Blood2:博識ナ女 part4
「……………ハイハイ。それでは黒血さんも本調子になってきたところで、そろそろ中に入りましょうか」
「どちらかというと絶不調だよ!っていうか尻を削らないと本調子にならないって一体どういうことだよ!?」
「……………どういうって…まあ、そういうことなんじゃないでしょうかねぇ…?」
「返答が雑すぎるよ!?どうせやるならちゃんと意識をもって内容のあるものを頼むよ!」
と、僕の熱の入った物言いにも特に目立った反応を見せることなく半ば放置プレイな感じで風子ちゃんは僕を無視して扉を開け、さっさと目の前にあるうす汚い店へと入っていってしまう。
わざわざ痛い目にあってまで連れてこられたというのに、ここにきて入らないという選択をとるのは僕にとって損にしか働かないだろう。
もとより、風子ちゃんの主が意味もなく僕を連れてくるよう命じるとは到底考えられない。
なにかちゃんとした理由があってのことだろう。
そう判断した僕は金魚の糞のごとく風子ちゃんの後をついていき、まず普通の人ならば入らないであろう怪しい店に足を踏み入れた。
カランコロンカラン…と出入り口の扉に取り付けられた鈴のような物が鳴り響き、それが店内に人が来たことを知らせてくれる役割を果たしている。
音が鳴り渡る店内は、以前僕が来たときと全く変わった様子はなかった。
入って右の所には横長の商品棚があり、そこには見たこともない怪しい品々がバリエーション豊富に揃っている。
雑貨屋ということだが、個人的な見解としては安全保障のされていない危ない品を売っている怪しい店にしか思えない。
しかし、そんな危険な匂いがプンプンとするコーナーは店内の右半分だけに収まっており、もう左半分はちょっとしたカフェになっている。
だが、もともとの店の広さもあってか、あるのはカウンターと、そこにくっつくように並べられている数脚の椅子しかない。
総合して見ると外の印象とは異なった大変綺麗に仕上げられた内装をしている、がしかし雑貨屋というくくりに入るかどうかは正直微妙なところではある。
と、久しぶりに見た店内の様子について、そういった感想を抱いていると先に入っていた和服幼女の鬼が、カウンターで僕に向かって手招きをしているのが視界にはいった。
何事かと、手招きされた方に行ってみると…。
「……………黒血さん。風子はご主人を起こしてきますので、少しの間ここで座って待っててください」
「起こしてきますってことは、あの人また寝てるのか?まったく……人を呼んでおいて寝る奴がいるかね~……」
「……………ご主人の侮辱は式として訂正させなくてはいけないものですが…それに関しては風子も同意見です」
「…そう思っているなら、さり気なく足を踏むのを止めてくれないかな?」
おや、これは失礼…と、なんともわざとらしい言い方で謝ったあと、風子ちゃんは僕に一杯のコーヒーを差しだし、一礼してからそのまま店の奥へとひっこんでいく。
手先も器用でかわいらしいその容姿から、メイド服でも着させたら色んなところで需要がでてきそうなものだが、そう思う僕はロリコンなのだろうか。
店の奥へとひっこんでいく風子ちゃんの姿を、そんなことを思いながら僕は見ていた。
もしかしたら自分には幼女好きな部分があるかもしれない。
そんなどうでも良いことを思っていると、あることが僕の頭をよぎった。
「……鈴山 山葵とは何者なのか…ですか…」
血のように真っ赤な瞳に、雪のような白い肌をした少女。
影を操る特異な能力をもった少女。
僕を執拗に襲ってくる謎の少女。
由佳奈に言われるまで、ろくに考えたこともなかったが僕は彼女のことを何一つ確信をもって言い切ることが出来ない。
なんで、そこまでして僕を殺そうとしているのか。
そもそも“殺す”だなんて簡単なくくりにいれてしまっても良いのだろうか。
その行動自体に、実はもっと別の全く異なる面があるのではなかろうか。
鈴山さんが僕を狙う目的は何をしても死なないという僕の不死身性を合成魔のそれと、てっきり勘違いしているからだと僕は予想していた。
だが、しかしその予想は実は違うのではないかと今の僕は思っている。
となると、鈴山さんが僕を狙う本当の目的とはなんなのか……。
考えども考えども、その答えにたどり着くことはない。
はっきりいって、情報不足なのだ。
これがしっかりとした情報をもっていれば、少しは考え方も変わるというものなのだが……。




