Blood2:博識ナ女 part7
リリーさんはあまりにも笑いすぎたせいで、目尻に涙をうっすらと浮かべながら口調も心底愉快げに言葉を発する。
「いや~、これは参ったな~。まさか自分の式に嫉妬されることになるとはね~、私ったら罪な女だよ。アハハハハッ!」
そう言って、僕の隣で身をよじらせながら恥ずかしがっている風子ちゃんの頭をリリーさんは乱暴な手つきでワシャワシャと撫で回す。
「……………うにゅ…ご、ご主人…しょ、少々風子を弄りすぎてはないでしょうか?」
「なにを言ってるんだい風子。私にこうされるのが本当はお好みなんだろう?そうなんだろう?く~っ!かわいいな~コイツ~!」
「………や、やめてくださいご主人…!こ、黒血さんもジロジロ見ないでください!」
さんざんいじられまくった風子ちゃんは両手をバタバタと振り回しながら、僕とリリーさんにこれ以上自分をいじることを止めるように求める。
リリーさんはともかくとして、僕は単にその可愛らしい姿を見ていただけなのだが……どうやら風子ちゃんにとってはそんなことでさえも、いじりとしてカウントしているようであった。
普段人をいじる人は他人をいじるのは得意だが、自分がいじられることに関してはこと弱いというのはどうやらこれを見る限り事実のようであった。
風子ちゃんに限っては特にそれに当てはまるようで、もう一押しされれば直ぐにでも泣き出しそうな感じがひしひしと伝わってくる。
これ以上この話題を続けるのは僕としてはなんともしのびなくなってきたので、早速別の話題に変えようかとしたところ。
「そういえば、風子は春斗君のことが大好きだったよね。いやはや…ごめんね~、気を遣ってあげられなくて。私にしてもらうよりも春斗君にしてもらった方が良かったんだね」
唐突に。
博識な女がとんでもないことを口にしだした。
「うごふっ!?……ご、ご主人…!?」
「あれれれ~、今のは秘密だったっけ~?アハハ、こいつはやっちまったZE☆」
大した反省もすることなく、どことなくやり慣れた感のあるウィンクをしてみせるリリーさん。
しかし、僕が今気にするべき点はそこではない。
「え、風子ちゃんって僕のことが好きだったの?」
僕の耳が狂っていなければ、たしかにリリーさんの口から発した言葉はそう聞こえたような……。
「~~~~~~~~~~~~~ッ!!??」
僕が尋ねたその質問に、風子ちゃんは再び顔を真っ赤に染め上げる。
そして、そのまま意味の分からないうなり声に似たものをあげながら、僕の頭めがけて何を思ったのか固く握った自分の両拳を思い切り叩きつけてきたのだ。
それを理解する頃には既に、その行為を止めることは叶わぬものとなっていた。
直後に、ゴッ!!という人肉がつぶれるような嫌な音を鳴らして、僕は椅子もろとも勢いよく床に叩きつけられてしまったのだった。
「が……ッ!?」
突然の攻撃に防御の姿勢すらとれなかった僕は風子ちゃんの限度の知らない暴行に、ただただ小さな悲鳴をあげることしか出来なかった。
頭から顔にかけて液体のようなものが伝っているのが分かる。
それに伴うようにして爆発的な痛みが感覚を支配する。
これは痛みのレベルと出血量からして、そうとうな重傷であることを僕は容易に推測することが出来た。
そんな状態で床に倒れこむ僕をカウンターからリリーさんが覗き込むのが視界にはいった。
「おやおや……照れ隠しにしては随分と派手にやりすぎたんじゃないのかい風子?見てごらんよ、骨と肉がぐちゃぐちゃになって春斗君がちょっとしたチョコクランチになってるじゃないか」
「…………も、もともとはご主人が突然あんなことを口にするからいけないんです………」
「だって、事実じゃないか~。おっと、これ以上言ったら私も春斗君みたいにされちゃいそうだから、そろそろ止めておこうかな」
……などと瀕死の僕を全く問題視しない会話が淡々と繰り広げられているのを確認した後、僕は静かに意識を失った。




