Blood5: 狂乱ノ力 part14
握りしめた拳は、ただ光を発しているだけではない。
その光は徐々に形をなしていき、やがて拳一つを丸ごと包み込むものとなる。
鋼のように固い材質は手首の辺りまでを覆い、その色彩は黒を基調としたものとなっている。
一見すれば西洋鎧の様な姿をしているが、手の甲の部分にある前は中指の先端と同じくらい後ろは手首と同じくらいの長さをした縦に長いひし形の装備が妙にサイエンティックなものへとその感覚を変えている。
手の甲にあるそれには同じくひし形の一回り小さな淡い水色の宝石がついており、そこには大きくⅢという字が彫られている。
「霊装:星龍……装填完了」
大牙は両拳に装着した霊装を何度か握ったり離したりしたあと、ゆっくりと視線を目の前の巨大蛇にむける。
いや、せいかくにはむけていたとでもいうべきだろうか。
なぜなら巨大蛇がそう把握した直後には既にずっしりと佇んでいた地面とはうってかわって、はるか後方へと吹き飛ばされていったからだ。
『ギガッ_____!?』
蛇の口から漏れ出た声は人間で言うところの悲鳴にも似ていた。
その巨体は重力を無視してとんでいき、ガイルを通り越し近くにたまっていた瓦礫の山に突っ込む形で、ようやくその動きを止めた。
「………ふぅ……」
しかし、その様子を終始見ていたガイルはというと自分の連れがやられたのにもかかわらずどうにもドライな反応で、肺にたくわえたタバコの煙を吐き出し、その余韻に浸る程度のものであった。
なぜなら、ガイルにはそれが見えていたから。
巨大蛇は銃で撃たれたわけでもなければ霊術でやられたわけでもない。
ただ単純に目の前にいた少年が驚くべき速さで蛇に近づき、その右拳で無駄に大きな的である蛇の巨躯を殴り飛ばしたというだけのことなのだから。
「霊装ってのは霊力使って特殊なギミックを発動するもんなんじゃねぇのか?それをただ殴るためのものにするなんて、なかなかおつむがよくねぇなガキ」
「バカやろうが、誰にむかって霊装の講義を開いてんだくそったれが」
大牙はガイルの発言に対してやや不服そうな態度をとって、己の拳を誇示するかのようにガイルに突きつける。
「こいつはちと特別製でね。霊力どうこうってよりは速さが肝心なんだよ」
「……速さ…ってことは制約霊装か。なかなかレトロなもん使ってるじゃねぇの」
「あ?俺がなにを使おうがテメェには関係ねぇだろうが。まあ、小馬鹿にしてるその霊装にかわいいペットを殴り飛ばされたんだからわけねぇよな」
そう言い大牙はトントン…と軽くステップをふんでいく。
エンジン音がうなり響くバイクのように、それは今すぐにでもこちらに突っ込んできそうな印象をガイルに与えいる。
しかしガイルはいたって冷静だ。
冷静というよりは戦いに慣れているという方が見た感じとしては分かりやすいだろう。
「……来るならさっさと来な」
「言われなくても行くさっ!」
半ば発言に被るように叫び、再び高速移動を行いガイルへと一気に向かう大牙。
振り上げた拳がガイルに当たる範囲内に入ったその瞬間。
ゴアッ!!という音と共に地面を割って素早い一撃がさながらアッパーカットのように大牙の体を襲った。
死角からの突然の攻撃やガイルへの闘争心からか反応が鈍っていたというのもあるが、しかしだとしても強烈な一撃をくらったことに間違いはなく、重い衝撃が大牙の体を貫いていく。




