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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood2:博識ナ女 part14


「アハハハ!全くもう春斗君ってば素直じゃないんだから~」


そう言って、僕の頬を人差し指で何度もつついてくるリリーさん。


やり方が下手なのかわざとなのかは知らないが、彼女の長く伸びた爪が僕の頬に刺さっては痛々しい爪痕を残していく。


「いた、ちょっ、痛いってば!ちゃんと爪きっておけよリリーさん!」


「何を言うんだい春斗君。女の子にとっては爪さえも大事なおしゃれパーツなんだから、そんなお粗末な言い方をするものじゃないよ」


「だからって、人を傷つけるアイテムにするなら元も子もないだろうに!?」


僕は首を左右に振り、リリーさんの魔の手からようやっと解放された。


なんで、僕の日常はこうも攻撃的な出来事が頻発するのだろうか。


今日一日だけで考えてみてもリリーさんには爪攻撃をくらうし、風子ちゃんには首根っこを掴まれて町内を引きずり回されて尻を削られ、挙げ句の果てには頭部を粉砕させられるし、由佳奈にはボロクソ言われて精神的にダメージをくらうしで、とにかく散々だったの一言につきる。


唯一、何事もなく穏やかな時間を過ごせたのは小梅先生との会話の時くらいではなかろうか。


一日の内、唯一自分が無事だったシーンがそれだけだということにホロリと涙がこぼれ落ちそうになる。


そう思っていたところ、僕はあることに気づく。


その唯一無事だったシーンでもある小梅先生との会話内容は、果たしてどのようなものだっただろうか。


確か、小梅先生のクラスの誰かについて話していて……それで、その誰かに会いに行くことになって……。


目覚めたばかりということもあり、記憶に検索をかけるも直ぐには答えもあがってはこず、それでも必死に頭をひねること数秒。


その答えが突如として、舞い降りてきた。


「そうだ、鈴山さんだ!僕は彼女に会いに行かなくちゃいけなかったのに……ちょっとリリーさん!貴方に尋ねたいことがいくつかある!」


「おや、奇遇だね~。私もちょうどその話題に入りたかったところだったんだよ」


「………は?」


僕の気の抜けた声に、しかしリリーさんはそれすらも前もって知っていたからか特に反応することもなく、相変わらず自分のペースで話を進めていく。


「これが中辛の話。春斗君にとっても大変気になる鈴山 山葵についてのお話だ」


意識が引き込まれる。


先程なんかよりも、集中力とも呼べそうな何かが際立っていく感覚が嫌でも分かってくる。


それが一体どうしてなのか、そう問われたところでその解は分かることがない。


自分自身のことなのに、みじんを手がかりのようなものがない。


疑問と不安が混ざり合った不気味な感触が僕の皮膚を艶めかしい動きと共に滑り落ちていく。


ゴクン……と固唾を飲む音がイヤに大きく耳に残る。


聞きたくないという考えが頭に浮かぶ。


それは、何故だ?


自分は彼女のことを詳しく知りたいと思っていたのではなかったか?


それなのに、いざその機会に巡り会えたと思ったら内心では自分でも驚くくらいにそれを拒絶している。


しかしながら同時に早く聞かなければいけないという焦りもあり、それが更に脳をふるえたたせていく。


そんな状態の僕に、横合いから甘い声が投げかけられる。


「おいおい、春斗君。そんなに意気込まなくても良いって。はい、リラックスリラ~ックス」


リリーさんは焦る僕をなだめるように、ゆっくりとした口調で僕の心境を穏やかにするように促してくれる。


リリーさんの言うとおりだ…落ち着け。


変に意気込んだところで利点など特にない。


焦ってはいけない。


いつも通りの、木戸 春斗を見失ってはいけない。


そう判断した僕はすぐさまリリーさんの言うとおり深く深呼吸をして心を安らかにするよう心がける。


数回してみたところ、幾分か穏やかになってきたような気がした。


これなら、話もすんなりと頭に入ってくることだろう。


「どうやら落ち着いたようだね。よし、それじゃあ話に戻ろうか」


自分の深紅に染まった前髪を指でくるくると巻き付けるようにして弄びながら、リリーさんは語調にやや剣呑な光を帯びさせて、そして語りだす。


「まずは鈴山 山葵とはどのような存在なのか…そんな初歩的で基本的なところから話してみようか」


返答を求めるような言い方だが、その本質は違う。


今の言い方の真の意味合いとしては、今からとんでもないことを話すけど心の準備はできているか……そんなニュアンスだ。


どんとこい!という強い心構えはできないが、それでも十分に立ち向かえる程度には身構えることは出来ていた。


僕は頷き一つで、それに対する反応を示す。


リリーさんは、それを確認してから閉ざしていた口を今一度薄く開く。


「鈴山 山葵………彼女は人ではない。かといって妖怪の類でもない。けれど彼女は人でもあるし妖怪でもある。他人の生命力から大体の情報をつかみとることのできる春斗君は既に確認済みだよね」


「……たしかに鈴山さんの気配は良くわからないものだった。人に似た性質でもあるし、リリーさんの言うように妖怪にも似た性質も備わっている感じがした」


「おやおや…そこまで分かっているなら、おのずと答えは導き出されてくるはずなんだけどね~……春斗君にしては随分と鈍いですこと」


と、妙に癇に障る物言いをするリリーさん。


おのずと答えは導き出されてくる……ということは僕は既に鈴山さんの正体を知ることのできるキーワードを手に入れているということなのか。


両方の性質を備え持った存在……人でもあり妖怪でもある……。


瞬間。


僕の頭に一つの答えが導き出される。


それとほぼ同時に、リリーさんは焦らすようにして言わなかった答えを、ようやく口にした。


「そう、鈴山 山葵は人と妖怪の間に生まれた希有な存在……私達がいうところの半妖という存在だ」




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