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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood9:飛鳥一族 part8


「これはこれは随分と上から目線なお言葉ねこの排泄物が」


耳に入ってくる単語の1つ1つにおぞましい量の闇を感じる。


罵声や中傷どころの話ではなく発せられるフレーズそのものに殺戮というどす黒い意思が伴っているように感じられて仕方がない。


手で触れられるわけでもないのに全身を真冬の海に浸からせたような異様な冷たさが僕を襲う。


ゴクリ……と震える喉に唾なのかなんなのかよくわからないものを飲み込み、平静を装って言葉を返す。


「な、な〜に怒ってんだよ由佳奈〜。いつもの冗談だろ?ア、アメリカンな感じで言うならここはジョークとでも言った方が聞こえは良かったかなぁ?あはっ、あはっ、あはははははは………」


「最近ここら一帯で謎の火事が発生するようよ。春斗も気をつけなさいよ。アパート暮らしだからってあんたの部屋単体が燃やされることだってあるんだから。それじゃ」


「それじゃあしないでぇぇぇぇっ!!絶対お前この電話切った後に僕の部屋をソウルソサエティばりの暗い世界にするつもりだろ!!頼むからもう少し電話してて!もっというと謝るから僕の部屋を燃やさないでぇぇっ!」


本人が目の前にいるわけでもないのに携帯相手に華麗な土下座を披露する僕にさしもの天子も見ちゃいけないものを見てしまったとでも言いたげな顔で主である僕のあまりにも小さくなった背中を見つめている。


さっきまでの僕の変態行為も相まってこの一件が終わる頃にはもうかつての天子はいないのではないかと冷静に考えてしまう。


帰宅と同時に天子には財布の中身が尽きる限りの苺を献上しようと密かに決意する。


「最初から素直にそう謝ってれば良かったのよ。どうせまた出先で女の子の1人や2人たぶらかしてた最中だったんでしょ」


「なんだその当たり前でしょみたいな言い方は。僕がそんなイタリア紳士のような巧みな話術を持ち合わせているとでも?」


「それもそうね。そもそもそんな根暗フェイスじゃよっぽど物好きじゃない限り無理な話だったわ」


「もうやめて!僕の精神ライフはもうゼロよ!!これ以上は貴方の体がもたないわ!的な少年漫画チックな感じになるからマジで一回休みをちょうだい!!」


いくら由佳奈の罵声に慣れてきたとは言っても手加減なしにダバダバと際限なく浴びせられたらさしもの僕でも耐えられない。


罵声は用法用量をお守りの上お使いください。


「それで?どうしたんだよ一体。悪いけど僕はお前も知っての通り今大変忙しい状態なのだが?」


「あらよく言うわね。ついさっきまでなにやらお楽しみだったみたいだけど?」


「よく分かってるじゃないか。由佳奈のせいで最後のお楽しみである天子いじりが中途半端に終わってしまったんだぞ。どうしてくれるんだ全く」


「……………あんたってノーマルなふりして実はロリコンの節があるわよね…」


っていうか天子いじりって何よ?と由佳奈は付け加える。


「安心なさい。こっちとしても暇だったから電話したとかじゃないから急に春斗に超絶面白トークをしなさいとは言わないであげるから」


もし暇だったらこのドS女王は僕にそんなことを強要してきたのだろうか。


なんとも末恐ろしい自己中心的な女である。


パンがないならお菓子を食べればいいじゃないどころではなく面白トークがなければ命をかけた1発ギャグをすればいいじゃないなどと言いかねない。


「私がゲームの時間を削ってまで電話してるんだから、まぁありがたく思いなさい」


「それは分かったから結局なんだっていうんだ?僕だって今でさえこうして遊んでいるけどいつ慌ただしくなるかわからないんだぞ」


「そ、じゃあ手短に要点だけ伝えるわね。まあ伝えるというよりは春斗本人の意見を交えての確認というところなんだけど」


と、由佳奈はいってなにやらゴソゴソと物音をたて始める。


絶対こいつ今ベッドだかソファに寝転がったよ。


「春斗に聞きたいことが2つあるんだけどまず1つめ。春斗に今回の件を頼んだのは九神武衆の津雲 一心で間違いないかしら?」


「あぁ、そうだけど……っていうかなんで由佳奈が知ってるんだよ?」


「財前家はこの地をおさめる一族よ?それくらいの情報すぐに耳に入るわよ。それよりどんな会話の内容だったか覚えてる?」


「ざっくりとはね。一言一句完璧にとまではいかないけれど、それでも話の本筋からは外れない程度には覚えてるよ」


そういって僕は廃ビルの一室で起きた式同士のいざこざやリリーさんの飛び入り参加、今回の件について一心さんとの会話の一部始終を簡単に伝えた。


「…………ふむ……」


すると由佳奈はなにやら気になるところがあったようで、珍しく罵声ではなく疑問の声を漏らす。


「…あんた、それを聞いておかしいとは思わなかったの?」


「それってどこのこと?色々とありすぎてわからないんだけど」


「本当に勘が良いんだか悪いんだか分からない男ね…。津雲 一心に今回の頼みごとをされた時よ」


「…いや特には……」


僕が間抜けなのかもしれないがどうにも由佳奈が指摘するようなポイントは見当たらない。


まさかあの時に詐欺契約のような言葉の契りをかわしていたとでもいいたいのだろうか?


いつまでたっても聞きたい答えがこないことに苛立ち始めたのか由佳奈はヒント…というか最早答えのようなものをうんざりといった感じで言う。


「どうして協会の中でも最高権力に最も近い九神武衆の人間が春斗みたいな霊術に大して詳しくもない一般人同様の人間にわざわざ頼まなくっちゃいけなかったのかしら?」


「だからそれは僕が霊術に頼らずにまともに戦えるって判断したからじゃないのか?ほら僕霊術なんててんでダメダメだし」


僕のそんな発言に由佳奈は被せるように、はぁ〜…と大きくわざとらしいため息を吐く。


「褒め言葉をそのまんま疑うこともなく受け入れるなんて本当におめでたい頭してるわね春斗は」


「さっきからなにがいいたいんだよ?まさか自分が頼られなかったことに拗ねてるのか?」


「拗ねる?この私が?まあ、たしかに事によってはそうなる場合もなきにしもあらずなんでしょうけど、でも今回みたいにモルモットよろしくな観察対象にされるくらいならさしもの私でもまず拗ねるなんてことはないわね」


と、拗ねることそのものは否定どころか意外と寛容な態度で受け入れるらしいドS女王。


しかし今気にする部分はそんなところではない。


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