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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood4:命ノ価値ト君ノ価値 part3


「ふふふ……」


僕と天子の他愛もないやりとりを目の当たりにして、彼女なりに思うところがあったのだろう。鈴山さんはくすくすと、その小さな両肩をかすかに上下させながら感情を明るい笑い声として放っていく。


今思えばそれが僕が初めて耳にした彼女の明るいトーンの声であった。


会えばいつも憎さや恨み満点といった様子だったからだろう、こういった飾りっ気のない感情そのものを素の状態で見ることが出来たのは正直驚きを隠せなかった。


批判や中傷さえされる覚えはあるが、彼女が無防備に僕に自身の感情をさらけ出すとは思えなかったからだ。


「ふふ……あっ…す、すいません。あまりにも二人の仲がよかったものですからその、つい……さ、さぞや深い仲なのでしょうね!あははははは…」


僕の視線に気づいた鈴山さんは、それから取り繕うように慌てた態度で少々ぎこちなさげに口を動かしていく。


発言内容がいまいちおかしいと思った僕であったが、それもそのはず。なんせ鈴山さんと天子は今日が初対面なのだ。


鈴山さんがなにかしら僕たちの関係性を勘違いしていたとしてもなんらおかしなことではない。


むしろその勘違いが変な方向にいってしまったらそれこそリリーさんのいう下手な地雷を踏んでしまう可能性が出てきてしまう。


頭の中で瞬間的にそう思った僕は、気付けば隣にちょこんと座ってはワクワク気分で好物を待つ鬼のロリ娘の両肩に手をそえて、鈴山さんの注目をそちらに向けた。


「そ、そそ、そういえば紹介が遅れたね!この子は僕の式で天子っていうんだ。ほ、ほら天子。鈴山さんに軽く自己紹介でもしてやってくれ!」


「八ッ…!苺に目を奪われてしまったがために、そんな当たり前のことを忘れてしまうとは……っ!?この天子…一生の不覚っ!」


「そ、そこまで深刻に考えなくても良いんじゃないかな?…」


天子のあまりにも大袈裟な(本人からすれば大真面目)反応に少しばかり困った様子で慰めにも似た言葉を発する鈴山さん。


だがしかし僕の式はその優しい対応にもすがることなく、ひたすら懺悔の無限ループを繰り返していた。


「私欲に目がくらみそんな当たり前のこともできぬとは…っ!ご学友にご迷惑をおかけしたこともそうですが、なにより我が偉大なる主に恥をかかせてしまうとはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!これで主君を守る一番槍が務まろうかぁぁぁぁぁぁっ!!??」


「あ、あの~…て、天子さん?」


「その答えたるや否っ!だんじて否っ!!せめてもの償いです…春斗様っ!」


「は、はいぃぃっ!?」


天子のあまりにも圧倒的な覇気に思わず語調が弱弱しい尻上がりな感じになってしまった。今なら不良に絡まれた不幸な少年少女の気持ちがわかる気さえした。


「天子めに春斗様からご寛大な罰をお願いしたいのですっ!そうでなければ他の者にも示しがつきませんっ!!ですからなにとぞお願い申し上げますぅぅぅっ!!」


「お前は一体いつから極道の道に足を踏み入れたんだよ!?」


我ながら見事なツッコミが手刀となって天子の頭頂部を的確に狙い撃つ。


些細なミスなんて人間誰しも良く起こりうるものである。当然、それは妖怪にだって当てはまるはずである。


僕は別にスパルタご主人様ではない。自分の式の些細なミスくらいすんなりと受け入れるだけの器量は持ち合わせている。


それなのにうちの式は一体全体どういう思考回路をしているのだろうか。


そういえば、と僕はここにくる途中に電車の中で思い返した風子ちゃんとの会話内容を思い出してみた。


たしか天子は自身が鬼の頭領だからそれ相応の覚悟のもと僕の式をやっているとかなんとか……。


恐らく、さっきの他の者に示しがつかないという発言は自分の部下である他の鬼たちのことを指し示しているのだろう。


しかしながらそういった事情をふまえても、やはり文明開化もしていない原始的な考えであることには変わりはない。


とりあえず天子には現代的な思考回路を組み込んでもらう必要がありそうだ。


「そ、その話は家に帰ってからゆっくりとしてやるから、な?さあ、気を取り直して自己紹介自己紹介!」


「さ、さようですねっ!これ以上春斗様のご学友の面前で恥を上書きするわけにもいけませんっ。さすがは我が偉大なる主様でございますっ!!」





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