Blood5: 狂乱ノ力 part11
「っ!?」
ゴアッ!!という空を強引に押し潰す形で、それは大牙の脇腹辺りを直撃した。
人肉が潰される不気味な音が本人にしか分からない部分で聞こえる。
そのまま大牙は真横に大きく吹き飛ばされる。
割れたアスファルトやら硝子の破片やらが積もりに積もった瓦礫の山に力いっぱい放り込まれた大牙の姿は砂埃で確認することはできず、その代わりに壮大な倒壊音だけが辺りを侵食していく。
その音を耳にしながら怪しげな微笑を浮かべるのは一人の大男。
口に加えた複数のタバコがあまりにも特徴的な大男の手には一本の鞭が握られている。
しかしその鞭は普通の人が想像しているものとはまるで違う。
まず第一に太さが違う。
持ち手のところだけは手に握りやすい太さとなっているがそれ以外、つまりは本体は成人男性のふくらはぎ程の太さをしており長さはゆうに5mを越えている。
ついでその材質が更に異常性を増している。
その表面には大小様々な大きさの青黒い鱗がびっしりと貼りついており、ぬるりとした手触りと妙にひんやりとした感覚に大牙は蛇を連想した。
ここで話を聞いた大勢の人間は首を横に傾げることだろう。
なぜならその異常性に特化した鞭を、そう観察したのは現場に残っていた一般人ではない。
倒れ込む鈴山 山葵でもない。
もっといえば急襲をしかけた大男でもない。
そう、今のは大牙が連想したのだ。
龍谷 大牙。
電気を操る不良少年が、しかとその目で見極めたのである。
「………ふぅ…やれやれ相変わらず外は野蛮な奴らばっかりだなぁ…おい」
未だ舞い上がる砂埃を一切気にとめることなく、ただ悠然と前に突き進みその姿を大男に見せつける。
学生服にうっすらと砂埃を纏わせながら現れ出た大牙はその目を刃のように鋭いものにしながら、大男を見つめる。
しかしその唇だけは妙に楽しげに歪んでいく。
その姿を見ながら大男ガイルは手首を軽く動かし己の武器を手元に引き寄せる。
「……そんな風にかっこよく仁王立ちされてるってのはどうにも勘に障るねぇ。今のは気持ちいい位クリーンヒットしたと思ったんだけどな」
「あぁ、そいつは間違ってねぇよ変態喫煙野郎」
そう言いながら大牙は服をまくりあげて脇腹を見せる。
見れば先程打撃をうけたところは見るも無惨な程に赤黒く腫れており、医学を身につけていない者の目から見ても肋骨の何本かは折れているだろうことは予想できた。
しかし、それでも大牙は余裕しゃくしゃくといった感じで負傷した部分を何度か軽く平手でタップする。
「生憎と、これくらいの痛みには慣れてるんだよ。伊達にこんな格好はしてないってことだ」
「どんな理屈だそりゃ…まあ、それで良いってんならそれで良いさ」
「そりゃ、そうだ。それにそんな事はどうでも良いこと……だろ?」
剣幕はそのままに、大牙は前に突き出した右手の人差し指をクイクイッと動かしながら告げる。
「ようは喧嘩ふっかけてきた変な輩を殴り飛ばせばいいってだけのことだろうが」
「ふっ……俺が誰なのかさえ聞かないか……ま、そういう細かいことを気にしない所は不良の特権ってか唯一の長所ってところか?」
その言葉を最後に、戦場は再び役目を果たすかのように戦を巻き起こす。




