Blood5: 狂乱ノ力 part6
「春斗様っ!前方に複数体の合成魔を確認っ!いかがなさいますかっ!?」
「えっ!?」
考え事に集中してたこともあってか周囲の状況を観察することも生命オーラを察知することも忘れていた僕は馬鹿げたスピードでジャッカル・ランナーを飛ばしていたようだ。
そのせいですぐ近くに接近していた合成魔の存在に反応するのに大幅なタイムラグが生じる。
目視で確認できるものだけで四体。
飛行タイプの虫型の合成魔が二体に陸上タイプの獣人型の合成魔が二体。
よっぽどバイクのテクニックがあるプロレーサーあたりなら華麗に抜き去れそうなものだが、あくまで僕は運転方法しか知らない未熟な高校生だ。
果たしてそれが出来ますか?と、問われれば答えはNOの二文字である。
「(…くそっ!どうする……ジャンプして二体はかわせるだろうけど、それだと空中にいる奴らにやられる……一体どうすれば…)」
そうこうしている間にも合成魔との距離はどんどんも近づいている。
バイクを止めようにもそれはあまりにも遅すぎる。
「春斗様っ、このまま直進することだけに集中してくださいっ……」
表情が強ばり始めた僕にサイドカーから立ちあがった天子が、そう言ってきた。
「一体なにを……」
僕の質問に答えるよりも早く、天子は勢いよくサイドカーを蹴り飛ばしロケットのごとくスピードでななめ上空に飛び上がった。
蹴り飛ばされたサイドカーは、天子の蹴りに耐えられずジャッカル・ランナーから強引にもぎとられる形ではずれた。
アスファルトの地面に火花と共に滑り落ちるサイドカーを見て思わず固唾をのむが、すぐさま意識は天子へと向かう。
ななめ上へと飛び上がった天子は必然的に僕よりも早く合成魔のもとへと到達した。
四体の合成魔と鬼の目が合う。
そこに莫大な殺気が空気と共に混ざり込む。
天子は視線は外すことなく流れるような動作で左手で右腕の着物の袖をまくりあげ、そのまま右手は獣人型の合成魔がいる真下へと伸ばす。
一瞬カメラのフラッシュのような短い光が視界を覆ったかと思ったのと同時、天子の右手から爆発的な量の炎が紅蓮の光彩を放つ津波のごとく吐き出される。
ゴアッッッッッッッ!!という空気を一気に膨張させ周囲の温度を壊滅的に上昇させながら天子の爆炎は二体の獣人型の合成魔ごと地面をえぐる。
熱風が僕の顔をもてあそぶかのように吹き荒れ、爆炎を受ける地面が悲鳴をあげる。
視界が温度の変化のせいか蜃気楼のようにボヤリと歪むが、それでも天子の方へ二体の虫型の合成魔が炎を回避するようにして向かう姿は容易に確認することができた。
「天子!そっちに二体いったぞ、気をつけろ!」
僕の警告も、しかしあまり意味はなかったようで天子は無駄な動きはせず、ただ右手から炎を出すことを止める。
そのまま重力に従って落下していく。
合成魔との距離はみるみるうちに近づいていく。
が、それにあわせて天子は次のアクションを起こす。
右手を一度強く握ってから再び大きく開く。
たったそれだけで天子の周囲を紅蓮の炎が取り囲む。
燃え盛る炎の渦の中心にいる少女の手に螺旋をえがきながらそれらは集約していく。
集約された炎は次第にその形を変えていき、最終的にはおおよそ2m程の巨大な深紅に染まった金棒に姿を変える。
その名は暁小槌。
大勢の貴族の血を浴びたことによって深紅に染まったそれは、残酷な鬼…酒呑童子の愛用した武器として有名な唯一にして絶対の天子の武器だ。
「どらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
猛々しい声と共に真横に振り払われた暁小槌は炎を纏いながら残り二体の合成魔をかき食らう。
メキャッ!という骨や肉が同時に潰れる音を鳴らしながら天子はそれを身近にあった高層ビルの壁めがけて払い抜く。
吹き飛ばされた二体の虫型合成魔は高層ビルの壁にヒビと紫色の血飛沫をセットにしてめり込んだ。
あまりにもグロッキーな光景に今晩の食事は控えようかと思った僕である。




