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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood2:博識ナ女 part18


閉ざしていた瞳を音もなく開けると同時、リリーさんは変わらぬトーンの声を出した。


「彼女は人と吸血鬼の間に生まれた、半妖は半妖でも、それより更に希少な半吸血鬼の少女なんだよ」


思考に空白が生じた。


文字通り頭が真っ白になった。


鈴山 山葵という少女には周りに公表出来ない何らかの秘密があるのではというところまではなんとなくだが予想はついていた。


そう思った何よりの証拠は明らかに他の人とは気配が全く違うということを知ったときだった。


そんな彼女が今や数える位しか存在しない幻の西洋妖怪…吸血鬼の血をひく半吸血鬼とは流石に思いもしなかった。


こんな正解率の低い問題を出されたのは生まれてこの方初めてである。


つい先程まで頭に張り巡らせていた様々なifの可能性が全て的外れだったことに落ち込むなんてことはない。


「……それが鈴山さんの死に、どういう風に関係しているっていうんですか?」


半吸血鬼ということで色々と聞きたいことはあったのだが、僕はその中から鈴山 山葵の死に関するものというあまりにも限定した情報の開示を、リリーさんに求めた。


「それについての説明は簡単だ。いや、簡単すぎるが故に、じゃあ何で死にかけているのかという疑問すら覚えることだろう」


まあ取り敢えず落ち着きなよ、というリリーさんの言葉通り、僕は申し訳程度の深呼吸を少しばかり行い、心を落ち着かせようとする。


が、しかし。


そんなことをやっても以前のように直ぐに気持ちが楽になるわけもなく、僕は焦る気持ちもあったりで早急にリリーさんに情報のさらなる提示を要求することとなった。


「はは、相変わらずのお人好しだねぇ~、春斗君は。でも嫌いじゃないよ。君のそういう狂った所は」


「僕の話は良いんだ。今僕が知りたいことは鈴山 山葵についてだ」


「君にとって、それほど重要な存在ではないと思うんだけどね~彼女は。もちろん私としても自分の求める正義に多少なりとも関与しているというだけであって彼女そのものに特に強い感情は有していない」


「でも、死んでもらったら困るんだろ?それは強い感情を有しているってことにはならないのか?」


「ああ、悪い悪い。私の言い方が悪かった。私が彼女に求めているのは半吸血鬼としての力という意味だけであって、それ以外にはない。なんせ下手をしたら君を殺しかねないほどの力だからね。そりゃ興味ももつさ』


リリーさんはさり気なく、とんでもないことを口にした。


それは僕にとっては聞き流すことのできないものだった。


不死身の僕を殺す?


この何をしても絶対に死ぬことのない力をもつ僕を?


そんな少女を、しかし博識な女は目にも留まらない単なるモブキャラ程度にしか考えていないようだった。


「力だけが強い奴なんて、どこにでもいるよ。私の知るうえではそれこそごまんといるね」


ただ、とリリーさんは続ける。


「その力をどういう風に使っていくのか……肝心なのはそこにあると思うんだよね私は。まあ、鈴山 山葵はその点に関していえば少々見込みがあったから、こうして少しは気にしているって感じかな」


知ったような口振りで、だがキチンと確信をもって博識な女は告げる。


全ての事物の顛末を知る女は、どこまでもどこまでも主観的な意見でしかものを言えない。


しかし、それが結果的にあっているというのだから驚きである。


「ふふ、それじゃあ鈴山 山葵が何故死にかけているのか……その理由を述べていこうか」


「…………」


「さっきも話したように鈴山 山葵は吸血鬼だ。いや……より正確にはその半分、つまりはヴァンパイアハーフと呼ばれる存在だ」


「……ヴァンパイアハーフってことが原因なの?」


「それは少し違うかな。なんせ鈴山 山葵はハーフとはいえ、その本質は限りなく吸血鬼のそれに近い。いや、それだけといっても過言ではないくらいに、その影響は大きい」


だてに幻の西洋妖怪なんて呼ばれてはいないからね、その血もまた幻レベルに強かったんだろうさ、とリリーさんは若干の皮肉も含めて言葉を付け加えた。


「それで、だ。さっきも言ったとおり、種族的なもの……つまりは吸血鬼性が現在進行形で鈴山 山葵の命を脅かしている要因になっているんだ」


「吸血鬼性ってことは……太陽の下で生活していることが原因?」


「いや違う。そこは全く心配のない事柄だよ。なんせ、彼女はヴァンパイアハーフだからね。その弱点となるものもまた半分程度の影響しかないのさ」


「…そんな都合の良いようになっているものなのか……?」 


「だてにレア中のレアじゃないってことだよ。まあ、春斗君レベルのレア度ではないけれどね」


アッハハハ、と元気な笑い声が耳を通り抜ける。


先程からずっと話しっぱなしというのに、しかし彼女はその楽しげな口調を変えることはない。


なんという維持能力であろうか。


「ここまでいっても分からないかな?おやおや…勘のいい春斗君だったら、そろそろ分かっても良い頃なんだけど…」


「……僕はリリーさんの言うように勘がいいわけじゃない。どちらかといえば鈍感の部類に入るよ」


なんせ、自分の身近にいた一人の女の子の命の危険にも気づけなかったのだから、これを鈍感と呼んで何が間違いだろうか。


それなのに自分を勘が良いだのと言うのは、リリーさんの単なる押しつけというものだろう。


「それは勘違いだよ春斗君。鈍感っていうのは実は真実に気づいているくせに、わざと気づかないフリをしている最低な奴のことを言い表すものだ。その点においては君は心配ないから安心すると良い」


やや説教臭い台詞を口にした後。


何でも知る博識な女、リリー=カルマは一瞬の間を空けてから、ようやっと核心を突く内容の言葉を告げる。


「鈴山 山葵の死にかけている理由……それは______________________」



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