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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood9:飛鳥一族 part9


「ちょっと待て。その観察対象?っていうのは?」


生まれたてのなにも知らない純粋無垢な鳥の雛のように頭に浮かんだ疑問をすぐさま答えてくれるであろう親鳥こと由佳奈に僕は問う。


すると、そんなことにも気づかなかったのかと呆れを通り越してむしろ驚愕さえ示している由佳奈大先生。


さすがにそこまでやられるとイラッとくるものはあるが、それでも確かに今の今まで気づかなかったのだから僕ができる精一杯の反抗といえばせいぜい由佳奈を想像の中で間抜けな姿に仕立て上げるくらいだった。


こういう時素直なバカは割と話をこじらせなくてすむ大変貴重な存在である。


「津雲 一心が…いえ九神武衆がわざわざあんたみたいな末端の人間に依頼の1つを頭を下げてまで頼みにくると思う?あんたにそれほどの価値があると?」


「おまっ、そこまで言うことないだろ!?たしかに僕は不死身しか特徴のない男だけれども、それでもその気になれば永遠不滅の最強の肉壁として機能できるんだからな!」


と、自分で言ってから「あれ?それってめちゃくちゃ役割として悲しくね?」と盛大にショックをうける。


たしかに冷静になって考えてみればおかしい。


その気になれば協会に登録している魔払い師100人単位を一声で自由に扱える人間が、どうしたって自分のような協会と最も敵対している存在に依頼を任せるのか?


彼が僕を選んだ理由は霊術に頼らずに戦えるからということだったが、思えばそんな人間協会の中にはゴロゴロといるはずだ。


例えば身近にいる魔払い師であれば龍谷 大牙。


霊装を使っての戦闘を得意とする大牙だが白兵戦1つとってもそこらの人間にはおくれをとらないだろう。


くわえて大牙は霊術ではなく武具召喚ともまた違う特殊な霊装を扱う魔払い師。


甲賀の忍びほどの機転の良さはないにしても突破力だけとれば十分張り合える力がある。


つまるところ僕を選ぶくらいなら名もあり実績も力もある大牙に頼むべきなのだ。


にもかかわらず一心さんはそうしなかった。


いや、あえてそうしなかったのではないだろうか?


そう考えることができる理由が僕にはある。


それは…。


「前回のクラウドジェリー戦でみせた春斗の悪魔の力…狂乱の力のせいでしょうね」


考えられる理由としてはそれが一番しっくりくる。


というかそれしかないだろう。


未だ犯人不明のあの大規模な事件。


表向きには復興も終わりにむかってきてこのまま「はい、おしまい。ちゃんちゃん」みたいな空気になりつつはあるがその裏では協会がまだせっせこせっせこ情報欲しさに動いている。


となればそこにたまたま居合わせたこの僕が容疑者として協会に認知されるのは別段おかしな話ではないだろう。


そもそも僕と協会は敵対関係にある。


いや、言葉だけ聞けばなんだか僕個人が協会と拮抗するほどの力や勢力を持ち合わせているかのように聞こえるかもしれないが、そんなことはない。


ただ単純に僕が協会に協力的な態度をとっていないという客観的にみれば単なるいじけた見栄っ張り。


比べることさえおこがましい。


これが実際のところだ。


まあ今回は大牙のこともあって依頼を承諾したのでイレギュラーなのは間違いない。


だがしかしむこうがはなからそのつもりで僕にギブアンドテイクのような話を持ちかけてきたのだとしたら全て合致する。


「まあ状況を見れば、その場にいた人達の証言をあわせれば春斗が犯人ではない。というのはよほどのバカでないかぎりは分かることなのだけれど。それでも春斗が良くも悪くも関与しているという事実は変わらないのよ。それが…いえ、それさえあれば協会があんたを危険視するのも無理ないわ」


「謀反を考えてるんじゃ?みたいなことだろ、それ。まあ僕のやってきたことを考えれば僕という存在を鑑みればそれは当たり前のことだとは思うけどね」


普通ではない。


常軌を逸している。


他とは違う。


だからこその不死身の黒血。


だからこそ………怖い。


「津雲 一心」


由佳奈は短く呟く。


「九神武衆の中で最も頭がきれる男よ。少なくとも感情論や性善説にのっとった考え方はしない男とみていいわね」


「それは……まぁ…まだ定かではないけれど。でもあの人はそんな人じゃないんじゃないか?じゃなきゃ…」


「記録の巫女の護衛なんてさせないって?それはそうすることがプラスに働くからに決まってるでしょうが。記録の巫女はなんてったって協会の貴重な動く図書館みたいなものなんだから。なんでもは知らないけれどもそれに値する程の十分な、十分すぎる知識を記録しているんだから」


「思えばそこもよくわからないんだよな。なんで協会は博識な女ことリリーさんではなく記録の巫女である飛鳥 鈴を大事にするんだ?」


リリー=カルマ。


知らないものは何1つないと豪語している全知無能な女。


記録の巫女などと比べるまでもなく彼女こそが恐らくはこの世のどんなものよりも博識でどんなものよりも絶対でどんなものよりも傲慢なのだ。


いってしまえば記録の巫女は博識な女とまるっきり役目が被っているし、もっといえば完全に博識な女の劣化版ではないのだろうか?


「たしかに知識だけをとるならあの人が最高でしょうね。最高で最強で最良でしょうね」


でもね、と由佳奈は続ける。


「そこには根拠がない」


「根拠?そこにいたる理由ってこと?」


「違うわよ。話は最後まで聞きなさい。このおっとっとが」


「誰が中身スッカスカだ!」


それをいうならおっちょこちょいだろ。


……いやこの場合使い方もちょっと違うけれども。


「根拠…とは言ったけれど、ようは信憑性よ。信憑性。あんたは初めて会った人間の話を全て信じる?どこかに嘘はあるんじゃないか?矛盾があるんじゃないか?自分を陥れようとしてるんじゃないか?そもそも耳を傾けない、そんな風に普通はなるんじゃないかしら?」


それは当たり前のこと。


というか当たり前過ぎて最早無意識レベルのこと、だと思っていた。


が、しかしどうだろうか。


由佳奈に言われるまで僕という男はリリーさんのことを完璧に、完全に、絶対的に信じていた。


だからそこに嘘偽りがあるなんて思わなかった。


協会の人間が博識な女よりも記録の巫女を積極的に利用する理由がわかった気がする。


「結局は信頼関係ってことなのよね。片方は口先だけで根拠もなければ証拠もない。でも知識の量は膨大…というか最大限。かくいうもう片方は記録されてる事しか知らない。人類が今まで歩んできた中で生まれた軌跡しか知らない語れない。けれどもその知識には嘘偽りがない。なぜならコピペしてきたみたいなものなのだから。間違っているとするならばそれは記録の方であって彼女自身ではない。くわえて一瞬で相手の頭に知識として情報を授けることができる。ここまで言えばわかるでしょ?効率・信頼度、そして居場所が判明していていつでも会えるとなればこれはもう記録の巫女の方が使い勝手がいいって話よ」


まるでどこぞの通販サイトのレビューのように。


まるでどこぞのグルメサイトで星を3つつけるように。


由佳奈はあくまで自分の主観的な意見だけどねというニュアンスを含めながらそう言った。


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