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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood8:記録ノ巫女 part2


一触即発ちっくな空気に強面のわりに意外と周りの空気とか察しちゃう系男子の万丈さんは、僕が地面に叩きつけたゴミを素早く回収しすぐさま本来の持ち主のもとへと届ける。


しかし向こうも向こうで憂さんは片手で追い払う仕草を交えてゴミ処理担当を万丈さんに強制的に担わせんとする。


いっそのことガツンと頭でも殴ってやれば良いのにとボクシングの一発KOを所望するマニアックなファンよろしくな感想を抱くが、実際はそんなことをしたが最後、『あ~!ただでさえ恐い顔したゴリラ男がか弱い女性の頭を容赦なく叩いた~!うっわ~最低~っ!憂さん大丈夫ですか~!?ほんとにひどいわよね暴力で物を言わせるなんて普通の人ならしないわよね~!チラッチラッ』などと社会的観点と女の子限定の罵倒術で抹消されるのがオチである。


かくゆう僕の近くにだって財前 由佳奈という似たり寄ったりな人物はいるわけだが、これまでただの一度でさえ手をあげたことはない。


何に対しても怒りを感じない菩薩ポジションでもない僕はもちろん人並みにイラッとくることはある。


けれど特に攻撃的な態度にでないのは、それが自分にとって慣れ親しんだものだからだったりするのだろうか。


僕個人としてもこの熱くも冷たくもないちょうどよいぬくいぬるま湯な関係をいつまでも維持していきたいと思っている。


万丈さんのそれも恐らくは僕のと同じものだったりするのかもしれない。


「(でもやっぱり他人から見たら、あんまり気持ちの良いものじゃないよな~)」


今度からは周りに不快な思いをさせないよう注意しながら彼女と接することにしようと心のどこかにメモをとる。


シャープペンシルで適当に書きなぐったものなので直ぐにマジックペンで上書きされたり時間と共に薄れて見えなくなることもありますがあしからず、と注意書きが記された付箋をはっておく。


とはいえそれすらも無意識という風で飛んで分からなくなってしまいそうなものだが、そこまでいったのなら特に気にせず青春しとけということにしておこう。


と、決意表明したのかしてないのかよくわからない感じにまとまった僕は横にあった細い路地の存在に気付くことなく歩を進める。


つまり路地そのものの存在に気がつかなかったということはすなわちそこから来る人物にも意識が向いていないことへの伏線となる。


その後やっぱりですかと状況を知っている人ならば声をそろえて言いそうな展開、細い路地からやってきた人にぶつかるというお決まりのボケ(無意識)をかます。


「ごふっ……!?」


ぶつかったというかどちらかといえば電柱に当たってその衝撃で倒れるように僕は鈍い衝撃と共に合わせ技“尻餅”を発動する。


「いっててて……す、すいません。ちゃんと前を見てなくって…………っ!?」


後半の声色が唐突に跳ね上がったのには当然わけがある。


倒れこんでからすぐにぶつかってしまった相手に対して謝罪をする為、顔をあげるとそこにいたのは万丈さんよりも一回り大きな体格の若い男。


触覚のように飛び出した二本の前髪が特徴的な男はうまいこと影が重なって顔をはっきりと確認することはできないが、どう転がっても待ち受けているのはネガティブな未来だと僕は冷や汗をかく。


すると、


「あら、大和。どうしたのよこんなところで?」


前を歩いていた憂さんがゆっくりと近づいてきながら気軽な調子でその男に声をかけた。


その手には先程自分が押しつけてきたゴミがしっかりと握られている。


「……っていうか、え?し、知り合い?」


今一事態を把握し切れていない僕は借りてきた猫のようにせわしなく周囲に首をまわす。


すると目の前に立っていた石像よろしくな男は僕の襟を掴んでそのまま力任せに立ち上がらせる。


相変わらず影で顔は見えないので甲賀の誰かの知り合いだろうとなかろうと殴られるのは確定なのではないか。


あわわわわわわ、と振るえ始めた時にはもう遅く。


男の追加アクションが行われる。


僕からの謝罪の言葉を遮るように男はその口をゆっくりと動かし、


「てってれーーーっ!!実験大・成・功!!」


思考に空白が生じた。


男の発言内容がすぐに理解できず、目の前では二本の触覚のような前髪を揺らしながらダブルピースをするアホ面が体を左右に揺らしながら喜んでいる。


「ほら言った通りだろ佐野?やっぱり俺様の顔はアホ面じゃなくって今巷で有名な強面イケメンフェイスだったのだー!だーはっはっはっはってイテテテテテテテテッ!?な、何すんだ憂てめぇこの野郎!?ストレス発散を他人にしてんじゃねぇよ!」


「それはあんたでしょうが!ったく、何が実験大成功よ。民間人相手にこんな脅し紛いのことして何がしたいわけ?」


いつまでたっても返事がこないことに腹をたてたのか背後からやってきた憂さんが男の髪の毛を力任せに引っ張っている。


そんなぎゃーぎゃー騒ぐ二人をかいくぐるように、路地からもう一人ニット帽を被った少年が出てきた。


「ごめんねお兄ちゃん、大丈夫だった?」


ニット帽の少年は僕に近づいて心配そうに声をかけてきた。


その手にはたくさんの食料やら飲み物やらが入って満員電車を彷彿とさせるパンパンに膨らんだレジ袋がぶら下げられている。


「だ、大丈夫だけど……き、君たちももしかして甲賀の…?」


「あぁ、うん。そうだよ。そっか、もうお兄ちゃんは僕たちのこと知ってるんだったね。じゃあ隠す必要もないかな」


淡々と自己解決をすましてからニット帽の少年は訝しげな視線で触覚男を見ながら言う。


「僕の名前は佐野。そしてあそこにいる一般人にいきなりぶつかって無言で睨み続けたら怖がられるのか『自分の顔がアホ面じゃなくって強面イケメンフェイスかどうか大実験』を急に提案してやり出したのが僕らのリーダー、ポンコツ大和です」


佐野という名の少年のその紹介文に、うわぁ……と若干ひき気味の声があがる。


本当に仲間なのか怪しいくらいの残念そうな視線と見下したようなため息から思わず疑問が生じる。


「あんたねぇ……そんなことする暇があるんだったらさっさと帰ってご飯とか飲み物とか渡してくれれば良かったじゃないの」


「ふざけんじゃねぇっ!!俺にとってはイケメンかブサメンか今後の一生に関わる大実験だったってんだよ!それをお前達は……って、なんでお前達ここにいるわけ?」


「それはこっちのセリフだ!!」



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