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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood7:走リユク鉄ノ檻 part17

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「さ、てと……これで取りあえず爆発の心配については大丈夫ですかね」


埃を払うように林檎は両手を叩いて簡単な調子でそう言った。


今僕と林檎がいる場所は先程から座っていた座席がある7両編成の新幹線の3両目、もっといえば人目がつかないように3両目と4両目の間に設置されている空白のスペースにいた。


近くには針金で手足を縛り付けられた5名の哀れな男たちが床にそのまま捨てられており芋虫同然の扱いを受けていた。


おまけとばかりに顔面には殴りたてほやほやの赤黒い腫れが痛々しく出来ているが映画のようにタレントの綺麗な顔を汚さない程度に自粛した腫れではなく、でかでかと広がるそれは総合してコメディ映画の一部にも見える。


「それにしてもダメですね、聴覚だけを意識してるからやられるんですよ」


林檎は手にもっていたクリップ型の霊具を能力を使って再び小さくし、それをウエストポーチの中へとしまい込む。


チャックをしめようかとした所、眼鏡もかけていたことに遅れながらに気付き、やや面倒くさそうにチャックを開け直し再び能力を行使する。


「それにしてもまさかこんな作戦でいけるとはな。絶対騙せないと思ってたのに」


「たしかに普通なら騙せなかったでしょうね。この双方無闇に動けないあのもどかしい状況と甲賀の名前があってこそ出来た作戦です」


やたらと誇張してくる二つの母性の固まりに軽く握った拳を、えっへんと当てる林檎。


下手なアニメやマンガだったら今のアクションで馬鹿みたいにぶるるんと胸が揺れ動くのだろうが、ここは現実、そんなことはおきない。


そもそもブラもしてその上に服も着込んでいるというのにそれでもなお、ぷるぷると揺れ動くのであればその中身はゼリーかなにかではないだろうか。


ある程度年をとり、ついにモザイクのその先を知ってしまった健全な男子高校生の僕としては、それでもやっぱり理屈抜きに揺れ動くおっぱいは是非とも拝みたいものなのであった。


両手をあわせて今後そういったラッキースケベに巡り会えますようにと全身全霊を込めて林檎の二つの母性の固まりに祈りを捧げる。


何してるんですか?みたいな困惑した顔をされたあたりで、礼拝の時間は強制的にお開きとなる。


そんな緩んだ空気を再び感じることが出来たのも林檎が計画してくれたある作戦のおかげである。


林檎が計画してくれた作戦、それは通信機を介して偽の情報を流すというものだった。


誰が敵なのかが分かる霊具が既に手元にあるのにどうしてそんな遠回りなことをする必要があったのか?


それは安全性を考慮してのことだ。


いくら敵の正体を見破ることが出来たとしても、そこですぐさまバトル開始などとふざけたRPG紛いのことをすれば近くにいる乗客の全てに身の危険が生じるからだ。


あくまで甲賀やら記録の巫女やらといった今回の状況を知っているのは僕らとこの犯人のみであり、乗客達にいたってはたまたま運悪くそこに居合わせただけなのだ。


そんな乗客達をバックにいきなり戦いでもすれば普通に考えれば乗客同士のトラブルとして扱われ、もし誰かが止めに入ろうものなら関係ない負傷者の一丁あがりなんてことにもなる。


更にその騒ぎを耳にした犯人の仲間が焦って爆弾を起爆させるという不安要素もあった。


正体を知ってもすぐさま行動にでれないもどかしさに悶々としていた僕とは違い林檎は一度どこに犯人がいるのかのみを確認し、それから自分が気絶させたサラリーマン風の男の所持品をあさい始めた。


別に彼女が程良く男臭のついた汗まみれの所持品に興味があり興奮するという性癖の持ち主とかではなく、通信機や携帯といった情報に携わる所持品の全てを回収するためである。


サラリーマン風の男の所持品と一度視察にいった犯人達の姿から、その誰もが髪で隠れるように耳の裏側に小型の通信機をつけているという共通点に気付いた林檎は乗客を巻き込むことなく安全に事を済ませる為にこの通信機を利用した。


作戦の内容は簡単で、こちらがわざと明確な動きをみせないことで相手に不安を抱かせ仲間内にちょっとした半信半疑状態を生み出す。


その状態がある程度の沸点に達したのを見計らって林檎はネットから過去に起こったテロリストの爆破事件の動画を取り出し、それをサラリーマン風の男がもっていた通信機に大音量で流す、たったこれだけだ。


なにか一つでも情報が欲しいと飢えている連中にとってこの派手な動きは予想以上に冷静さを失わせた。


もしこれが普通の心理状態であれば真っ先に看破されていたことだろう。


というのもその音声が流れているのはあくまで犯人達がつけている通信機のみでのことであり実際はどこも爆発などしておらず車内にいる乗客が爆発音を聞くことはまずないからだ。


そうすると乗客が爆発したのにもかかわらずあまりにも落ち着いているため、すぐさまそれが偽の音声情報だと悟られるだろう。


更に言うと爆発した割に新幹線への衝撃が無さ過ぎると不思議に思われもするだろう。


だが、ある程度情報から遠ざけ次の動きに飢えていた犯人達にとってその音声情報はあまりにも魅力的で冷静さなど吹き飛ばすのにちょうど良い働きをみせる。


後はどこが爆発したのか状況確認をしに各々車両から出たのと同時に殴り飛ばして確保、殴り飛ばして確保と作業にも似た行動で無事三人を確保する事ができたのであった。


残り一名は前もって駅員から運転席にいることを知っていた為、黄泉縛りの術が解除された後、天子によって捕まえられた。


その際、目立った外傷はなかったものの予想以上に怯えており自ら素直に手と足を縛ることを求めるくらいに精神的にまいっていた。


一体何をしたというのか……その真実は天子のかわいらしい笑顔と共に永久に無限の彼方へとフライアウェイしていくのであった。


制御装置やらブレーキやらに取り付けられていた爆弾の数々も椿が妖術を使って無事取り外すことに成功していた。


全てが終わって、どっと深い疲れが僕を襲っていた。


たった15分程度の出来事にしては、とても長く感じられた。


「でも林檎がいてくれて助かったよ。もし君がいてくれなかったら今頃この新幹線も爆発四散なーんてことになってたかもしれないし」


「いえいえ!私なんてそんな大したことはしてないですよ!誰だって思いつくことを我が物顔で言っていただけですし!」


その誰にも思いつくことすら思いつかなかった僕は果たして野生をいきる生物としてどうなのか。


変に棘のない言葉が逆に鋭利な刃物となって僕をザックザクと切り裂いていく。


「それに………春斗さんがあそこで犯人の一人を見つけてくれなかったら事態は全く進まないで行き詰まっていましたよ。だから春斗さんあっての解決です」


「えっ…………あぁ…うん…」


「あっ!す、すすす、すみません!名前で呼んだりなんかして!お、おこがましいにも程がありますよね!?いやぁ大変ご無礼を働いてしまい誠に申しわけないです!はい!本当に!」


「いや、名前で呼んだことに対してのえっ?じゃなくって、あれで解決の功労者になるのもなんだかな~って意味でだよ」


それに、と僕は付け加える。


「僕も名前で呼んでるんだし、今更他人行儀ってのもあれだからさ。良かったら名前で呼んでよ。まあ、さん付けの有無は任せるけどさ」


名前を呼ぶか呼ばないか。


これについては昔であれば特に意識などしなかったものだが僕には鈴山 山葵という実例がある。


名前ではなく苗字で呼んだのにもかかわらず、さん付けを強要され更に未だに名前で呼んでもらえていなかったりする。


別に嫌いとかではないのかもしれないが、中には鈴山さんのように変に意識する人もいるのかもしれないと思っての発現であった。


「ソ、ソソソ、ソレデハ……………………ハ、ハハハ、春斗……サン…」


「何そのロボットちっくな呼び方!?」


林檎はその名前に恥じないくらい真っ赤に顔を赤らめて恥ずかしげに僕の名前を呼んだ。


なんだ?


もしかして僕の名前って霊術の記号やら甲賀の人の読み方だと、とんでもびっくりな意味だったりするのだろうか?


なんだか自分の名前に自信がもてなくなってきた。


「成る程。お前はこうして博識な女も手玉にとったというわけか」


「うおっ!?つ、椿!?お前いるならいるって言えよ!」


「ふん、私が爆弾の処理をしている間にお前は会ったばかりの女を手駒に収めて随分と楽しそうじゃないか」


「そんな人を働いてないみたいに言うな!ちゃんと働いてたよ!」


どうだか……と椿はおもしろくなさそうに言葉を吐き捨てた。


どうやら一人黙々と爆弾が爆発しないように回線をいじっていたのに呑気におしゃべりしていることが気にくわなかったようだ。


変にガキ臭いところがあるご長寿(妖怪からすればまだまだピッチピチ)さんである。


「あ、そういえば天子に用があるんだった」


そういって僕は札に戻していた天子を再度呼び戻す。


こう何度も何度も出したり戻したりするのは椿に言わせてみればあまりよろしくないようだし天子からしても落ち着く時間がないだろう。


今後はそういったこともキチンと考えねばいけないなと思いながら、僕は考え事とは真逆に天子を呼び出したのであった。


「はっ、何用でございましょうか春斗様っ」


「ああ、実はさっきの戦いでさ……」


と、ここまで言いかけて天子は片手でそれを制した。


「最後まで言わずとも分かっておりますっ。さきの戦いでの怒りがおさまりをきかぬ故この低俗なるゲス共をこらしめよとのご命令でございますねっ?」


「お前の中で僕は一体どんな人物像になってんだよ!?」


今にも犯人達の爪やら目やらをプラモデルのようにあっさりと取り外ししかねない天子をおさえつけ落ち着きを取り戻した所で僕はポケットからある物を取り出す。


それはどこにでも売っているシンプルなデザインの絆創膏だ。


「ほら、さっき僕をかばった時に顔にケガしちゃっただろ?ずっと申し訳なく思っててさ……本当ごめんな。そして助かった、ありがとう」


僕は絆創膏のフィルムを外して天子の頬にできた切り傷を保護するように優しく貼り付ける。


顔に貼るのだからもう少し女の子ウケするようなかわいいデザインの絆創膏でも持ってたら良かったなと春斗メモにメモしておく。



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