見ながら、頬杖をついてだらけた格好をとる。


そんな時にコンコン…と軽くノックをする音が部室にこだまする。


僕はそれに反応し扉を開けにいこうかと思ったが、由佳奈が勝手にどうぞ~と簡単かつ適当なお出迎えをしてしまった為に再び頬杖をつき直すだけにとどまった。


「失礼しまーす…あ、由佳奈先輩。お疲れさまです」


扉を開けて早々かしこまった挨拶をするのは先ほど話に少しあがった僕の新しい友達こと後輩の鈴山さん。


最早ここが高等部だということに恐怖はないのだろうか。


由佳奈は仕事に意識を集中させているらしく、片手を軽くあげるとすぐさま作業に戻っていった。


なんだかゲームばかりしている普段とのギャップがあまりにもあり、これから隕石の二つや三つくらい落ちてくるのではないだろうかとつい思ってしまうバカな自分がいた。


「先輩、由佳奈先輩は今なにをしているんですか?」


「ん、あれは校長から頼まれた仕事をしてて……っていうか僕も仕事をしてないわけじゃないしそもそも僕に対してのねぎらいの言葉というか挨拶が雑過ぎやしないかそこの中学生?」


僕のジトっとした視線に、えへへへと軽やかに笑ってみせる鈴山さん。


明るくなったのは本当に良いことなのだが、どうにも僕に対しての反応が他の人とは違う気がしてならない。


恐らくこの子は仲の良い人ほど、がさつな対応をしてしまうタイプの子だ。


血液型診断風に言えばO型によくみられる傾向である。


「それで今日はどうしたの?」


「はいっ!実は最近こんなものを見つけまして……」


なにやらゴソゴソと持ってきた自分の鞄の中身を漁る鈴山さん。


やがてそこから一冊の本を取り出す。


「これですこれ!絶対に当たる未来診断って本なんですけど……っ!」


「ガセだな」


「ガセね」


「まさかの被せがひどい言葉!?」


鈴山さんの持ってきたもう色々とつっこみたい内容の本に思わず仕事中の由佳奈でさえ反応をしてしまう始末。


ここ最近良く一緒にいて分かったことなのだが、このゆるふわ中学生。


占いだとか血液型診断だとか相性占いだとか、なんとも確証性のないものを極度に信じハマる癖があるのだ。


魔払い師として、そこらへんのガバガバな考え方は果たしてどうなのだろうか?


もしかすると変な宗教団体にハマったりしないだろうか?とつい心配してしまう。


「そもそも占いってどうやって占ってるわけ?ラッキーアイテムが紅ショウガとかなに?僕らはお好み焼きかなにか?」


「そ、それはきっと水晶の導きで……っ」


「あ~私も今日ニュースで占いあったわよ。四位で車に注意、ラッキーアイテムはティーパックだったわね」


「奇遇だな僕も何故か四位だ。同じ星座でもなにのに不思議だな。ちなみにラッキーアイテムは竹トンボだったぞ」


「お二人ともバカにしすぎです!!」


鈴山さんいじりも仲良くなった証拠というわけで僕は笑顔でその光景を堪能し、由佳奈も由佳奈で満足げな表情でデスクトップに意識を向けなおす。


僕は悪かったとお詫びの印として冷たい麦茶をコップにいれて鈴山さんに渡した。


「由佳奈はコーヒーの方が良い?」


「うん……いつものでお願い」


仕事で頑張るうちの女王のために僕はいつも由佳奈にいれているコーヒーを慣れた手つきで作っていく。


味は濃いめに砂糖やガムシロップはいれずミルクを一回しして軽くかき混ぜてから渡す。


「はいよ」


「ありがと」


流れ作業のようなこのやりとりを目の当たりにした鈴山さんは、なぜか不服そうな顔をして麦茶を口にする。


どうしたのだろうか、コーヒーは苦手だというのは知っていたがまさか麦茶も苦手だったのだろうか?


今度は無難なオレンジジュース辺りでも用意しておくかと頭の片隅にメモをとる。



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