Blood2:博識ナ女 part20
「吸血鬼が、とんでもなく激強な妖怪っていうのは分かったけどさ…結局、それが鈴山さんとどう関わってくるのさ?」
吸血鬼が自身の生命維持の為に必要な行為は人間から血液と霊力を吸い取る吸血行為。
それは、彼らにとって絶対必要なものであり、それなしでは本来備わっている極度の治癒スキルや肉体強化はキチンと働かなくなるらしい。
リリーさんの説明から、ここまでは理解することが出来た。
が、しかし。
その吸血行為なるものが、どうして鈴山さんの命の危機に結びついているのか…先程からリリーさんの話を聞きながら、それについて考えていた僕であったが、どうにもうまくまとめられない。
とんとん拍子で物事が進まないことに僕の胸中を、もやもやと煙のようなものが充満していく。
「本当に分からないかい?」
対して全てを知っている博識な女は、簡単な調子で僕にそう尋ねてきた。
何故ここまでいって予測がつかないのか……逆にその方が分からないといった感じの表情を浮かべながら彼女はあぐらをかく足を左右逆にした。
「そんなこと言ったって、僕はリリーさんみたいに完璧じゃないんだから仕方ないだろ?それに、初めから全部知っているんだったら自分で最初の段階から手をうっていればよかったじゃないか」
「おいおい…やめておくれよ春斗君。私は博識なだけで完璧ではない。全知であって全能ではないんだよ」
それに、とリリーさんは続ける。
「私は全てを知っているだけであって、全てを解決することは出来ない。だけど春斗君…君は違う。君は私には救うことのできない人を救うことの出来る力がある」
「……勝手な解釈だよ…それ」
「そうだね。これは私の勝手な解釈なのかもしれない。でも人様に迷惑をかけてるわけじゃないんだ。それくらいは許容範囲内だろ?」
人様に迷惑をかけてるわけではないとはいうが、僕には絶賛迷惑がかかっているわけなのだが、それもまた彼女の中では許容範囲内ということなのだろうか。
「なら、手っ取り早かっ教えてよ。リリーさんが本当に僕を漫画のヒーローみたいな奴だと思っているのなら」
「あちゃ~…そう言われたら教えるしかないじゃないか~。やれやれ、私は答えを求めて頭を悩ませる姿を見るのが好きな嫌な女なのに~」
後半までいってくると、そこまで言う必要はあったのだろうかという感じだが、恐らくはリリーさんのジョークだと思われる。
それに僕に鈴山 山葵の命の危険を知らせた段階で、協力は惜しまないという姿勢は示しているわけだから、はなから直ぐに教えるつもりだったのだろう。
そう考えてみると、案外性格が悪いということに関して言えば嘘ではないのかもしれない。
「はぁ~…春斗君に脅されたとあっては要求をのむ他ないからね。仕方がない、教えてあげよう」
発言内容とは裏腹に、そんなことなど微塵も感じていないといった表情でリリーさんは再度、口を開ける。
「吸血行動が吸血鬼にとって必要不可欠なものだということは、さっきの説明で分かったよね」
リリーさんの問いかけに、僕は首を縦にふることで反応を示す。
「では、それをふまえて一つ例をあげようか」
リリーさんは、自分の人差し指をピンと天井を指し示すように立ててみせる。
「Aさんという人がいたとしよう。その人はとある雪山を登っていたけれど、急に山の天候が悪化して猛吹雪が襲ってきたので、偶然近くにあった洞窟で吹雪をやり過ごすことにしました。けれども、吹雪は止むことはなく挙げ句の果てには雪崩が起こり洞窟の入り口は閉ざされてしまいました………さあ、ここからが問題だ」
リリーさんは立てていた人差し指を引っ込め、しかしながら口を動かすことを止めることはない。
「Aさんはやむを得ず洞窟で助けが来るのを待つことにしました。しかしながら助けは来ず、手持ちの食糧もすっかり底をついてしまった………さて、この状態で長期間過ごした場合、Aさんは果たしてどうなるでしょうか?」
もちろん、助けも来なければ洞窟内に水や食糧は一切無いという形でね、とリリーさんは付け加える。
この話が何をどういう風に例えているのかは知らないが、問題的には悩む必要もないほどに簡単だ。
それこそ悩む必要もない位に……。
「……まさか…」
「そう、そのまさかだよ。流石に気付くのが早いね」
リリーさんの提示した例え話。
これが何を意味していて、それでいて僕に何を伝えたかったのか…それらの答えを推理思考のはてに導き出し、その導き出した答えに驚く僕を、しかし博識な女は表情を微塵も変えることなく、ただただ一定のリズムで言葉を紡いでいく。
「食糧も水も摂取せずにいれば間違いなく人は死ぬ。つまり私が君に言いたかったことは、それなんだよ」
博識な女は腰まで届く長い髪を指先で弄び、それでいてその瞳に刃のような鋭さを帯びさせて、本当に最後の答えを口にする。
「鈴山 山葵は吸血鬼の生命維持に必要な吸血行動をとっていない」
だから……。
「彼女は死にかけているんだよ」




