Blood5: 狂乱ノ力 part9
「……黙って逝っとけ…」
その発言に先程まで山葵のことしか眼中になかった全合成魔達が、おもしろいくらいに声のした方へと多種多様な顔を向ける。
それらの淀んだ目に映ったのは瞬く電撃が本来移動もなにもしないはずのそれが今まさに天高い空中で見計らうかのように滞在している姿であった。
ギャルルルルルッ!!と猛々しい音が突如として周りを浸食していく。
ビルとビルの間に轟く轟音が常識的な日常を破産させていく。
それはまばゆいばかりに光り輝く霊力の螺旋回転が生み出す集約音。
通常であれば霊術に変換しない限り、色も形も持たない霊力が黄金色の電撃として灰色だらけのアスファルト世界を徐々に埋め尽くしていく。
それを片手で操るのは派手な学生服に金髪を携えた少年。
着ている制服や見た目からして恐らくどこぞの不死身の少年と同い年くらいの金髪少年……龍谷 大牙は右の掌から連続的な電撃音を鳴らしながら、鈴山 山葵の周囲に漂っていた怪物達を焦げ散らしていく。
クルリと掌を回せばそれに合わせて電撃が360度きれいに放たれては、自分のこだわりの世界を作り描いていく。
電撃の速さは音速も超える。
文字や言葉で表せばさぞや穏やかで鈍速な話に聞こえてしまうのだが、やはりどこの世界でも電撃は電撃。
少なく見積もっても50体前後はいたと思われた合成魔がやられた時間は、正確に計るとするならば四秒足らず。
たったそれだけの時間で人類の脅威を異臭と黒炭の塊に変貌させたのであった。
大牙は掌から余韻のような細かな電撃と白煙をうっすらと浮かび上がらせながら、唯一変化の起きていない電撃の中心点に降り立つ。
冷めた目で大牙は地面に倒れている緑髪の少女を見下ろす。
見たところ目立った負傷はなく倒れていること自体に違和感を覚えた大牙であったが倒れ込む彼女の顔から異常なまでの汗が流れているのを目の当たりにし、なにかしらの異常事態が彼女の身に起こったのだとすぐさま理解する。
「(なにがあったかは知らねぇが、こいつは穏やかじゃあねぇな……)」
大牙は上着の胸ポケットから携帯を取り出し、慣れた手つきでどこかに電話をかける。
電話はあまり間を空けることなく繋がったのだが、そこから声が聞こえるのに無駄に時間がかかった。
それが電話にでた相手のせいだということに大牙は遅れて気付く。
「……テメェ…由佳奈じゃねぇな…愁煉の所のガキか」
「ガキじゃありまっせ~ん!っていうかアナタと年は一緒だと思うんですけど?それだとアナタもガキの部類にはいるんですけど?けどけど~?」
ぶっ殺すぞ、とあまりにもスマートでクールで残酷な感じで言った大牙は早急に本来の持ち主にかわるよう竜華に命じる。
それにしぶしぶというか、むしろノリノリで応える彼女に若干の疑問を覚える大牙であったが、それをどうこう思考する時間はもらえなかった。
「なによっ!この忙しいときにかぎって電話してきやがって!!このド腐れチンピラがぁぁぁぁっ!!」
耳をつんざくような金切り声に大牙は思わず携帯を耳からはなし、しばし嵐が去るのを待つことにした。
「大体さっきから電話もかけてるのになんで重要なときにはすぐでないので、こっちが忙しいときにかぎって電話かけてくんのよ!狙ってやってるんなら褒めてつかわすから黙って死にさらせ!」
「(……たかだか連絡遅れたくらいでいちいち騒いでんじゃねぇよ…名家の名もおちたもんだなおい)」
と、心の中だけで毒づいてから今一度携帯を耳に当てる。
「状況の受け渡しをしたい。こっちは今現場にきてる、そっちは?」
「ったく……私と竜華は車でそっちに向かってる最中なんだけど、合成魔が多くてね…っと!危ない危ない……こんな感じで遅れてるってわけ」
よく聞けば爆発音のようなものも聞こえる。
恐らく戦闘の最中だったのだろう。
それは確かにタイミングが悪かったなと反省してみる大牙。
「現場にいるってことはボスキャラの姿を突き止めた感じかしら?」
「あぁ、そいつもある。っていうかもう目で見えるとこまでは近づいてる」
目を細める。
その瞳に映し出されたのはこの事件の主犯格の姿であった。




