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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第二章:記録ノ巫女
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Blood7:走リユク鉄ノ檻 part16


ただ今をもって正確な情報を提示、及び共有することのできる者は自分の仲間内には存在しないと区切りよく断定する砂貝。


彼がそういった瞬間判断能力を発揮できた理由は事態を良い方向だろうが悪い方向だろうがどちらかに進むことで、それが自分の首をしめることに繋がると悟っていたからだ。


本来であればターゲットに存在を探知され襲撃される心配が後を絶たなかっただろうが、黄泉縛りを発動してから数分が経ってもなお次のアクションが起きないことが他の者にとっては恐怖であっても逆に彼にとってはそれが不安定ながらも安全を確保しているという風に捉えられたからだ。


「(大丈夫だ。大丈夫。俺の乗ってる車両は他の車両に比べて乗客数は多い。これなら一両ずつ調べられていても時間が解決してくれるはずだ)」


砂貝ら雇われ術者の仕事は甲賀の霊具を運んでいる魔払い師の襲撃及び霊具の回収にあるのだが、それはあくまで本作戦のメインにあたる。


だが砂貝らの役目はその下準備。


新幹線にデコイも本物も含めて爆弾を設置し、駅員を捕まえ運転の権利をもぎ取ることだ。


黄泉縛りはいわば誰がどこでやられたのか、ターゲットはその近辺にいた者かという確認でしかない。


もっとも初めから甲賀の霊具を運んでいる魔払い師の顔や特徴さえ分かっていればこんな霊術は使わなくてもよかったのだが、霊具を運ぶ為の魔払い師が菊川行きの新幹線に乗っているという断片的な情報しか提示されなかったからだ。


「(菊川駅まで残り……十二分、か。なんだよまだ二分しか経ってないのか)」


なかなか進まない時計に苛立ちを抑えられないのか砂貝は激しく足を揺さぶる。


いっそのこと速度を上げてもらおうかと思ったが、それでは運転席に仲間がいるということを教えるようなものだ。


もしかすると既にその事も知られているかもしれないが、奇跡的に狩野の持っていた黄泉縛りの駒は運転席への道を封じるように発動している。


ここで下手に運転席に意識を向けさせてしまえば爆弾やこちらになど見向きもせずに、ターゲットは運転席へと向かうことだろう。


そうすることで新幹線は予定通り菊川駅に到着し、ターゲットもそこから無事仲間の元へと戻ってしまう。


ターゲットからすれば別に砂貝らを捕まえるメリットはなく、いち早く霊具を運ぶことこそ最優先事項なのだ。


「(まあいい。今のところ他の奴らも特に動きをみせる素振りもないようだし、このまま順調にいけば…………)」


砂貝が安堵の息を漏らしたその時だった。


ドゴシャァァァァァァァァァッ!!!!と。


耳の裏側に隠れるようにつけていた彼の通信機から突然、大規模な爆発音が生じたのだ。


それに続くようにガラスが砕けては飛散する音や乗客達の悲鳴やらが決まりきったルーチンワークのごとく連続的に発生する。


思わず耳に付けていた通信機を手で覆って、最早周りにいた乗客など気にもせず砂貝は声を荒げる。


「だ、誰だ!?誰が爆発させた!?」


「知らねぇよ!くそっ!誰だこんな状況でスイッチ押す奴は!冗談じゃねぇぞ!?」


「砂貝、てめぇその場で座りこくってんのが嫌でわざと押したとかじゃねぇだろうな!?」


「ふざけるな!それなら黄泉縛りもとっくのとうにきれてるだろうが!そんなことより新幹線に問題はないか!?」


「あ、あぁ。多分大丈夫だ。今も普通に走行中だ」


よかったと安心する砂貝。


まさかこんなところで急停止してしまえば、援軍も来ずただ正体がバレるのを待つだけになってしまうからだ。


とりあえずは最悪の事態は防げたというべきか砂貝は頬を伝う汗を襟にこすりつけるようにして拭う。


「走行に問題がないってことはデコイの爆弾が暴発したって事か?でも確か中身は空だったはずじゃ?」


「誰かが間違って本物をデコイの場所に設置したってことだろうが!ふざけんじゃねぇぞ!」


「とにかく爆発した場所を探して向かってくれ!俺は運転手を見張っていないといけないし砂貝も黄泉縛りで動けない。実質動けるのは二人だ頼むぞ」


運転席にいる仲間は新幹線を運転するほどの技術はなく実際は運転手を脅して走行を続けさせている状態。


それでいて砂貝は術の影響で動けない。


しかしながら運の良いことに砂貝がいるのは最後尾の車両。


ここで何者かに襲撃されるとしても出入りする扉は一つなのですぐにその存在には気付くだろうし、なにより爆発が起こったというのにわざわざ最後尾の車両に来る奴はいないだろう。


さっきから変なところで助けられていると苦笑を浮かべる砂貝だが、ここで疑問が生まれた。


それは何故自分がいるこの車両の乗客達は騒ぐことなく席に着いているのかということである。


最初は突然のことでパニックになりその場から動けないだけかと思っていたが、どの乗客の表情からもそういったものは見受けられない。


あるのは突然声を荒げて言葉を発し始めた自分に対する冷たい目のみである。


「(なんた……どういうことだ?)」


状況が飲み込めない。


自分の理解が追いつかない内に足早に過ぎ去っていく周りの環境に、とんでもない重圧感を感じる。


ついさっき自分は最も安全な場所にいると思っていたが、それすらもよく分からなくなっていた。


今もなお通信機では誰が爆発させたのかという議論が行われているが、犯人は未だに特定されていない。


もし本当に誰でもないとしたら他の可能性はただ一つ。


ターゲットが自分の手で爆破を行っているということだ。


そもそも相手はあの甲賀だ。


暗部として働く自分にとってはよく聞く名でもあり同時に最も恐怖を感じる名でもあった。


というのも霊具は甲賀の専売特許であり、その内容はしかし全くの不明なのだ。


つまりそこからなにが起こってなにがもたらされるのかは甲賀の魔払い師しか知り得ない。


爆弾を設置していなくても空気中に含まれる水素と酸素を強引に化学反応させ爆発させるという方法も甲賀ならば出来て当然なのかもしれない。


不気味な不安が脳内思考をぐちゃぐちゃにかき回し砂貝は目を剥く。


と、ここでいたずらにかき回された砂貝の脳裏に嫌な想像が駆けめぐる。


もしも、甲賀の魔払い師が今考えたような霊具を持っていたとして、それが直接ふれなくても作動する仕組みのものだとしたらどうだ。


例えば最後尾の車両なんかにも容易に霊具の効力の範囲が適用されるとしたら。


待っているのは爆死という圧倒的な死による蹂躙だ。


「ふっ、ざけんなよぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉあああぁぁぁぁぁぁぁぁああっっっ!?」


髪の毛を両手でかきむしり床に向かって怒声を放つ。


口元がヒクヒクと痙攣を起こしながら上へとあがっていく。


ただでさえ崩れかけていた精神に、全く理解がおいつかないこの状況がとどめを放ったのか砂貝は意味もなく感情論にのっとっているわけでもなくただひたすらに気味の悪い笑みを浮かべる。


浮かべてしまう。


そうでなければ自分という意識を保つことができなかった。


「し、知るか……もう知ったこっちゃねぇ!!」


砂貝は術を解き、その場から駆け出す。


運転席ならばさすがに爆破はないだろうという根拠のない決断からでた行動であった。


焦りから足がうまく回らず床に転んでしまうがそれでも死にものぐるいでなんとか車両から這い出る。


次の車両に向かう為唯一の出入り口である扉を開いたその時、砂貝はなにかにぶつかった。


ろくに前も見ずに走っていたことが災いし、扉の先にいた何かに意識がいかなかった。


激しく転倒し当たり所が悪かったのか暫くせき込む砂貝の肩を、そっと叩く者がいた。


振り返った砂貝はそこで目撃する。


そこに立っていたのは。


くせ毛で茶色い短髪の。


真の不死身の少年。



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