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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood3:埋マラヌ溝 part8

と、ここで僕は言葉を発するのをとめた。いや、とめたというよりはそれは途中で寸断されたといった方が正しい。


その瞬間、確かに僕の頭の中では自分の発言と天子との発言を数値化し、その矛盾点・疑問点をさながらスーパーコンピュータのごとく素早い速度で演算処理にかけていた。そして再びそれを文字コードに変換し、脳内処理を施した。


それは革命的なもので、まるで途方もなく広大な砂漠の中に落ちていたひとかけらのダイヤを見つけ出したような爽快感さえも感じさせた。


電車内にいるにも関わらず不思議と風が僕の髪の毛を通っていく感覚が充満する。


「…そうだよ」


やがて僕は一度寸断した口を再度、だが先ほどよりも確かな感触を掴んだまま開いていく。


「そうなんだ!隠しているなんていう行為がそもそもおかしいんだ!よくよく考えたらすぐに分かることだったじゃないか!!」


一度、確信を感じた言葉は止まることなく意識よりも早くこぼれでていく。


「鈴山さんは協会側の人間からすれば貴重な存在だ。そんな協会が彼女の体調の変化を見落とすわけがない!それこそ“自分から隠さない限り”!!だからこそ僕たちは見落としていたんだ!彼女が死にかけている理由は、誰かの命令や何処かの陰謀なんてものだとばかり勝手に思い込んでいた!!」


前提そのものが違っていた。これには確かな自信があった。


仮に鈴山さんが外部からそういう圧力をかけられていたのだとすれば、それはまず協会側がすぐさま察知するはずだ。


なぜなら彼女は特別なのだ。


この不死身である僕を殺しうる力をその身に宿した特異な存在なのだ。


武器としては最適すぎるほど最適な彼女だが、それと同時にいつ自分たちにその鋭利すぎる刃を向けるかといった危険性もはらんでくる。


そうなってくると尚更、協会側が彼女を放置する可能性は無くなってくる。


それはつまり、日々の生活状況を隅から隅まで把握されているということである。


この段階で彼女が他の組織からなんらかの接触をうけているという可能性はなくなり、さらには協会側は彼女に徹底した管理を施しているということは確実だ。


それなのに彼女…鈴山 山葵が何故死にかけているのか……これについての可能性も先ほどの考えを含ませればいくばくか絞れていく。


現状、最もありうる可能性。それはつまり……。


「……違っていてくれ…」


言葉が勢いをなくした。


いや、それどころか自身の脳内にあふれていた考えそのものを無碍にするような行為だった。


自分が導き出した結論に、僕は首をふって目をそらした。


認めたくなかった。認めてしまえば彼女の存在が薄れた霧のようにあいまいなものへと変貌していく気がしたのだ。


「春斗様…っ」


隣に座る天子が苦い顔をしている僕の手を、その小さな両手で包み込んできた。


優しく、それでいて暖かな温もりを感じさせる手で僕を支えてくれた。


「天子めには春斗様がお考えになられていることは事細かに察することはできませんっ。ですが、おそらくは天子めとほぼ似たような考えではないかと思いますっ」


そういう彼女の顔は、とても大人びているように見えた。


僕なんかよりも多くの年月を過ごしてきた、全てを冷静に傍観する大人の目。


天子はそんな顔を僕に向けたまま、口を動かしていく。


「まだ確定したわけではありませんっ。ですが、もし天子たちが予想した通りの結果だった場合、それでもご自身をお攻めにならないでくださいませっ……」


その優しい声に、僕はかすれた声で返事を返した。


しかしながら、ちょうど次の駅に到着する旨を伝えるアナウンスがそれを遮った。


天子の耳には聞こえなかったであろろう僕の返した言葉はこうだ。


“それでも僕はきっと自分を恨むよ”……と。




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