Blood4:命ノ価値ト君ノ価値 part6
「それが…あなたなんですね?」
鈴山さんは目線を自分の足下に落としながら、そう口にした。
そこには悲壮感と呼ぶには曖昧な感情が含まれている気がしたが、そんなことでさえ皮肉に思えてしまう僕はやはり人として終わっている。
「ま…結局の所、少年は悩みに悩んだ挙げ句なにもかも失って終わりっていうお涙頂戴な三下ストーリーってことだよ」
さも他人事のように僕は話を締めくくる。
別に同情を誘っているわけではない。
己の懺悔を聞かせているわけでもない。
これはただそれだけのお話というだけである。
木戸 春斗という一人の少年が失敗したという本当にそれだけのお話である。
「これが僕だ。これが君のいう怪物だ」
あくまで淡々とした口調で僕はこう続けた。
「人間の皮を被り人間らしく振る舞う…そんな、ちっぽけな怪物だ」
確かに彼女のいうとおりだ。
僕は普通を装った怪物なのだ。
だってそうだろう。
全てを失っているのにもかかわらず、塞ぎ込むわけでもなく。
絶望するわけでもなく。
自害するわけでもなく。
周囲を壊すだけ壊すわけでもなく。
ただひたすらに日常を生きている。
それこそ異常なほどに普通の日常を。
「君の怒りをかうっていうのも当然だよ」
けれど、と。
ここで僕は言葉を一旦区切ってみせる。
そのまま視線をそこらの空気から目の前の少女に向ける。
「君が死にたいと思うことに異議を唱えちゃダメだなんてことにはならないよね?」
ビクッ!と。
鈴山さんの小さな肩が大きく揺れる。
そのまま顔色は徐々に暗くなっていく。
何故会ったばかりの先輩が、そんなことを知っているのか。
そもそも私の正体を知っているのだろうか。
そんな色々な不安が彼女をより一層張りつめた表情にさせているのは明確であった。
このまま沈黙が続くかと思い再度口を開こうとした瞬間。
「……悪いんですか…?」
か細く、それでいて消え入るような小さな声を僕は聞いた。
それを理解した頃には鈴山さんは顔をあげて声を張り上げていた。
「生きることが辛くて逃げることがそんなにわるいことなんですか!?」
その顔は怒りでもなければ悲しみでもない。
なんで分かってくれないのかという、わがままな子供の印象を僕に与えた。
「私は…先輩とは違うんです」
辛そうに顔をゆがめながら彼女は告げる。
「私はそんなに……強くないんです…」
己の弱さを。
「私みたいな生まれてから中途半端な存在は元から居場所がないんですよ」
半吸血鬼の彼女は語る。
自身の胸の内を。
「先輩はすでに知っているみたいですけど、私は人と吸血鬼の間に生まれた半吸血鬼なんです。科学者達は異種間で生まれた存在は桁外れの数値をだすとか計算の話しかしないですけど、そんな簡単な話じゃないんですよ」
「………」
僕は口をはさむことはなく静かに話を聞く。
それが今のベストだと思いながら。
「吸血鬼の仲間には食料同等だと罵られ、人間からは自分たちを食らう化け物だと蔑まれ……しまいには両親さえも失いました」
「……っ」
僕はリリーさんの話を思い出す。
あの滑稽なまでに全知無能を誇る女の語りを。
「彼女の両親はもういない」
いや、より正確には殺されたといったほうが良いかな?と博識な女は付け足す。
「そもそもさ、無理なんだよ。異種同士が愛するなんてことはさ」
「それはリリーさんの個人的な意見だろ。僕はそうは思わないけれど…」
「確かに愛することは出来る。でもそれはあくまで本人達だけの中でだ。世界はその二人だけのものではない。周りには無数の世界が存在するんだよ春斗君」
ようするに、とリリーさんは言う。
「愛することは出来ても愛し続けることはできない。どうやったって周りの、それこそ自分たち以外の世界が徹底的にその世界を拒むのさ。みにくいアヒルの子とかが良い例さ」
周りと少し違うだけで省かれる。
削除される。
そんな世界が今日もまた平然とさながらのうのうと成立している。
「結局はさ、口だけならどんなに甘ったるい性善説を述べることができても実際にそんな局面に会えば人は…いや、世界は変わるのさ。そんなことくらい君が一番よく分かっているんじゃないのかな?春斗君」




