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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood1:吸血ノ少女 part6

「……って違う違う!僕が由佳奈に相談したいのはゲームについてのことなんかじゃない!鈴山さんにどうやったら許してもらえるかってことだ!」


最初にあげた話題から随分と外れてしまったことに遅れながらに気付いた僕は、至急話題の本筋を元に戻そうと修正作業に入る。


一体全体、なにをどうしたら謝罪の件からゲームの話に様変わりするのだろうか。


ちょっと前の自分と由佳奈のやりとりが不思議でたまらない。


「ああ、そうだったわね。まったくもう話を逸らさないでよバカ春斗」


「いや責任転換にしては少々強引すぎるって」


そんな僕の指摘を受けても特に目立つ反応をみせず、由佳奈は大手メーカーの紙パックのりんごジュースをストローで吸っては飲んでいる。


呑気なその態度から早速相談したことに後悔し始めた僕の考えを悟ったのか、由佳奈は軽く息をはいてからストローを口から抜いた。


妙に艶めかしいその行為に視線を別の場所に向けざるをえない。


「まったく……春斗は少しばかり考え方の方向性が違うのよ」


「ほ、方向性?」


「そう、方向性。どうしたら許してもらえるかどうかを考えるんじゃなくって、どうして彼女を怒らせたのかを考えてみればいいんじゃないかしら」


考え方の方向性。


確かに僕は結果だけを見ていて、そこにいたるまでの過程を見過ごしていた。


言われてみれば、まさにその通りである。


「でも、なんで怒ったんだ?僕的には別に鈴山さんの癇に障るようなことは言ってないつもりなんだけど……」


「もっと考えなさいよ……って言いたいところだけど、こればっかりは正直私も今一理由がピンとこないのよね~」


鈴山 山葵が急に怒った理由を、しかし僕と由佳奈は分からずにいた。


お互いに顔を見合わせるだけで、これといった成果はでずじまい。


別に彼女自身を侮辱するようなことはしていないし、そのような言動もした覚えはない。


改めて考え直してみても特に気になる点は見受けられず、まるで出口の見えない迷宮をさまよっているようである。


ただただ悪戯に時間が過ぎていくだけで、何も成果をあげられない。


仕事の出来ない人間はまさしくこういったかんじなのだろう。


「う~ん……ダメね。全くといって良いほど分からないわ」


「おいおい、頼むよ。由佳奈だけが頼りなんだから」


僕一人では到底この謎を解明することは出来ない。


唯一の希望である由佳奈が音をあげてしまったら、もうそれだけで際限のない行き詰まり状態に突入である。


「春斗……貴方、本当は私に言ってないだけで他にもなにかしでかしたんじゃないの?」


「わざわざ隠すようなことはしてないよ。あれ?でも本当にそうか?…あ~…なんか自分の記憶が真実かどうかさえ心配になってきたかも…」


人間はなにかと自分にとって都合の良い方に良い方に物事を考えるという。


もしかして、実は僕の脳が自分にとって不利益になる記憶を消してしまって覚えていないだけで、本当は鈴山さんを怒らせる明確な要因があったのかもしれない。


「まさかとは思うけど…あんた、まだ汚れを知らない中学生女子を相手に力ずくで痴漢行為をした…とかじゃあないでしょうね?」


「……可能性はあるかも。というかその手があったへぶしっっ!?」


「あんたの仲良くなりたいっていうラインは一体どこまで幅広なのよ」


「た…ただの冗談だろ!?なにも思いっきりビンタしなくても良いんじゃないのさ!!」


そんな僕の言葉など由佳奈は聞く耳が毛頭ないようで、あからさまにそっぽをむいては鼻歌を歌っている。


しかしながら落ち着いて考えてみれば先ほどの僕の発言は明らかに人道からずれたものだ。人間、追いつめられれば思考回路も随分とファンタジーになるものである。


そんなことを思っていると、そっぽをむいた状態のまま由佳奈が妙なことを口にし始めた。


「……今更だけど鈴山 山葵って一体何者なのかしら?」


「なんだよ突然。そんな根本的なことを考えたって意味ないだろ」


「本当にそうかしら?だって良く考えてみなさいよ」


そう言うなり由佳奈は体をググッと前のめりにして急に意欲的な態度を僕に示す。


「私はそもそもにおいて彼女のこれといった情報がよく分からずにいるわ。春斗はどう?なにかある?」


「うーん……せいぜい影を操るってことくらいかな?あとはすごい大食いってところ」


あの特大オムライスを余裕で食べきり、挙げ句の果てには少々物足りないときた。


たぶん、彼女の一番の特徴がそれに当てはまることだろう。


と、そんな程度の情報を口にしたところ僕の目の前にいる由佳奈は、なんとも複雑な表情をうかべる。


「影を操る……ねぇ…」


「ああ、それか。僕も初めて見た時は驚いたよ。まあ今となっては変に見慣れちゃったけど」


「……そんな能力あったかしら…?」


ボソッと呟いた由佳奈の言葉にやけに耳に残る単語が入っていた。


能力。


その家系や一族によって代々引き継がれる特異な力であるそれは、魔払い師になる者にとって無くてはならないものである。


といっても能力を持っている人=魔払い師というわけではないようだが。


「ねえ春斗。たしかこの前、“鈴山 山葵は他の人とは明らかに気配が違う”って言ってたわよね?あれってどういう意味?」


「どうって…そうだなぁ……。人間でもなければ妖怪でもない…だけど、その二つを放ってる不思議な気配…って感じかな?」


「なによ、そのはっきりしない感じ。らしくないわね」


「らしくないって言われても……ああ、そういえば…」


その先を言おうとした瞬間。


キーンコーンカーンコーン……と、何度も何度も聞いてきた学校のチャイム音がそれを妨げ、教室中の生徒を各々の席へ座るようにと強制する。


机をくっつけて弁当を食べていた僕と由佳奈も例外ではなく、周りと同様席を自分の所へと戻さなくてはならない。


「あっちゃ~、もう時間切れか。なんだか全然進展しなかったな…」


「それが人任せにした男のいう言葉?……まあ私も個人的に気になる点がでてきたわけだし、仕方ない。多少は協力してあげましょう」


「おお!それは助かるよ、ありがとう!でも、気になる点って……?」


そう尋ねる僕に、由佳奈は悪戯いたずらな笑みを浮かべながら楽しげにこう答えた。


「教えてあーげないっ」





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