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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood2:博識ナ女 part3

____________


この町には、とある噂がある。


それは世界の始まりから終わりにいたるまで過去と現実と未来関係なく、この世のありとあらゆることを知識として記憶している博識な女がいるというものだ。


禍々しい角が生え、目は常に爛々とし、口は耳とくっつきそうなほどに大きく裂け、体長は5mをゆうに越える、この世のものとは思えないほどに恐ろしい姿だといわれているが、しかしそれらは全くの嘘だと僕は知っている。


学校を出ると商店街側と学生寮側そして裏通りに通じる3つの分岐点がある。


今回は大多数が通ることを拒むであろう裏通りについて少しばかり話をしようと思う。


この裏通りは入ってみると左右に大きなコンクリートの壁が途切れることなくつながっており、人一人がようやく通れる位の幅ということもあってか普段味わうことのない圧迫感がある。


当然ながらそんなところに家はなく人通りも少ないため日の当たらない不気味な空間が続いている。


そんな道を数分歩いたところに、どうやって出来たか分からない小さなスペースが現れる。


そして、そこには誰がどのようにして建てたのか全く謎なこれまた小さな建物が静かに佇んでいる。


それは三角屋根の木造建築のようだ、がしかし壁の塗装のほとんどは剥がれておりボロボロの物置を連想させるような外装をしたその建物はれっきとした雑貨屋である。


その証拠に入り口近くのところには“鈴明堂”と描かれた、そこだけ妙に真新しく小綺麗な看板が設置されている。


それでもって、僕が現在いる場所もまさにそこであった。


「………着きましたよ黒血こっけつさん。さ、早く起きてください」


朦朧とした意識の中、僕にそう呼びかけるのは小さな鬼の式。


僕が意識を朦朧とさせるはめになった、いわば元凶の幼女である。


「…うぐ……ぼ、僕の尻は…?もしかして…も、もう削り落ちてしまったの…かな…?」


「…………安心してください。ズボンは大丈夫です。というか、削れ落ちたとしてもどうせ直ぐに再生するから良いじゃないですか」


「ふ、ふざけるな……傷の修復ならともかく、一から再生するとなると体力をとんでもなく使うんだぞ…。……っていうか、今の言い方だとズボンはともかく尻は大惨事ってことだよねぇっ!?」


商店街で風子ちゃんに捕まってから、ずっとここまで引きずられてきた僕の尻はとうに限界を迎え、最早暑いとか寒いといった感覚すら失っていた。


普通に歩いていればこんなことにもならなかったのだが、風子ちゃんはそれを極端に拒み、結果僕はこうして町中引きずりの刑に処されていたのだった。


「イテテ……全く、風子ちゃんは一度やると決めたら絶対にやり抜くよね…」


一度命令されたことをやり抜く事は式としてはとても優秀なのだが、それを自分の普段の行動にまで適用するのは彼女に関していえばあまり良くはない。


「………命令されたことをやり抜くことは悪いことですか?」


「いや、悪くはないよ?主の命令を最後までやり遂げることに関しては。…だけどね風子ちゃん、世の中にはTPOという言葉があってだね?」


「…………治癒が終わったようでしたら早く中に入りましょうよ黒血こっけつさん」


「せめて聞く耳くらいもとう!?」


僕の言い分などこの幼女にとってはどうでもいいことの一つらしい。


がさつな態度や行動は、やはり鬼というべきか。


「分かったよ。多分もう治ったと思うから、ちょっと待っててくれ……どれ、よっこいせっと」


僕は立ち上がり、自分の尻に手で軽くふれてみる。


痛みはない。


触られているという感覚もあることから、どうやら完璧に治ったようだった。


「………普通なら2ヶ月は安静にしておかないといけない傷を、一分足らずで治してしまうとは……相変わらずその治癒力には目を見張る物がありますね」


「2ヶ月も安静にしておかないといけない傷を平気で作るな!」


相手が僕だったから良かったものの、これを普通の人に対して行っていたら果たしてどうなっていたことやら。


そう考える僕に、しかし風子ちゃんは少しふてくされたように口をとがらせてボソリと呟いた。


「………良いじゃないですか。死なないんですし」


「その減るもんじゃないしみたいな扱いを今すぐに止めろ!痛みとか体力の急な減少を何回も繰り返していると精神的にやられるんだよ!」


これは前にもいったことだが、不死身といっても痛覚だけは健在なのだ。


よって、いきすぎた痛みは容赦なく僕を精神的に追いつめる。


そうなると、なにをされても死ねないという事が逆にマイナスになるところでもある。


「……………不死身も不死身で楽ではない」


「そいつは僕の台詞だ!!」



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