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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood8:記録ノ巫女 part10


おい、その行動は違うだろと頭を片手でかく椿。


「それでは、とりあえず中にはいるとするか。幸い外や中の調査は事前に甲賀の魔払い師が行っているだろうからな」


目的地を前にうだうだと立ち尽くしているのもあれだと僕らは早速今回の事件の目的地である言の葉寺へと足を運んだ。


そこにあったのは寺と呼ぶにはいささか巨大すぎる大規模な建物。


縦ではなく横に長い造りが日本ならではの建築様式を模している。


単純な面積を考えると下手な学校より広く、それもあいまってか寺ではなくどちらかといえば昔の貴族の屋敷を連想させた。


当然コンクリートではなく木で作られた寺は建築年数相応の歴史を感じさせる古びた印象を与え、要所要所に施されたくすみがかった金の装飾が逆に滑稽なまでに見た者の心を引き込む。


あまり寺に詳しくない僕から見てもそれが普通の規模ではないことは容易に理解できた。


それとも寺としてここまで大きな造りにしてしまうのは本来タブーだったりするのだろうか。


一応は寺として名を売ってはいるものの大和さんから聞いた知られざる内部事情はといえば金銭の取り引きだけに目がくらんだ集団だということ。


記録の巫女を信仰対象とするべく寺を建てたは良いものの本来の寺にあるべき条件を果たしてキチンと満たしているのかは疑問であった。


ろくに寺についての知識を学ぶことなく造ったとあればその可能性もなくはないが流石に町の代名詞ともよべる場所が教養無しの寺もどきではないことを祈る。


「なあ天子。やっぱり昔の人達ってこんな造りの建物に皆住んでたのか?」


「神社仏閣については疎いので造りも分からず失礼ながら春斗様のご期待にそったお答えではないと思いますがっ、上下関係の激しい時代ということもありその大半が物置小屋のような場所を家として住んでおりましたっ。このような建物に住むのは身分の高い者ばかりでしたっ」


「今も昔も偉い奴はふんぞり返って良いご身分に浸れるってのは変わらないんだなぁ……」


しかしながら昔と比べてみると、いかに僕らが平然と過ごしているこの時代が裕福で社会から良い待遇を受けているのかが分かる。


物事のありがたみを僕も含めて皆が今一度しっかりと考え直すべきだと社会の教科書を締めくくるまとめの一ページのような事を考える。


暫し寺の外観を堪能した後、僕らは寺の入り口へと向かう。


入り口はまたもやご大層な装飾とごつい門という寺らしからぬ二段構えで佇んでおり、そこには左右に法衣を着た門番らしき男が一人ずつ立っておりその手には、さすまたとよく似た形状のものが握られている。


入り口前まで行くと男二人は手に持っていたそれを打ち合わせしていたかのように綺麗にクロスさせ、内部への進入を拒んできた。


「申し訳ありませんが今日はもう参拝のお時間はございません。失礼ですがどうかお引き取りください」


言葉の内容とは裏腹にその態度や声色は明らかな威圧感を含んでおり、あからさまに邪魔だから帰れと言っているものだ。


男たちのすかしたような態度に思わず顔をしかめる僕を無視して横から椿が出てきた。


まさかRPG特有の出会い頭に突如として行われるバトルシステムが発動し無慈悲な武力行使をすることになるのではというファンタジーアイディアが脳裏をよぎったが、もちろんそんなことはなく椿は懐から一枚の封筒を取り出し、それを左の男へ手渡しした。


内容を確認する左の男を無視して今度は右の男へと顔を向ける椿。


「失礼だが少し絵を描きたくなってな。悪いが炭をもらえないか?」


「は?絵?炭?え、なになんのこと?」


意味の分からない椿の発言に疑問の声をあげるが椿はこちらを見もせず、淡々と言葉を連ねていく。


「今は桜が見頃だ。満開の枝垂れ桜を背景に清女でも描きたいものだ」


椿の発言はもうしっちゃかめっちゃかであった。


もう夏休みも近いというこの季節に満開の桜などあるわけもない。


くわえてただの桜ではなく枝垂れ桜を絵にするというのは素人目からみてもチョイスを誤っているのでは?と思ってしまう。


未だ方向性の見えない椿の発言に、しかし右にいた門番の男はあろうことか突き返すことなく真顔で言葉を返した。


「桜を書くのなら夜が良い………あなたはいつの夜が良い?」


「今から二日目の夜が良い。それ以降でも以前でもなく」


まさか門番を交えての僕を驚かせるドッキリかなにかだろうか。


決められた台本を読むように淡々とこなされる二人のやりとりから、そう思わざるをえなかった。


仮にそうだったとしてそれでなんのメリットがあるのかはいささか不思議なところである。


気の抜けた顔をした僕をさしおいて椿と門番はその後も何度か似たようなやりとりをしていたが、やっぱりその内容は法則性がなくあっちに行ったりこっちに行ったりなものだった。


やがて左の門番が椿から渡された文書を読み終えると意味の分からないやりとりをしていた右の門番に目配せをする。


それを視界の端でとらえた右の門番は口をあまり開けず小声で足早に呟いた。


「……………お待ちしておりました。中へどうぞ……」


そう言って左右にいた門番は交差させていたものを離し、言の葉寺への入り口を開放する。


椿はなにも言わず開かれた所へ吸い込まれるように歩を進める。


なにがなんだかさっぱりな僕は離れてしまえばもうこのまま入り口前でずっと待機な感じになってしまいそうだったので椿にぴったりとついて行き、天子も僕の後ろを守るようについてきた。



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