Blood4:命ノ価値ト君ノ価値 part12
どのくらい振動は続いていたのだろうか。
明確な時間は解らないが、それでも一分や二分というような短い時間帯ではなかったはずである。
積み重なっていた食器や所々に置いてあった植木鉢は元の原型を留める事は叶わず、無惨にも大小無数の破片となったそれは僕らがいた役所内に飛散していた。
正確な震度などは判断しかねるが周囲の風景から考えるにその強さは上位にあたるだろう。
幸いにも僕らがいた聖安役所は強固な構造になっていたらしく、せいぜい床や壁に小さな亀裂を生じさせる程度で済んだようだ。
「せ、先輩…あの…大丈夫ですか?」
僕を机の下に引きずり込んだ鈴山さんは、心配そうな口調で僕に尋ねてきた。
てんで別の方向を見ていた僕は声のした方向に素直に顔を向ける。
しかしながらそこは狭い机の下。
振り返った所には言葉通り目と鼻が合うか合わないかというくらいの至近距離に鈴山さんの顔があった。
ドキッという大きな拍動がした後、僕らはほぼ同じタイミングで逆方向に目をやる。
この場に似合わない顔の火照りを感じながら僕は鈴山さんに少々ドギマギしながら感謝の意を述べる。
鈴山さんは、いえ別に…と短く言葉を返す。
僕同様にやや心境を乱しながらも、そこは魔払い師といったところか鈴山さんはすぐに気持ちを切り替え直ぐさま周囲の確認を始めるために机の下から出ていった。
僕もその後ろを追うようにして机の下から這い出る。
立ち上がってこの場をよく見てみると、事の深刻さと異常さを思い知らされる。
なぜ急にあのタイミングで巨大な地震が発生したのか。
それが偶然とよばれればそれまでだ。
いや、そもそも地震というもの自体が偶発的に起こるものであり、そこには天気予報のような正確な判断はできない。
ということは本当にこれがただの偶然が偶然と相まって更なる偶然を呼び起こしたというだけのことなのだろうか。
ひとまず今すべきことは周囲の安全の確認もとい他の人たちを避難させることだろう。
いくら強固に作られたといっても施設内にいるのはなにかと危険すぎる。
そう判断した僕は行動にでようとした、がしかし。
「魔払い師の鈴山 山葵です。私は外の事態を確認する為、一般人及び職員の避難を最優先に行動をお願いしたいのですが宜しいでしょうか?」
「はい、了承しました!ここは我々に任せて事態の収集に急いでください!」
警察手帳のようなものを見せる鈴山さん。
それを確認した後、要求をのむ聖安役所の警備員数人。
さながらドラマの一場面のようなやり取りを行っていた鈴山さんは、急ぎ足で呆然としている僕のもとへとやってくる。
「すみません先輩、私は事態の調査に行ってきます。申し訳ないんですが話はまた後でということで良いでしょうか?」
「え、あ…あぁ……」
僕の半ば空返事のごとき反応を確認した鈴山さんは、すみませんと短く言ってからその場を駆けだして行ってしまう。
「先輩も早くここから避難してください!できれば遠くに!」
こちらを見ることなく走り去る鈴山さんの後ろ姿を見た僕は、やはり彼女と僕の生きる世界は異なっているのだと痛感させられる。
そして、やはり彼女は生きていなくてはいけない存在だということに気づかされる。
そんな当たり前で常識で普通のことを、しかし僕は思っていた。
「春斗様っ!春斗様っ!」
少しばかり気が抜けていた僕の耳に、いささかタイミングよく天子の声が通り過ぎる。
それを理解するのと同時に僕の目の前に、いつもの如く煙を出しながら最強の懐刀が現れ出る。




