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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood3:埋マラヌ溝 part4

____________


木戸 春斗が博識な女と会話をしている頃、同時刻に財前 由佳奈は和風チックな自宅の大豪邸にて、とある人物と対談をしていた。


魔払い師としても陰陽師としても名を馳せる財前家の館に来たのは、一人の少女。


赤紫の長髪は後ろで一本に縛られており、衣服は由佳奈の通う東雲しののめ学園高等部の制服を身にまとっている。


春夏秋冬朝昼晩、常に学園の制服を身にまとう変人極まりない彼女の名は愁煉しゅうれん 竜華りゅうか


名門である財前家と百年もの間、強い結びつきを持つ愁煉家は財前家が唯一同盟を組むことを許した名実共に優秀な一族であり、その子息である由佳奈と竜華もまた親友というくくりでは収まらない程の信頼関係を築いている。


そのせいもあってか週末になってくると、竜華が由佳奈の屋敷に泊まりに来るということが最早お決まりのスタンスとなっている。


そんなわけで今回もまた財前家では名門の少女二人がロイヤルな作りの大理石の長机を挟んで使用人が用意したお菓子と紅茶を片手に優雅にガールズトークに興じているのであった。


「……はぁ~…」


「どうしたのよ由佳奈、今日はまた一段とお疲れのようじゃない?」


「お疲れのようじゃなくって、お疲れなの。全く…あのバカといると疲れがたまる一方ね」


あからさまに疲労の色を織り交ぜた由佳奈の発言に、しかし竜華はニヤリとその口元を緩ませる。


その表情を目の当たりにした由佳奈は少々不満げに眉をひそめてみせる。


「………何よ。親友が疲れてるっていうのに、にやけちゃってさ~…あんたには思いやりってものがないわけ?」


「いや~、ごめんごめん。また由佳奈がノロケ話をし始めたものだから、つい顔にでちゃった」


「ノロケ話って、あんたね……。私がいつ竜華に自分のノロケ話を披露してみせたっていうのよ」


「よせやい、自覚してるくせに。大好きなおバカさんとの話を泊まりに来る度聞かされる私の身にもなれっての。このリア充め」


明らかに確信犯な竜華の言動に、普段はクールな由佳奈も頬を若干赤らめてなにを言うわけでもなく、酸素を求める魚のようにただ口をパクパクと開閉させている。


その姿を楽しげに観察しながら、竜華は机の上にタワー状になってあがっているマカロンを一つ手に取り、それを大きく開けた口の中にポイッと放り投げる。


竜華はそれをガリガリと、さながら氷砂糖を噛み砕くかのように乱暴に咀嚼していく。


「モグモグ……ありゃ、もしかして図星~?」


「そ、そそ、そんなことあるわけないでしょうが!あんなバカをす…好きになんてなるわけないじゃないの!?」


いつもの由佳奈からは考えられない慌てっぷりは、しかし一番の親友である竜華にとっては最早見慣れたもので、これもまた親友としての特権と言えるだろう。


クラス内では絶対不落のドS女王として知られる由佳奈だが、どうにも竜華の前では本領を発揮できないでいた。


いや、正確には竜華が由佳奈と同じくらいのドS力を持ち合わせているため、互いの力が拮抗しているといったほうが正しいのかもしれない。


「もう、竜華ったら出だしから飛ばしすぎだって」


「だって良く言うじゃない、やられる前にやれっていう画期的な名言が」


「そんな乱暴な名言をもっとうにしているのは私と竜華くらいよ。四六時中携帯を体から離さずに持ち歩いている、この携帯依存症め」


「失礼ね。私はあくまで情報収集のための道具として携帯を頻繁に使っているだけであって、由佳奈みたいに単なるお遊びをしてるわけじゃないのよ。このゲーム依存症」


互いに互いの悪口を言い合うこと数分。


普通の人であれば機嫌を損ねて大喧嘩となりそうなものだが、名門の少女二人は寧ろそれを楽しんでいるようで、喜びのボルテージはウナギ上がりに上昇していった。


人をけなすことを得意とする彼女らは、どうやら普通の人とは感じ方も考え方も全く違うようだ。


「あははは!まったく、やっぱり竜華は面白いわね。さすがに私のご先祖が認めた一族なだけはあるわね」


「な~にを偉そうな事を言うか!それはこっちも同じ事だって~の」


ついには自分の先祖のことまで巻き込んだ、ガールズトークに持ち込む二人。


客観的にみた場合、果たしてこれをガールズトークなどという可愛らしいものとして分類しても良いものか……そのジャッジは限りなく否定的なものになってくることだろう。


暫し、高らかに笑いあった二人の話題は自然と最初に提示したものへと移り変わっていった。


「それで?件の彼は今度は一体どんな問題に手を出してるわけ?」


「そうね…今回は手を出したというよりは問題がむこうからやってきたといったほうが良いかしらね」


「むこうからやってきた?」


竜華の反応に、ええと簡単な相槌をうつ由佳奈は机の上に置いていたカップを口もとに持っていき、その中に入っている紅茶を優雅に口に含む。


鼻から抜ける上品な香りと口内を埋め尽くす甘美な味わいを感じながら、由佳奈は話の続きを口にした。


「ここ最近、春斗が転校生の中学生に何度も何度も襲われてるのよ」


「襲われてるって……普通男の方が女を襲うものじゃないの?よっぽど肉食系なのね、その女の子」


「その襲うじゃないわよ、このマセガキ」




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