Blood4:命ノ価値ト君ノ価値 part8
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九頭宮にある一際大きな複合商業施設“サンライズタワー”。
町のほぼ中心部にあるそれは30階建ての超高層ビルである。
施設には電化製品やら化粧品やら食料品などありとあらゆるジャンルが豊富に取りそろえられている。
そこのちょうど最上階にて、一人の大男が屋上へと通じる社員用の階段を前に佇んでいた。
しかし、そこにいるのは大男だけではなく目の前には複数の警備員が対峙するかのように並んでいる。
「貴様一体何者だ!?」
複数の警備員の内の一人が声を荒げて尋ねる。
すると大男は口に咥えた三本の煙草を満足げにふかしながら、視線を前に向ける。
「……悪いことは言わねぇからよぉ…さっさとそこをどいちゃあくれないかねぇ?」
そう言ってわざとらしくそのゴツゴツとした岩のような拳を前につきだし指の骨を鳴らす。
警備員達はその仕草に驚きながらも構えをとる。
しかし大男はその構えにおびえることはなく、むしろどこか残念そうな顔をしている。
「はぁ……正義感に忠実っていうのも問題だな」
ため息混じりにそう言い大男は指をパチンと鳴らす。
するとどういうことか、たったそれだけで目の前にいた複数の警備員がドタドタとその場に倒れ込んでしまう。
「な、なんだ!?急に足が…!?」
「う、動かない!?」
警備員達は突如訪れた不可解な事に頭がまわらず極度の混乱状態へと陥る。
そんな警備員達を上から見下ろした後、大男ガイルは前にある屋上行きの階段へと何事もなかったかのように足を運ぶ。
「…まったく仕事ってのは相変わらず面倒くせぇもんだよなぁ」
ガイルは口に咥えていた三本の煙草を床に吐き捨て、階段を封鎖するように設置された一本の鎖を、その大きな体をキツそうに曲げて通り過ぎる。
階段自体はそこまで長いものではなく、数段のぼったところで屋上に通じる扉はあった。
「さあて、と」
ガイルは簡易な作りをした鍵のかかった扉を強引に蹴り飛ばし、単純な力だけで突破する。
扉の先にはひらけた景色が広がっており、視線を少し下に向ければ多くの建物とそこを歩く人たちを目にすることが出来た。
休日ということもあってか人混みはいつもより多く、さながら無数のアメーバ群のようであった。
それを確認した後ガイルは着ている革ジャンの胸ポケットに手をのばし、そこから小さな試験管を取り出す。
取り出した試験管の中には赤というよりは、ややピンクっぽい鮮やかな液体が七分目の所まで入っている。
ガイルはその試験管を軽く左右に振らした後、堅く閉ざされたコルクのような蓋を開ける。
それから続けるように別のポケットから取り出した植物の種のような小さな固形物を中に落とし入れた。
すると液体は沸騰するかのようにグツグツと煮えたぎりだす。
その変化を確認した後、ガイルはその液体を真下に垂らした。
ガイルが垂らした液体は屋上の床に着くなり、そこを中心にした複雑な魔法陣が浮き立ちはじめる。
「…さぁ……始めようか。博識な女」
浮き立つ魔法陣から発せられる淡い光をその身に浴びながら、ガイルは不気味な笑みと共に語る。
「手始めにテメェの守ってる平和ってやつを破壊するところから始めようじゃねぇか」
その言葉を境に、物語は悲劇の道を歩み始める。




