Blood1:吸血ノ少女 part11
「ここからが本題でしてね~、山葵ちゃんが魔払い師であることはたちまち中等部の中で広がりまして~、今日なんか有名人みたいな集まりを見せたんですよ~」
「そりゃあ自分たちの学校に同い年の魔払い師がいたらそうなりますよ。まあ高等部には2人もいますから鈴山さん1人だけの中等部に比べるとあんまり特別感はないんだけどね」
「そうですね~。先生も由佳奈ちゃんと大牙君を見ているので山葵ちゃんが魔払い師でもあんまり特別な感じはしないです~」
「あの二人は良いところの坊ちゃん嬢ちゃんコンビですからね。あれを先に見たら他の魔払い師をみても特に驚くことはないですよ」
名実ともに優秀な陰陽道の先駆者、財前 直之の直属の子孫に当たる財前 由佳奈。
はたまた霊装とよばれる霊力を媒介として扱うことのできる特殊な武器を開発したことで有名な龍谷家の跡取り息子の龍谷 大牙。
この両名家の魔払い師は当然のごとく周りから一目置かれており、そのせいもあってか高等部ではちょっとした有名人である。
そんな二人と関われば、そこら辺の魔払い師などとるにたらないものにみえることだろう。
「あ~…っと、話がそれてしまいましたね~。ええっと~…あ、そうそう~。それで正体がバレてしまった山葵ちゃんなんですけど~、皆がいうにはそれを聞いて直ぐに学校を飛び出しちゃったみたいで~……」
「………それ呑気に言うことじゃないよね先生!?」
学校を飛び出した、というとなんだか軽いニュアンスに聞こえなくもないが、しかし実際は隠していたことがバレてしまって強くショックを受け、それに耐えられなくなって逃げ出してしまったというのが真相だ。
「そ、それで!?鈴山さんとは連絡はとれないんですか!?」
もしそうであれば大変危険だ。
ああいう年頃の女の子は何をしでかすか分かったものじゃない。
これはあまり考えたくないことだが、最悪自殺なんていう末恐ろしいこともしでかす可能性もなきにしもあらず。
早急に連絡をとるべきだと僕は思った。
しかし、そんな慌てている僕とは真逆に小梅先生はいたっていつもののんびりとした調子をみせていた。
「そこは安心してください~。ちゃんと山葵ちゃんとは連絡がとれましたから~。でもでも~、やっぱり正体がバレてしまったことがショックだったみたいで、しばらくの間休みをいただきたいと言ってきました~」
「そ、そうですか…それだったら良かったんですけど」
連絡がとれたという事実に僕はホッと胸をなでおろし、とりあえず騒ぎ立つ心を落ち着かせていく。
だが、しかし満足するのはまだ早い。
いくら連絡がとれたといっても、だからといって安心を確信するのはまだ早計とよべるだろう。
やはり一番なのは直接会うより他ない。
「小梅先生、悪いけど用事が出来た。お願いの件はまた次の機会で頼みます」
「その用事って何ですかね~。こんなにか弱い先生のお願いを無碍にするほどのものなんでしょうか~?」
そう言って、いじわるな笑みをうっすらとその口元に浮かべる小梅先生。
これから僕が言わんとしていることが分かっているくせに敢えてそれを聞こうとは……まったく、しばらくみない内に随分とずる賢くなったものである。
そんなことを思いながら僕は椅子からゆっくりと立ち上がり、それからやや時間をあけて自分の口を開いた。
「彼女に会いに行く。それでもって先生の頼み事とやらもしっかりこなしてくる。これで良いでしょ?」
「行ってどうするんですか~?それに山葵ちゃんは貴方のことを毛嫌いしているというのに、話なんて出来るんですかね~?」
「なっ……!?なんで、そのことを……?」
僕の浮かべた驚きの表情を楽しげにその両眼で見据えながら小梅先生は人差し指をビシッ!と僕に向けて突きつける。
なにやら誇らしげな顔をした小梅先生は、そうなる理由を言葉として発する。
「先生は山葵ちゃんのクラスの担任ですよ~?生徒一人一人のことも分からずにいるわけないじゃないですか~」
「……さては由佳奈から聞きましたね?」
「うぐっ!?な、なぜバレて…ってちが、違いますよ~?ななな、何を言ってるんですか春斗君は~」
そんなことだろうとは薄々思っていたが、まさか本当にそうだったとは思いもしなかった。
僕の周りにいるのって本当にこんな人ばっかりではないだろうか、と少々自分の人間関係を怪しく思う。
しかし、由佳奈の奴め……一体いつの間に小梅先生に告げ口したのやら。
「はぁ……とにかく僕は鈴山さんに会いに行きます。たとえどんなに嫌われていようとも」
「……そう、ですか…まったく……分かりましたよ~。先生で貴方の力になれることがあったら気軽に言ってくださいね~」
「それはありがたいです」
じゃあ、と言ってから僕はすぐさま先生に頼み事をすることにした。
「早速なんですけど……僕に鈴山さんの住所を教えてくれませんかね?」
ヒーローとは、下準備なしには活躍できない存在なのである。




