Blood5: 狂乱ノ力 part13
真横に大きく飛んだ大牙は、すぐさま体制を整え攻撃の行く末を確認した。
気がつけばそこにはなにもなかった。
いや、なにもないというのは明確ではない。
なぜならなにもないというのは目にもはいらなければ影もない。
意識的に確認することはおろか、そもそもにおいて認識をすること自体しないからだ。
だからこそ、この場合はより正しく情報を提示するべきだろう。
先ほどまで大牙の近くにあったガラスやら建物の残骸などの破片達が、どういうわけかそこには一切残っていなかったのだ。
文字通り塵も残さない綺麗な光景が、しかしこの場合においてはより一層の違和感を大牙は覚えた。
「(……吹き飛ばしたにしては周りへの被害がなさすぎる。それによく見たら地面が軽くえぐられてる……これじゃ、まるで……)」
「食った…というのが解釈的には正しいんだろうな」
ガイルは大牙の思考を先読みするかのように、結論をなめらかに口にした。
それに対して半ば反射的に視線がそちらに向かうが、そこで大牙は目を丸くした。
なぜならそこには蛇がいたからだ。
全長はパッとみただけでも50mは越えている。
太さは人一人分程もあり、身にまとう鱗は一枚一枚が逆立ち、まるで鮫肌をより凶悪にしたような印象を与えてくる。
なにを考えているのかわからないほどどす黒い両目は、直ぐにでも対象の血を浴びて渇きを潤さんとばかりに飢えている。
そんな生物が、ガイルの前に威圧的に破格的に破滅的に佇んでいた。
「おいおい…どっからこんなビックリ動物だしたんだ?手品かなにかかい?」
「手品なんてあんなのいかに人間の五感に触れることなく自分の理想の行動をとれるかってだけの代物だろう?そんなものこのご時世素人だろうと堂々とやれるぜ?まあその点を考えればこいつは手品といえば手品なのかもしれないけどな」
「御託はききたかねぇんだよ」
そう言い大牙は先程横に飛んだ際に拾った拳より一回り小さい瓦礫の破片を電撃の力を纏わせながら投げつける。
それはさながら弾丸のようにガイルに迫り行く。
が、しかしそれはガイルにあたることはなかった。
なぜならその攻撃を突如として現れた大蛇がその巨大な口でのみこんだからだ。
「なっ……!?」
驚く大牙を横目に大蛇はガリガリと豪快な音を鳴らしながらそれらを咀嚼し、そして飲み込んでいく。
「良い武器だろ?」
ガイルは大量の煙を胸一杯に吸い込みながらそんなことを言った。
「こいつは俺の上司のお手製でね。なんでも合成魔の遺伝子構造を改良して作ってるみたいなんだが…どうにもおつむの悪い俺には良くわからねぇんだわ」
「……」
大牙は無言でそこから距離をとり、ポケットから携帯を取り出す。
そして、そのままカメラのアプリを起動してそれを撮影した。
「………お前、なにしてんだ?」
「言わなくても分かるだろ、研究資料だ」
研究資料?と間抜けな声をあげるガイルをよそに大牙は様々な角度からの撮影を静止画・動画を含めて淡々と行っていく。
「未だに詳しいことが判明していない合成魔の遺伝子構造。それを改良したっていう生命体のような武器。こんな面白いもの、研究対象にしない手はないだろう?」
そういった後、大牙は携帯をポケットにしまう。
そして、今度は極悪な笑みを浮かべながら両拳を握りしめる。
すると、そこから眩い光が煌々と溢れ出してくる。
笑みを絶やさぬままに大牙は楽しげに声をあげた。
「さぁてと、それじゃあ今度はそいつをてめぇからぶんどることとしますかぁっ!!」




