Blood4:命ノ価値ト君ノ価値 part2
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「いらっしゃいませ。三名様でお待ちのお客様お席がご用意できましたのでご案内いたします、どうぞ」
最早お決まりとなりつつあるセリフと対応を受けた僕らは愛想よく会釈してから店員の案内に従って後をついていった。
現在、僕ら三人は聖安役所の中にある職員の休憩用エリアと思われるちょっとしたカフェに足を運んでいた。
建物の外装はこれみよがしに和の感じを全面的に押し出しているのにも関わらず、内装の方は驚くほど現代的なデザインとはこれいかに…と思ってしまう僕であったが、あくまで金銭を取り扱う場所というわけで業務上こういった生真面目な作りでなければいけないのであろう。
と、前に由佳奈とここに訪れたときにそんなことを聞かされた気がする。
彼女も彼女でだてにゲームばかりしているダメ人間ではないらしい。
さて、話の流れをもどそう。
色々な目的を手に僕はリリーさんのいいつけ通りの時刻にこの場所へやってきた。
するとやはりというか相変わらずというかリリーさんの言った通りの時刻ジャストに彼女は現れた。
鈴山 山葵。
半吸血鬼の少女。
僕を殺しうる存在。
僕は彼女に会うがためにここまでやってきたのだ。それこそ色々な目的というのをはたすためにである。
目的地に到着早々、彼女をみかけた僕は名前を叫んで即座に呼び止めた。なんだかそうしなければ次に声をかけるタイミングというものを見誤りそうな気がしたからだ。
しかしながら彼女…鈴山さんからすれば僕とは顔も合わせたくなかっただろう。それはこの前僕が暴力をふるった件、それと学校中に自分の隠していた立場がばれてしまったりと嫌なことが立て続けにおこってしまったから。
リリーさんは鈴山さんのことを精神的に強い子だといっていたが、すくなからずまだ顔見知りの人とは会いたいくないという気持ちはあるはずだ。
それなのに鈴山さんは僕の呼びかけにも普通に反応を示し、さらには自分から話があるから時間をほしいとまで言ってきた。
僕としては断る理由もなく、本音を言えばその流れをつくるのにどうしようか言葉がつまっていたくらいだった。
そいうわけで、彼女の持つ合成魔討伐を証明する封印札を役所の職員に渡してから、こうしてゆっくりと話のできる場所へと移動したのであった。
「こちらの席でございます。ご注文お決まりしだいお伺いいたしますので、お決まりになられましたらそちらのボタンを押してくださいませ」
それでは失礼いたします、と長いフレーズを噛むことなく口にしたフリフリスカートの店員は僕らと薄っぺらなメニュー表を残してその場を去って行った。
直後とてつもなく重い空気が周囲一帯を埋め尽くす。
ここに植物とかあったらシオシオと枯れていきそうな沈黙という名の重圧が僕を襲う。
こういう時に軽いジョークの一つや二つぶら下げて場を自分のものにするくらいのコミュニケーション能力があったならと、遅いながらも後悔してしまう。
「は、春斗様っ……」
そんなことを思っているさなか僕の隣で待機中の天子が、静かに僕の服の裾を軽く引っ張ってきた。
もちろん次のアクションに困り果てていた僕の意識はやすやすとそっちの方へとむかっていった。
「どうした天子?」
「い、いえですねっ……そのっ…何と言いますかっ…」
なにやら言いづらそうにもじもじと小声で話す天子。最初トイレかと思った僕であったが、すぐにそうではないことに気が付いた。
それは天子の視線をたどっていった時である。
天子のかわいらしいクリッとした両眼がとらえているのは、先ほどフリフリスカートの店員が置いていったメニュー表の表紙部分を飾っている華やかな苺を使った料理の写真。
そのなかでも一際天子の目をひいていたのは、もうびっくりするくらい苺感満載なパフェ。
ここまでわかれば、後の推理は容易である。
「そういえば天子、お前ヨミ婆ちゃんのところにいた頃から苺大好きだったよな」
「は、はいっ!天子めは苺が大好きでございますっ!!」
「よし、じゃあスーパーで安売りしてたら買ってくるよ」
「!!!!!!??????」
ほんの軽い冗談でいったところ、苺大好き鬼はリアクション芸人ばりの見事な絶望顔を僕に披露してくれた。
予想以上の反応に思わず笑いをこらえてしまう僕であったが、天子はそれを見るやすぐさま事態を把握したらしく今度はジトッと少しばかり不機嫌そうにこちらを見てきた。
「春斗様っ…天子をからかってはおりませんかっ……?」
「ぷっ…じょ、冗談だって!お詫びにほら、このパフェ頼むから許してくれって」
その言葉に天子は180度くるっと変わった底なしに明るい顔を僕に見せてくれた。
見た目が幼児化しているせいか、なんだが性格まで子供っぽくなっている気がする…というのはここだけの感想である、
とにもかくにも僕は近くにあったボタンを押し、やってきた店員に天子所望の苺パフェとコーヒーを二つ頼むことにした。
コーヒーも一つは僕、もう一つは鈴山さんにである。




