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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood1:吸血ノ少女 part7

______________


午後の授業も半ば消化試合のような感覚でのりきった僕は、現在一人きりで放課後の放送部の部室にて優雅なティータイムを過ごしていた。


ティータイムといっても単に喉が乾いたので部室の備え付けのポットを借りてコーヒーをいれただけであって、果たしてそれが優雅でもっといえばティータイムとよんでよいものかと自分で疑問に思う。


しかし、今日はなかなか珍しい日である。


というのも、いつも放課後の暇な時間をこの部室でのんびりと娯楽に興じていた仲間がいないということにある。


財前 由佳奈。


彼女は何だか今日は用事があるとかないとかで学校が終わるやいなやすぐさま教室をあとにした。


ゲームにしか興味のないあの面倒くさがり屋の由佳奈が自分の娯楽タイムを削ってまでやらなければいけない事があるとは…きっとよほど無視できない大切な用事なのだろう。


という感じで僕はこのように部室で一人ポツンとコーヒー片手に読書に興じていたのだ。


「……だめだ…読書に面白みを感じない……」


いつもであれば楽しみの一つでもあるこの放課後の読書タイムも、なんだか今日ばっかりは今一つといった感じになっていた。


別に本のチョイスを間違えたとかではなく、単純に本を読む意欲が普段に比べて低いのである。


「やっぱりこれも鈴山さんのことがあるから……だよな、やっぱり」


なにをするにも意欲がわかない。


原因は自分勝手な行動で鈴山さんを心身ともに傷つけてしまったことを、とても反省しているから。


けれどもどうしたら許してもらえるかが分からないので、バカ正直に謝りにもいけない。


と、直ぐ行き詰まる僕であったがここで昼に由佳奈に言われたことを思い出す。


「考え方の方向性……かぁ」


結果だけでなく、そこに行き着くまでの過程を考えること。


ようするに鈴山さんの気分を害したという結果だけでなく、どうして気分を害したのか?という理由を考えれということだ。


だが、しかし。


「……ダメだ。全く思い浮かばない」


昼休みが終わった後もずっと考え続けていた僕であったが、しかし相変わらずこれといったものは思い浮かばず結果として最初と何も変わらないという状態が続いていた。


こんなに考えても思い浮かばないということは、もしかして本当に僕の脳が記憶を好き勝手に改ざんしたのではなかろうか。


まさか先ほど冗談半分で口にした欲望に満ちた哀れな発言が事実だった…とか?


いやいやそれはない、と強く否定することも今となっては少々厳しい感じである。


「これはもう本人に直接聞くしかないか……」


考えても考えてもわからないのであれば、その答えを唯一知っている本人から直接聞き出すしか方法はない。


このまま何も思い浮かばずに、ただただ時間を無駄に浪費させていては正しく本末転倒だ。


そんなことをするくらいなら、許してもらえるまで頭を下げ続けたほうがよっぽど良い。


そう判断した僕は時間の経過に従って熱がすっかり抜けてしまったコーヒーを一気に飲み干し、手に持っていた本を薄っぺらい学生鞄に突っ込んで部室を出ようとした。


僕が廊下に出ようと部室のドアノブを握ろうとした、その時。


ガチャリと僕より早く誰かが外側からドアを開けたのだ。


突然開いた扉の先には、僕の約半分くらいの身長の小さな女教師がいた。


まるで染めていないきれいな黒髪をツインテールにした幼い容姿に幼い体型といえば、それが我が校きってのロリ教師ことたちばな 小梅こうめだということを、ここの学生である僕はすぐさま理解することが出来た。


「久しぶりです~。ちゃんと元気にしてましたか~春斗君~?」


ただでさえ幼い見た目なのにも関わらず僕の前にたたずむロリ教師は、これまた幼さを感じさせる話し方とソプラノボイスで僕の名を呼ぶ。


全ロリコンが目の当りにしたら大いに沸くこと間違いなしの小梅先生。


彼女はこの学校の中等部の教師で、かくゆう僕も中学3年生の頃に一度お世話になった人だ。


高等部にあがると交流することは滅多になくなり今僕は高校2年生なので、約2年ぶりの再会となる。


2年もたったというのに一ミリも変化のない背丈を不思議に思いながら僕は言葉を返す。


「変わらず元気にやってますよ。先生も昔と変わらないようでなによりです」


「むむっ……それは身長のことを言っているのかな~春斗君~?まったくデリカシーの欠片もない子ですね~」


と、身長のことを言われてやや不機嫌な表情をみせる小梅先生。


この人が本当に自分より年上なのか、何年もたっている今でさえ未だに信じられない。


「しかしどうして高等部の放送部なんかに?もしかして機材を借りにきたとかですか?」


「いえいえ~違います~。私は貴方と話をしに来たんですよ~春斗君~」


「え……僕に?」


「そうです~。あれれ~?もしかしてもう帰ろうとしてましたか~?」


「いや、別に今すぐ帰らなきゃいけないってことはないんですけど……それよりも話って?」


「まあまあ~。つもる話もありますから中で話しませんか~」


そう言って、やや強引に部室に入り込み自分が座る席を先どって陣取る小梅先生。


そんなことをされたら僕も帰るに帰れないではないか。


僕は手に持っていた鞄を再び机の上に置き、それからさっきまで座っていた椅子にまた座り直す。


「それで話ってなんですか?」


「はい~、実は先生の担当しているクラスの子についてのことなんですけど~」


小梅先生の担当しているクラス…というとたしか中等部の2年1組だっただろうか。


そこのクラスの子が一体どうしたというのだろうか?


というか、僕にどのように関係するのだろうか?


「鈴山 山葵ちゃんっていう女の子なんですけど~。春斗君~知ってますか~?」


小梅先生の口から出たその名前に、僕は大げさなほど大きな反応をみせる。


まさか昨日の僕の行いがもう学校中に噂となって流れては大きな問題になっているのでは。


そう考えただけで背筋を冷たいものが通り抜ける。


「春斗君~?聞いてますか~?」


「す、すすす、すみませんっ!あれは僕の浅はかな考えが原因で……!」


「うにゅ?なにを謝っているのですか~春斗君~?私はただ山葵ちゃんを知っているかどうかを尋ねただけですよ~?」


「………へ?」


なんとも気の抜けた声がでてしまった。


小梅先生の本当になにを言っているのか分からないといった表情をみるに、どうやら僕の単なる思い過ごしだったようだ。


寿命が縮む思いをわざわざする必要はなかったということか……いや、そもそも死なないから寿命なんてものはないんだけれども。


「春斗君~、それで先生の質問には答えてくれるんですか~?」


「あ、はい!会って話をしたことが何度かあります!」


僕のやや混乱気味の返事を聞いた小梅先生は、そうですか~と柔和な笑みを浮かべてみせた。


その笑顔の裏になにか別のものがあるのではなかろうかと、つい疑ってしまいたくなるほどに眩しい笑顔。


しかし結局は何もないということを僕はとうの昔に実証済みなのである。


これが守りたい笑顔というやつなのだろうか。



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