Blood5: 狂乱ノ力 part19
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「殺す殺す殺す!絶対に!絶対的に!無限大なまでに殺すぅぅぅぅぅっ!!あぁぁぁぁぁっ!殺したい!今すぐに殺したいよぉぉぉぉぉっ!!」
まるで幼子が欲しい玩具をねだるような感覚で、しかしその内容は非常にバイオレンスなものでもうなにがなんだかよく分からないというのがヴェイリスの結論であった。
金属板を強引に張り付けただけのファンキーな屋上の床にゴロゴロと転がりながら手足をジタバタさせ耳にくる騒音ボイスの大合唱というオプション付きの少女の世話にいちいちまともな思考回路で相手をしていてはこちらの身が持たない。
そもそも自分はとっても優秀なクール美人で秘書とかやらせたらもう全世界の社長共をただの財布にすることができるぜ的な立ち位置を据えているので保護者丸出しの説教はなにかとキャラにあわない。
そんなわけでヴェイリスはいたってクールに自身の金髪を手で後方になびかせた後、そのまま未だに騒がしく暴れる少女の横に腰をおろし…。
「じゃかましいわこのド腐れ拡声器がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ギャォォォォォォォォッ!?や、やめろ!やめろよこのクソババァ!いや、違っ!?あいててててててっ!待っ、こめかみを集中的にグリグリすんのやめてぇぇぇぇっ!!」
彼女なりのクール(?)な対応で騒がしいお客様は文字通りただの屍のごとく静かになられたようで、心なしかヴェイリスの顔つきも穏やかになっていた。
「……ったく、なんで私が。このエリートな私が。あんたなんかのおもりをしないといけないのかしらねぇ。そもそもガイルもガイルよ、なんでこの私がこんな田舎くさいところでただ黙って観察なんて……そもそも……ブツブツ……」
日頃の鬱憤がたまっているのだろう。
エリートというよりはどちらかといえばOLの方が見る分としてはしっくりくる。
なにやらぶつくさと日頃の恨みやら妬みやらアメリカのゾンビ映画なんかよりも、もっといろんな意味でドロドロしてきたところで、こめかみ負傷中のただの屍(仮)が目を開けた。
「いっててて……ちょっとちょっとヴェイリス!いくらこの僕がかわいいからって、あんな直接的な暴力はないでしょうが!お前も女のはしくれなら少しは女らしく言葉の暴力で攻めてこい~~っ!!」
「…それって口に出しちゃったらなにかと本末転倒なんじゃないの?あんたの会話にあわせて言うと主に女子力的な問題で…?」
「はっはーん!僕はまだ子供だからね!子供はなにをしたって許されるのさ!大人だって僕を殴ったらすぐさま牢屋のホテルへご案内だからね~!」
ちょっとこの世の中は子供に対して教育面やら法律面やらでなにかとガバガバすぎやしないかと少し心配になる。
そんな狂言めいたことをいうのは同じく金髪のDDという名の色白な少女。
DDというのは本名なのかあだ名チックなものなのか、はたまたスパイ映画よろしくなコードネームなのかはヴェイリスもよくは知らないが、とにかく彼女がDDという名前のちょっとばかり“人を切り裂くのが趣味”な性格も態度も痛い少女だということだけ分かっていれば良いと納得している。
「と・こ・ろ・で~っ。そろそろなんかあった~?主に血飛沫ぶしゃー方面のやつで☆」
開始早々ぶっ飛んだ会話をし始めるDDはやたらとぴょんぴょん飛び跳ねながら屋上から周りを見渡す。
そこには街としての機能を殆ど失いかけたコンクリートジャングルが所々から煙を上げ、火を巻き上げながらなおも存在する汚れた世界が広がっていた。
街のシンボルマークのような巨大なタワーも今となっては変なゼリーの固まりみたいなのが独占しているわ、ちょっと下に目をやれば妖怪大行進みたいな状態になってるわでとてもDD好みのバイオレンスなど世界になっていた。
「そんなに切りたいんなら下の田舎者達でも切ってきたら?もれなく汚くなって帰ってくることになるだろうけど」
「いやいや違うよヴェイリス。僕が切りたいのは人なの!真っ赤な深紅な鮮血達が僕の好みなの!あんなゴミなんてどうせ緑とか青とかでしょ?絵の具かよっ!ペンキかよっ!そんなのいらな~い」
やっぱりサイコパスの考えは分からないと首を軽く左右に振って、もうどうでも良いよと反応を示すヴェイリス。
その考えが分かったところで、その域まで達した時には自分も最早サイコパスの一員になってしまうからである。
「まあ動きがあったといえばあったわよ。ほら、あそこに大きな蛇いるじゃない?多分あれガイルよ」
「うえぇぇぇぇっ!?ガイルってばクラウドジェリーだけじゃなくって蛇骨も貰ってたの!?ずるいよずるいぃぃっ!!僕もあれ欲しかったのにぃぃっ!」
と、またまた床でジタバタと転げ回るDD。
それを冷めた目で見ながらヴェイリスは面倒くさげに声を出す。
「あんなのもらってどうすんのよ。あれってばまだまだ改良しないと役に立たない、それこそ下にいる田舎者となんらかわりないただの兵器もどきじゃない」
「ユニ兄様の作品にケチつけるなんて随分とえらくなったねヴェイリス」
「ケチじゃないわよ助言、アドバイスと言ってほしいわね。それにガイルだって実験サンプル目的で使うようにいわれたんならユニ兄様だって同じ気持ちのはずよ」
自分への非難を軽々と受け流し、話の論点を自分から他者へと移す辺りDD同様に良く口が回る女である。
「とにかく、ガイルが動いたってことは博識な女に辿り着く手がかりになりそうな奴でもいたのか、それとも本人が送り込んだ手駒とでも戦っているのかどちらかでしょうね」
「博識な女本人ってことはない?クラウドジェリーを用意したのだってもとは街の機能を停止させて下にいるゴミ共を集めるためでしょ?こんなにたくさん集まったんだから被害もそれなりだし、正義をモットーにしてる博識な女が怒って出てきてもおかしくはないと思うけど」
「それこそないでしょ。そもそも彼女にはそれが分かっていたんだから。それに分かっていたのに警備隊やら魔払い師やらを設置してない辺り今回は自分が出る必要もないと思ったんでしょうね」
それに、博識な女相手に実験サンプルで相手どるほどガイルは馬鹿じゃないしねと付け加える。
「とにかく私たちがやることは変わらないわよ。博識な女の手がかりになりそうな奴を見つけること。本人が来ないなら恐らく奴の手駒が事件の解決に奔走してるだろうからね。そこをつく」
「っていっても魔払い師達もチラホラ集まりはじめたみたいだし、誰が手駒なんだか分かりにくいね~。もういっそのこと全員切っちゃおっか?」
「そんなことしたら余計分かんなくなるでしょうが。見極めるのは簡単よ、なんの支障もなくクラウドジェリーにたどり着いた奴で決定よ。それに……」
ヴェイリスが話の続きを口にすることはなかった。
なぜならそれを遮るように肌にビリビリとした衝撃を与えてくる巨大な振動と、それに伴う爆音が街全体を覆うように轟いたからである。
「ちっ……なによ今のバカみたいな揺れは?」
DDのわがままボイスよりも遙かに凄まじい騒音に両手で両耳をおさえながら周囲を見渡すヴェイリス。
そしてその原因はすぐにわかることになる。
「ねえヴェイリス。クラウドジェリーってあんなに低かったっけ?」
DDの言葉にあわせるようにヴェイリスは視点をクルリと変えて、サンライズタワーの方へと急いで目をやる。
するとそこにはそこらのビルよりも遙かに巨大だったクラウドジェリーが、一気にビルの半分くらいの高さになっているという異常な光景が成り立っていた。
「………やっと動いたか、クソ女…!」
DDとヴェイリスはお互いに頷きあい、そのまま屋上から飛び降りる。
全ては己の兄のために。
そして博識な女を手に入れるために。




