Blood5: 狂乱ノ力 part20
「【妖術:紅凜華】!!」
鬼の一声に紅蓮の演舞が華々しく荒れた地を舞う。
それはひなげしの花のごとく鮮やかで儚げで妖艶な輝きと様相を僕の瞳に映しあげる。
顔に当たる熱気を避けることもなく僕は己の式の術をただ見守る。
ただ見守るということに関していえばなんとも男として生まれた者にすれば不甲斐ないことだとは思うが、それでもやはり適任者というものはどこの場面にも存在するわけで、それこそ今回の場合は天子というぶっちぎりパワーの鬼の頭領が採用されたと、そういうことである。
僕には僕の僕でしかできない僕ならではの場面がやがてくる。
そう電話の主は語りかけた。
蹂躙する炎の巻き起こす轟音の中を、スラリと透き通るソプラノボイスが僕の背中を後押ししたのだ。
ズボンのポケットにしっかりとしまいこんだ携帯の感触を、そんな記憶と共に思い返し確かめる。
僕らが今やっていることは自分たちで考えたものでは当然なく、全て全知無能な彼女の策である。
さて、それでは果たしてなにをしているのか?
答えはいたって簡単街を壊しているのだ。
そう、リリーさんが先に言うよといった結論通りにこの街は現在進行形で僕らに破壊されているのである。
といってもそれは別に街そのものを破壊しているわけではない。
博識な女が言った壊すとは即ち、街の電気回路全てを壊すということである。
そもそもクラウドジェリーは電気を媒体にして巨大化しているというのは言われなくとも素人の僕だって容易に見当はついた。
現在街の電気系統全てが使用不可能になっているのは別に回路が断線したわけではなく、この巨大合成魔クラウドジェリーが供給されるはずの電力を驚異的な吸引力で自分の方へと全てひっぱっているからである。
それにより成長は促進され、更に広範囲の合成魔を呼び寄せることにつながる。
正に負の無限ループのようにそれは働きかけているのだ。
さて、それをどうするかと問われればこのループを断ち切るためにも先程述べたように街の電気回路全てを断線させるほかない。
しかしながらいちいち街の端から端までそんなことをしていては手遅れこのうえない。
ならばと博識な女は僕らに知恵を授けた。
そう、街の電気回路全てを切るのではなくサンライズタワーそのものをその枠組みから孤立させれば良いのだと。
つまり僕らが今やっていることはサンライズタワーの地盤を焼き切り、離れ島のように独立させ全てのエネルギー供給を断ち切るという離れ技と呼ぶにはいささか強引な手段とよべる。
被害をもって被害を制す。
荒行時かと思うがこれに勝るものはないだろう。
「春斗様っ!衝撃に耐えてくださいっ!」
天子の忠告に従い僕は近くにあった我が家の壁よりも弱々しげなヒビはいった電柱にがっしりとしがみつく。
そこらのセミなんかよりもセミっぽいつかまりかたで無様な様だが、それでもしっかりと式の忠告に従う。
互いを信じ合ってこそ式とその主たる者の真価は発揮されるのだと、昔言われた言葉を思い出す。
そこで一瞬思考がフリーズした。
というのも爆発的な衝撃と閃光が間近にいた僕には耐えるどうこうの前に、もろに全身にぶち当たりそのせいで意識を朦朧とさせたからだ。
強引なシェイクに頭が揺さぶられ、視界も聴覚も細かく言えば嗅覚でさえまともに機能しなくなる。
あれほどしっかりとしがみついていたのに頭を強引に揺さぶられたことにより力が入らない。
「がっ……ぐっ…あぁぁぁぁぁぁっ!?」
叫び声だけは一級品でも、それに伴った成果は微塵もでていない。
そのまま遠くに吹き飛ばされた僕は衝撃の向きがうまくいったようで、そのまま瓦礫の山へとダイブし事なきを得る。
そして莫大な砂煙がその後に引っ張られるように巻き上がり、一切の視界を遮る。




