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人で無死(ひとでなし)  作者: スズメの大将
第一章:吸血ノ少女
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Blood1:吸血ノ少女 part1

孤独。


仲間や身寄りがなく、ひとりぼっちであること。


思うことを語ったり、心を通い合わせた りする人が一人もなく寂しいこと。


また、そのさま。


これを常に意識するようになったのは何時からだっただろうか。


そう自身に尋ねるが、返答はない。


そして、他の誰かに尋ねようとするが、それもまた無理な話である。


というのも、孤独の意味のように僕は誰かと心を通わせることができないからだ。


いや、より正確には心を通わせることなど人を捨てた僕にとってはやろうにもやれないから、だ。


人を捨てた僕は他人とは価値観が違う。


だから、僕は上辺だけの反応をする。


僕の周りも、それで満足してくれている。


さながら熱くもなく冷たくもない、丁度良いぬくいところ。


それが僕の求める人との距離感であり、守りたくて壊したくない何よりも最優先すべき事柄だ。


だから、それを自ら進んで壊したいなんてことは思わない。


そう、思っていたのに僕は今なにをしているのだろうか。


僕がいるのは人がすっかりいなくなった放課後の私立東雲しののめ学園の体育館倉庫の裏。


そこにいるのは先程から話し手として活躍している僕、木戸もくべ 春斗はるとと一人の少女だ。


くせ毛の茶色い短髪の僕とは違い、僕の目の前にいる少女は鮮やかな緑色のサラサラボブヘアー。


僕と少女の違いは他にも、まあ色々とあるが、その最たる物を提示しようと思う。


学生鞄しか持っていない僕とは違い、僕の目の前にいる少女の手には……どす黒い一本の槍が握られていたのだ。


いや、単に握られているだけであればまだ問題は無かったかもしれない。


が、しかし。


その矛先が僕に向けられているということは曲がりようもない程に、それこそ大がつく程に問題であった。


そう、僕は今見ず知らずの少女に凶器を向けられていたのである。


僕に槍を向ける彼女は震えていた。


槍を握る手だけでなく、それこそ文字通り頭から足のつま先に至るまで体の隅々を震え上がらせていた。


季節は5月。


外の温度は極端に寒いわけでも熱いわけでもなく、ほどよい適温だ。


となれば彼女が震えている理由は、ただ一つ。


それは、恐怖。


他人を傷つけるという恐怖。


凶器を握る恐怖。


そういったものが彼女を震え上がらせているのだろう。


「あ……貴方も……っ!」


声がした。


嗚咽混じりの震える声が、だが確かに僕の耳へと届いた。


「貴方も……私を虐げるんですか!?」


叫んだ。


それと同時に今まで俯いていたせいで良く見れなかった顔が、露わになる。


端正に整った顔に、雪のような白い肌。


そして血のように深紅に染まった両眼が印象的だった。


彼女は泣いていた。


大粒の涙をポロポロと溢れさせながら、それでも憎しみのこもった目で僕を睨みつけていた。


「虐げる……って何のことだよ?」


率直な質問を僕はした。


激高する彼女とは真逆に、冷静に。


さながら死への恐怖心という物を一切感じていないかのように。


だが、それがマズかった。


彼女は、凶器を向けられているにも関わらず、あまりに も冷静な態度でいる僕を気にくわなかったらしい。


ギリリ……と、歯を強く噛みしめる音がした。


そう感じた時だった。


「私を…っ……そんな風に哀れむなぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


直後。


彼女の腕が動き、手に握られていた槍も同時進行で動き出す。


突き出すような挙動に合わせて、凶器が僕のもとへと放たれる。


グジュッ!!という粘着質な音がした。


決して大きくない音だったが、それでも僕の耳に嫌にこびり付く音だった。


僕は音の鳴った方へと、ゆっくりと視線を向ける。


そこには僕の心臓を的確に貫いた一本の槍があった。


人間にとって、いや生物にとって生命維持のためになくてはならない大切な臓器。


それを僕は見ず知らずの少女に貫かれたのだ。


「はぁ……はぁ……っ」


彼女の荒い息づかいが聞こえる。


体は先程とは比べ物にならないほどに震え上がっている。


きっと、彼女は今とんでもない重圧に押しつぶされそうになっているのだろう。


今にも倒れそうなほどに混乱しているのは、容易に見当がつく。


まあ、心臓という大切な臓器を貫かれた僕の方が今にも死にそうな危険状態なのではあるが、それはない。


「……え?」


混乱していた少女の声色が変わった。


彼女の精神が混乱から驚愕へと切り替わったのは直ぐに分かった。


彼女の目はある一点を見ていた。


それはYシャツから溢れ出る僕の血。


黒くて暗くて冷たい、僕の血だ。


前述通り、僕は人ではないのだ。


いや、より正確に言うならば人を捨てた人というところだろうか。


兎にも角にも、僕は普通の人 間ではない。


その証拠として、心臓を貫かれても尚こうして思考を張り巡らせていられる。


だがしかし、とんでもない程の激痛が僕を襲っているのもまた事実だ。


「なん、ですか……コレ…?」

  

予想通りの反応だ。


それでは僕も、決まりきった返事をしなければいけないだろう。


口から真っ黒な血を伝わせながら、僕は言った。


「死にはしないから、とにかく槍を抜いてはくれないかい?」




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