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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood4:命ノ価値ト君ノ価値 part4


そう言うなり天子はバッ!と勢いよく立ち上がり、そのまま流れるように口を開く。


「名乗り遅れましたっ!私“わたくし”鬼の血をひきますは天地の天に子供の子と書きまして天子と申しますっ!現在は我が偉大なる主、木戸 春斗様の式として恐れ多くもお側にいさせていただいておりますっ。以後お見知りおきをっ」


さながら学生の学習発表会のごとくハキハキとした口調で目の前に座っている鈴山さんに自己紹介をした天子。


堂々と胸をはり、眉をキリッ!とさせたその顔は「どうですか?鬼の頭領として恥じない最高な自己紹介をやってやりましたよ!」と、口に出さずともこちらに伝わってきた。


本人的には自分の主の顔をキチンとたてましたみたいに思ってるとは思うが、僕からしたらそこまでガチガチに固まった自己紹介でなくても良かったのにと、つい思ってしまう。


まあ、初めて会った人に対してということを考えれば堅苦しい口調はともかく、あそこまで説明するのは大事なのかもしれない。


あそこまで言ったら、いかに理解力が乏しい馬鹿だとしても、しっかりと伝わることだろう。


さて、そんな自信たっぷりの自己紹介を直接向かされた鈴山さんはというと、


「どうも、先輩の後輩にあたります鈴山 山葵と言います。よろしくお願いします」


コンパクトにまとめた文を淡々と口にしてはペコリとその頭をさげる。


天子に是非とも見習ってもらいたい端的な自己紹介である。


そんなことを思っていると先程頼んだコーヒーが2杯連れ添うようにして運ばれてきた。


お待たせいたしましたみたいな旨を業務的な口調で言った後、そそくさとコーヒーだけを残してその場を後にした。


隣に座る天子が、あれ?私のパフェは?みたいなキョトンとした顔でフリフリスカートの店員さんの後ろ姿を何度も見返しているのがなんとも微笑ましいかぎりである。


僕は早速届いたばかりのコーヒーを自分の手元へとひっぱり、ソーサーと共に付属されていたミルクをその中へといれる。


とろり、と液体にしてはやや粘着質なミルクが黒という非対称な色彩を放つコーヒーと混ざり合っては

新たな風味を加えていく。


そこから放たれるどこか気の抜けた白い湯気が僕の鼻腔をくすぐる。


と、それっぽいことを感じながら僕はコーヒーを口にする。


鈴山さんは前もって置いてあった角砂糖を数個いれてから飲んでいる。


飲み終わった後の顔から、どうやらあまりコーヒーは得意ではなさそうだった。


なんだか申し訳ないことをしてしまった。


申し訳ない、というフレーズを頭に浮かべた僕はここが良い機会だと思い早速行動に出た。


「ねえ、鈴山さん」


「う……は、はい」


僕の呼びかけに鈴山さんは苦味にもだえながら反応を示す。


少しばかり時間を空けたほうが良いのかも…?とは思いもしたがそんなことをしていてはいつまでたってもグダグダになってしまいそうだ。


鈴山さんには悪いが、ここは僕のわがままにつきあってもらおう。


「この前は…その…すまなかった」


そう言って僕は頭を机にくっつくかどうかといった位の所まで下げる。


「こんなことで許してもらえるとは思わないけれど、それでもこれだけは君に伝えたくて……本当にすまなかった」


「…………」


ボフンッ!という音と共に隣に座っていた天子が姿を消した。


どうやら空気を察して僕の持っている札に戻ったようだ。


「……顔を…あげてください」


静かなトーンの、やや暗めの声が僕の両耳に届く。


そのまま繋げるようにして鈴山さんは口を開く。


「こちらこそ、あんなひどいことを言ってしまって……ごめんなさい……」


そう言うなり彼女も彼女で頭をさげる。


これではどちらが謝罪をしてるのか客観的に見たのなら判断しかねる状況である。


今度は僕が頭をあげるよう鈴山さんに頼んだ。


すると彼女は少しばかりぎこちなさげに顔を元の位置に戻した。


お互いがお互いに反省の色を示すなか、僕は話題を改めるように口を一度強くつぐんでから開く。


「…君の言うとおりだよ……」


あまり口にしたくはないが、ここまできたのだ。


彼女には………鈴山 山葵にはしっかりと聞いてもらいたい。


僕が僕であるために。


彼女が彼女でいられるように。


僕は口にしなくてはいけない。


「…僕は……君の言うとおり…化け物だよ」


否定はしない。


取り繕うこともしない。


ただただ真実を告げる。


「悪魔にもなれず人にもなれない……そんな不死身の化け物さ」


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