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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood8:記録ノ巫女 part5


大まかな事態の内容は理解できた。


“口映し”なる霊具の効果で大和さんが捕まえた犯人から情報を手に入れることが出来たが、しかしそれは類似した点が多く恐らく大和さんや佐野が言いたいのはその情報すらも相手の霊術により誘導されているものだということだろう。


現に佐野は術的阻害があったと言っていたし、この予想は的外れなものではないと今までよりは自信をもてた。


そして甲賀の魔払い師が危惧している予想とやらもだいぶ輪郭が掴めてきた。


「大和さんが言いたいのは飛鳥一族の中に協力者がいる可能性がある……ってことですよね?」


「ま、そういうことだな。とはいってもあくまで予想の範囲内での話だからな、あからさまに疑惑の眼差しやらおかしな行動やらしないようにしてくれって事だ」


大和さんのあくび混じりの注意に僕はとりあえず了解ですとばかりに無言で頷き素直に受け入れる。


「(成る程なぁ…協力関係っていうのは自分達の邪魔になるようなことはしないでくれ……ってことだったのね)」


戦力外通告を受けた選手のようにうなだれはしないものの、それでもやっぱり胸にくるものがあったりする。


あはは……とプラスの感情を一切含まない乾いた笑いを口から生み出す。


それを目の当たりにした林檎が、あわあわと両手をぱたぱた振ってはなにか慰めようとしてくるが、どうにも言葉選びに悩んでいるようでなかなか話し出せずにいるようだった。


そんな僕ら二人をなにやら微笑ましげに見る憂さんだが、それも大人の女性からくる余裕だろうか。


「若いっていうか青いっていうか……どうも見ていてもやもやするものがあるわね~」


憂さんは腰に手を当てて知ったような口をきいては万丈さんに自慢するかのごとく言って聞かせている。


「あ、あはは……まあ若いってのは良いことだって事でいいんじゃないかな?」


「そう?私が林檎くらいの歳の頃にはとにかく良いなと思った相手から片っ端に手を出したもんだけどね~」


「その結果その歳まで貰い手無しってか?こいつは笑いもんだぜ!だあっはっはっはっはーーーって痛たたたたたたたたたっ!?」


仕事の采配も情報提示も終わり何もすることがなくなったのか大和さんは先程のノリでデリカシーの欠片もないことを口走る。


その代償とでもいうべきか憂さんからの問答無用な固め技が大和さんの石像のような体を本来人体から鳴りえない音と共にギッタギタのメッタメタのバッキバキに分解していく。


体格や力など関係なくテクニック一つで、ああも人体を破壊できるものなのかと思わずみとれる限りである。


「と、そんなことより早く戻ってご飯にしましょ。いつまでもひもじい思いをしてる見張り衆に申し訳ないし」


「そ、そう思うんだったら早くその反則固め技止めろよ!?おい佐野!万丈!お前たちもかわいそうだと思うだろ!?助けたいな~とか思っちゃったりしてるだろ!?なら早く助けてくれよ!なっ?なっ!?」


大和さんの怒声にも悲鳴にも似た声に、しかし佐野と万丈さんは視線を外す。


触らぬ神に祟りなしとはよくいうが、なるほどこれが正しい使い方か。


僕は頭を片手で掻きながら上下関係があまりにも無い様子に違和感はあれど疑問はなかった。


きっとこういう仕事についている人は仕事の効率をあげるために周りとの協調性を大事にしているはずだ。


いうなれば仲間内での彼ら一人一人の関係性は主従でもなく友達でもなく親友でもない完璧に対等なものなのではないだろうか。


だからこそこのような部下が上司に手をあげるという偉業ならぬ異業も一種のコミュニケーションとして成立しているのではないかと予想する。


「(僕にもそんな関係の人がいれば良いんだけど……)」


僕は一人の女性を思い出す。


何でも知っているだけで何でもは出来ない全知無能な彼女の姿を。


「(きっとまた風子ちゃんにイタズラとかして暇つぶしでもしてるんだろうな~)」


と、適当に博識な女のライフスタイルを予測する。


ちょうど僕がそんな予測をしたタイミングぴったりにどこかで一人の幼女が悲鳴をあげていた。


「ひゃぁっ!?ご、ご主人!?い、いい、一体何故に風子の着物を捲り上げているんですか!?」


「いや~良いじゃないか~。たまにはかわいらしい風子じゃなくってエロエロな風子も見たくなったんだよ~」


「お…親父くさい考え方は止めてください。というか風子の足など見て一体誰が得をするというんですか……」


「う~ん誰が得をするか~……そうだなぁ…春斗君辺りだったら絶叫しながら風子の細くてか弱い健気な足に頬ずりしてそうなもんだけどね~。ニヤニヤ」


「おごふっ!?ど、どうしてそこで黒血さんの名前が出るんですか……それに風子は黒血さんがどうしようもない変態さんだったとしても知ったことではありませんし……」


「おやおや~?頬ずりされることについては拒絶も否定もないのか~い?こりゃまた風子も有り余る幼女パワー通称幼力に磨きをかける気になったのかな~?ニヤニヤニヤニヤ」


「ほごっ!?そ、それはたまたま言い忘れていただけで………………」


「いよぉし!それじゃあ私も風子に協力して、こんなこともあろうかと用意しておいた『激萌え!ニャンニャンセーラー服(露出度2割り増し☆)』で応援するからね~っ!」


「な、なんですかその本来の用途とは異なった衣服は?嫌ですよ?絶対にそんなの着るのは嫌でぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!??」


どこぞの鬼の幼女が耳をつんざくような悲鳴をあげながらそこらの怪人など見た目だけで悩殺できそうなコスチュームに着替えさせられている頃、僕は大和さんに遅れながら自己紹介をしている最中であった。


「それじゃあ改めて……木戸 春斗です。どうぞよろしくお願いします」


「ほほ~、お前があの不死身の黒血ね~……写真でしか見たこと無かったが現物で見ると更に弱っちく見えるなおい」


やはり大和さんも僕のことは知っているようで、会話序盤にて早速デリカシーの欠片もない言葉を浴びせてきた。


「魔払い師でもないお前が誰から間接的に頼まれたかは知らねぇが、取りあえず今回は最終兵器ってことで使わせて貰うぜ」


「さ、最終兵器?」


「おうよ!お前の持ってる狂乱の力ってやつは今回の事件にもってこいの代物でな。まあここではまだ言えねぇけどお前の力さえあればどんなに苦しい状況でもなんなく打破できるってわけよ」


大和さんの言葉に複数のクエスチョンマークが頭上に浮かぶが、それもどでかい笑い声によって簡単に吹き飛ばされる。


「とにかく期待してるぜ現役高校生さんよ!」


僕の肩を勢いよく叩き力任せに歯切れを良くした大和さんは我一番と歩みを始めた。


本当にこんな人が甲賀のリーダーなのだろうかと少し不安に思いながら僕らも大和さんに続くように歩き始める。


「なあ林檎。大和さんって本当に甲賀の魔払い師のリーダーなのか?ちょっと想像と違いすぎるというか……」


耳元に近づき小声で尋ねる僕に林檎は一瞬頬を赤らめて慌てるような素振りをみせたが、やがてたどたどしい口調で答えてくれた。


「甲賀には首役三役しゅえきさんやくという甲賀全体の仕切り役が三人存在しているんです」


僕の耳元に口を近づける際やや戸惑うような間をもって言葉を続ける。


「甲賀のトップが私たちが頭首と呼ぶお方で全ての決定権をもつ大変お偉いお方です。次に統括と呼ばれるものですが、これは依頼の受託や現場での役割分担や仕事の采配を行うリーダーの役目を果たす忙しい立場です。そしてその補佐を行うのが統括補佐こと大和さんなんです」


「あれ?でもさっき佐野は大和さんが僕らのリーダーだって言ってたような……?」


「じ、実はわけあって今統括は謹慎をくらっておりまして……その…大和さんが実質統括の役目を担ってる感じなんです」


林檎は内部事情を知られることに恥じらいでもあるのかボソボソと小声ながらも早口で言い切った。


あまり触れない方が良いのかもしれないなと僕は適当な相づちをうって話を終わらせる。


「(甲賀みたいな組織で社長とか部長みたいな役職を決めるときってやっぱり功績とかで選ばれるのかね~?)」


まさか暴力団よろしく献上金で……とかブラックなものではないことを祈る。


「おい、木戸 春斗」


仮面の式こと椿が僕に話しかけてきた。


菊川駅に着いたあたりから明らかに口数が減った椿だが果たしてなにかあったのだろうか。


もしくはまた会話の中に疑惑を覚えたのか。


僕は甲賀の人達と若干の距離をあけ椿と会話を始める。


「………なんかひっかかる所でもあった?」


「いや、甲賀の魔払い師が言っていることに偽装工作はもちろんのこと予想とやらにも間違いはないだろう」


ただ、と椿は区切りをいれる。


「話の流れ上、甲賀と協力関係になってしまったわけだが、自分の行動の選択や決定権はお前にある。一から十まで向こうに言われるがままにすることだけは止めておけ」


「もしかして僕が猿回しみたいに使われることを心配してる?」


僕の言葉に椿は短く息を吐く。


「どうだかな。私が今お前に言ったことも疑い深く見れば誘導の一つだと捉えられるんだがね」


「本当に減らず口だよな、お前って」


花妖怪はそれ以上は語らず、ただ目的地へと足を運ぶだけだった。



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