Blood1:吸血ノ少女 part5
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「ゴミ箱に入りなさい、このクズ」
昨日から一日経っての今日、外は相も変わらず暑くも寒くもない丁度良いぬるめの気温を提供してくれている。
のんびりとグダグダ生活を快適に送るには最適な日なのだが、学生である僕は必然的に学校に行かなければならず渋々足を向けるのであった。
そんな努力賞を貰っても良いほどの行動をしたのにもかかわらず、僕を待っていたのはクラスメイトの由佳奈からの愛情の一切を感じさせない暴言だった。
「そ、そこまで言わなくたって良いだろ!?確かに全面的に僕が悪かったけど!」
「悪かった?なに過去形にしてるのよ。許されてないんだから、現在進行形で悪いのよ。春斗が全面的に悪い」
由佳奈のもっともな意見に僕はろくに反論することも出来ず、ただただ己のとった行いをひたすら後悔した。
現在時刻は昼を示し、本来であれば楽しい楽しい昼休みも今日ばかりはなんとも悲壮的なものとなっていた。
というのも昨日の出来事について反省はしているけれど具体的にはどうやって許してもらおうか、と悩みに悩んだ僕がつい相談してしまったのが原因だ。
相談するにあたって昨日の出来事の一部始終を話さなくてはならず、それを聞いた由佳奈は僕をゴミ虫以下に向けるような冷たい視線で見下しそして現状にいたるという訳である。
「それにしても春斗もバカよね。わざわざ仲良しこよしになれるきっかけを自らダメにしただけじゃなく、そのうえ相手を叩くなんて……しかもそれが女の子……はぁ、これはもうモブキャラとして生きていくしかないわね」
「そこまで嫌みったらしく言うか普通!?友達なんだから少しはサポートにまわってくれよ!っていうか全国のモブキャラに謝れ!」
「あら、日本だけでいいの?モブキャラなんて全世界にごまんといるのに……へんなところで優しいわね春斗」
「そこに優しさを見いだすな!もっと別の所から見いだせ!」
そんな僕の言葉など、なんのその。
ドS女王こと財前 由佳奈は変わらぬ表情で弁当箱に入っている卵焼きを口にしては特にリアクションをとるわけでもなく、ただ何かしらの作業のように黙々とそれを繰り返している。
作った人の気持ちを考えたことがあるのだろうか、という考えが頭に浮かぶが少なくとも、今の僕に人間性をどうこういうような資格はない。
そう思いながら、僕も自分の弁当にてをつける。
なんだか食欲がわかないのは、やはり昨日の出来事がひきずっているからだろうか。
思えば午前中の授業もびっくりするくらい頭に入らなかった気がする。
何を考えるわけでもなく、ひたすらにボーッとしていた。
成る程……だから授業中に先生に教科書で頭を殴られたのか。
「っていうか、春斗もちょっとおかしいんじゃないの?」
「……なんだよ藪から棒に。確かに僕はバカだけれども」
僕の頭がおかしいのなんて別に今始まったことじゃなかろうに。
なにを突然言い出すんだろうか?と思った僕だったが、由佳奈が指摘したポイントは別の所にあった。
「違うわよ。おかしいっていったのは、散々自分を殺そうとした人間と良く仲良く食事しようと思ったわねってことよ」
由佳奈はため息混じりにそう呟いた。
確かによくよく考えてみれば僕の行動は大変不可解だ。
自分を殺そうとしている相手と一緒に食事をとる。
例えるならばシマウマとライオンを同じ檻の中にいれて、一緒に餌を食べるみたいなもの。
一般的にみても、それは奇妙なものとしてうつるし、なにより理解することができない。
利点と呼べるものが一切感じられない。
それなのに僕は、そんな不可解な行動をとった。
平然と。
特にこれといって意識するわけもなく。
「貴方も少しは考えなかったの?もしかしたら毒でも盛られていたかもしれないのよ?」
考えていなかった。
そんな危険性があると、どうして気付くことが出来なかったのか。
その理由を、しかし僕は知っている。
「だって僕は不死身だからね。何をやられても死なないんだから、何かを危険視する必要はないんだよ」
斬っても焼いても刺しても潰しても溶かしても裂いても何をしても絶対に死ぬことのない体。
僕の唯一の特徴であるそれのおかげもあって、死への恐怖は全くといってよいほどない。
なんせ死なないのだから。
死に直結する要因全てが無意味と化しているのに、それを恐れるなど愚の骨頂である。
「……まあ、それもそうよね。だから、そんな陰湿な考えの持ち主になってしまったんだものね?」
「待て待て待て待て。ちょっと待て。ほんの少しでもいいから待て…………僕がなんだって?」
「陰湿な考えの持ち主」
「そんなわけあるかっ!陰湿な考えの持ち主が、こうやって反省するわけないだろ!」
僕の熱の入った反発に対して、由佳奈が見せたのは呆れた表情だった。
いや、呆れたというよりはどちらかというと何かに飽きてしまったようにみえる。
「相変わらず変わらない一方向なリアクションね」
「何を!?」
だって~、と由佳奈は語調軽やかに言葉を続ける。
「変わらない老舗のお菓子って大抵が美味しいじゃない。それこそ飽きることがないほどに。……でも、リアクションに関してはそれは当てはまらないようね。変わらなさすぎて飽きちゃった」
「止めろよ!そんなこと言ったら何かと話しかけづらくなるから!?」
今みたいなことを言われては、リアクションをとるにしてもいつもと違うものにしなくてはという考えばかりが頭をよぎって、ろくに会話もなりたたなくなるだろう。
そうなってくると、やはり芸人さんは凄いんだなと常々感心させられる。
「ねえ、春斗。変わらない繋がりで一つ質問があるんだけど……」
由佳奈はつい先程学校の購買で購入した紙パックのりんごジュースに、ストローを突き刺しながら淡々とした口調で、その質問とやらを僕に尋ねてくる。
「変わらないお菓子の味、変わらないリアクション……さて、じゃあ変わらず愛されるゲームのジャンルって何かしらね?」
「いや、同じ変わらないにしてはベクトルが違い過ぎやしないか?」
どこをどうやればそんな質問が思い浮かぶのだろうか。
まあ、一日中ゲームをしているゲーム中毒者な由佳奈らしいといえば由佳奈らしいのだが。
「普通にRPGじゃないか?ほら、某ドラゴンのクエストとか某ファイナルなファンタジーとか、大抵のゲーマーが手をつけてるわけなんだし」
僕個人としては、やはりRPGはゲームには絶対に欠かせない重要な要素だと考えている。
だてに王道という名の名誉ある地位に居座っているだけはある。
が、しかし。
それを聞いた由佳奈の反応は、なんとも微妙なものであった。
「RPGねぇ……確かに一般的にはそうかもしれないわね。だけどね春斗。私の意見は全く違うわ」
「全く違う?恋愛ゲーム的な?」
「失礼ね。私が春斗と同じ趣味なわけないでしょ?あんなもの現実逃避したい人間がやるものよ」
「お前はいったい僕をなんだと思ってるんだ!?」
それに恋愛ゲームをしている人の皆が皆、現実逃避している訳じゃなかろうに。
……確かに二次元の世界に恋い焦がれる輩も少なくはないが。
「私が欠かせないと思っているのは、ズバリ!シューティングゲームよ!」
そう叫び、懐から最早見慣れてしまった携帯ゲーム機とそのカセットを抜き取る由佳奈。
携帯を四六時中いじり倒すのはあまりよろしくないが、その代わりとばかりにゲームをやりまくるのも果たしていかがなものだろうか、と僕は別に考える必要のないことを考えた。
というか、ぶっちゃけ言うと面倒くさくなってきた。
なぜならば……。
「どうしてシューティングゲームかというとね、それが単体で出るだけでなく他のジャンルのゲームにもそのシステムを導入しているからなのよ。ほら良くミニゲームとかでもシューティングってあるでしょ?あれがまさにそうなのよ。でも、それだけじゃないわ。やっぱりシューティングゲームがゲーム界の隠れた権力者として君臨する理由はもっと別の所にあって……………………」
と、こんな風に一度ゲームについて語らせたら誰かが止めるまでノンストップで語り続けるからである。
根っからのゲーマーではない、にわかゲーマーの僕としては正直いってこのテンションにはついていけない。
なんとも気疲れするものである。