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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood2:博識ナ女 part15


半妖。


人と妖怪の間に生まれた特別な存在。


異種間で生まれたそれが特別と呼ばれる理由としては、単純に人と妖怪が結ばれる確率が極端に低いということも勿論あるが、その最たるものとしてはやはり両者の力と性質の混合だろう。


人には皆それぞれ魔払い師の素質の有る無しに限らず霊力という体内エネルギーが存在している。


その霊力を自在に操れる人を魔払い師と指すだけであり、元来人間にはそういった特殊な力が備わっているのだ。


分かりやすいところでいえば占いというのも無意識のうちに霊力を媒介として発動している、まさに典型的な例である。


対して妖怪には妖力と呼ばれる体内エネルギーが存在している。


これは性質上は霊力とほとんど同質なのだが、大きな違いとしてはそれ単体で術を展開することが出来るということにあるだろう。


霊術は霊力を媒介に術者が生まれつき備えている能力と併用してしか発動しない。


しかし、そこには利点もあり自身の能力と併用して使うことにより術自体の派生を何倍にも広げることが可能だ。


だが妖術はこれとは全く違う。


妖術はそれ単体であらゆる属性、性質、種類に変化することのできるオールマイティーな術だ。


とはいえ、それも難易度があがってくれば霊術同様、大規模な術式場や術印が必要となってくるわけだが。


さて、ここで話を本筋に戻してみよう。


半妖とは前述でも言ったように人と妖怪、それぞれの性質と力を備えもった存在だ。


それはつまり何を指し示すのかというと半妖は霊力と妖力、これら二つの力を同時に持っているということである。


これがどのように働くのかといわれれば、両方の力を持っているという事は両方の術を扱うことが可能だということだ。

 

つまり、両方の良い点を備えもった強力な個体だといえる。


「君がうまく彼女の気配を読みとれなかったのも、このせいだ。半妖っていうのはどっちつかずな曖昧な存在だからね。判断するのは非常に難しい」


そう言われれば僕がうまく鈴山さんの気配を読みとれなかったのにも合点がいく。


だが、新たな疑問が同時に生まれる。


「でも何で鈴山さんはこの町に来たのさ?半妖なんて協会からしたらとっても貴重な戦力じゃないの?」


半妖は戦力としては申し分ない強力な存在だ。


本来であれば協会本部に勤めるのが妥当なせんだと僕は思うのだが…なぜ協会は鈴山さんをこんな小さな町に送り込んできたのだろうか。


小梅先生の話から察するに協会本部のお偉いさん直々に転校の手続きをしたり、住居を手配したり、普通の魔払い師とは異なる扱いをされているのは確実だ。


しかし、そんなに神経質になるくらいなら協会本部の上層部も自分たちの手の届く範囲におさえておけば良いではないか。


それなのに、わざわざリスクを承知でこの町に送り込んできたということは何か重大な理由があるに違いない。


「いいところに気がつくね~。うんうん、大分調子がでてきたようだね春斗君」


呑気に人間観察みたいなことをしているリリーさんを僕は怪訝な目で見ながら、とりあえず自分のなかにはびこる疑問を消化しようとする。


「それで、なんで鈴山さんはこの町にやってきたのかっていうことに関しては教えてくれないわけ?」


「お、よく分かったね。正解だよ」


「……………え?」


「あれ?聞き取れなかったかい?じゃあ改めて言おうか……私は君に鈴山 山葵がここにやってきた理由までは教えないと言ったんだ」


最初は冗談かと思った。


だが、その声色から変な冗談ではなく正真正銘真実だということに僕は気づく。


「前にも言っただろう?私は何でも知っている。でも、だからといって何でも教えるとは限らない…ってね」


思えばリリー=カルマという女性はこのような人物だったではないか。


この世のありとあらゆる事柄を知識として頭に保存している彼女は、それを他者にあげっぴろげに公開することはしない。


恐らくリリーさんのなかでは何らかの基準があるらしく、教えてもよい知識と教えてはいけない知識があるようだ。


表面上の事柄に関しては教えてくれるが、その奥深くにある本質については絶対に教えてくれない。


どうやらここが決定的な境界線なのだと思う。


何でも知っているが、何でも教えるとは限らない。


彼女の口癖ともよべるそれを何ヶ月も会っていなかったこともあってか、僕はすっかり忘れてしまっていたようだった。


久しぶりに聞いてみても、やっぱりどことなく奥が深い言葉に聞こえてしまうのは本当に不思議なことである。




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