三章 ヒロイン、登場
『空腹』。
それは、とても不幸なこと。それはとても辛いこと。
いつどの世界でも空腹の人間と満腹の人間がいることを忘れないで欲しい。
そのことを覚えるためのいい見本がいる。
「腹が減った…」
腹を鳴らしながら起き上がる陽道。ずっとなりっぱなしだ。
これはさっさと依頼か何かをやってお金を稼がないとな。
そう思い、陽道はギルドへ駆けつける。
「wantedは無理。強そうだし。」
空腹の男一人じゃどう考えても勝てない。簡単な納品依頼を受けることにした。
内容はこうだ。
依頼主:料亭『いちろー』主人
内容:ビックベアーのドロップアイテム熊の肉を十個欲しい。
報酬:銀貨九枚
期限:一日
依頼日時:今日
備考:無し。
大丈夫、だと思う。ビックベアーって昨日のアレでしょ?
陽道は依頼を受託して、昨日の場所へ向かう。
「あ、陽道さん。」
「ああ、皆さんおはようございます。」
ギルドから出るとキュベラさんとすれ違った。
陽道はこの人たち、確かパーティー成績で一位だったことを思い出す。
ギルドから出る前に個人成績とパーティー成績を見ていたからだ。
因みにキュベラ達のパーティー名は『六識』だ。
六つの知識をもってることが由来だ。
「これから依頼ですか?」
「そうです。」
「そうですか。明日は空いてますか?」
「ええ。あいてますよ。」
「それでは、明日の朝ギルドに来てください。魔法をお教えしましょう。」
キュベラさんに魔法を教わることになった。よかった。
それはそうと、さっさと依頼を達成しないと。意識が朦朧としてきた。
陽道は昨日の場所へ再び歩き始める。
「やっとついた。」
陽道はお腹をさすりながら、そう呟いた。
あとは熊が出てくるまで待つだけ。
「グオオ」
二体出てきた。よし、やるか。
腕力をポイントが切れるまで上げて、戦闘態勢に入る。
「右ストレート。」
パンチが直撃した瞬間、霧になってドロップアイテムが出てきた。
そして後ろから攻撃を仕掛けてきた熊を肘で倒す。
熊の肉が二枚になった。入れ物はギルドから預かっている。
「あと八体…。」
意識を集中させる。そうでもしないと倒れるぐらい陽道は弱っていた。
さっさと八体出てきて欲しい。
「どうするか。」
鳴りまくる腹を抑えながら陽道は考える。
結局歩き回ることにした。
「いないな…。」
ビックベアーが出てこない。陽道は場所を変えることにした。
陽道は必死である。
グルルルル
低い唸り声をあげながら、ビックベアー七体が現れた。
陽道は喜びながら戦闘態勢に入る。
「やあっ!」
渾身の一撃。ビックベアーは熊の肉に変わった。
残るは六体。激怒しているビックベアー。
「ていやっ」
引っ掻く攻撃を繰り出してきたビックベアーのがら空きの胴体に一撃入れる。
二枚目の熊の肉だ。
「あふんっ!」
油断してたら熊の攻撃が直撃した。陽道は吹き飛ばされた。
なんとか体勢を立て直し、反撃に出る。
「1・2・3、ちぇすとー」
リズム良く熊を攻撃する。三体倒すことができた。あと三体。
倒れそうになる体をなんとか維持する。陽道にしては結構な頑張りである。
地球にいた頃なら既に諦めていた。
「グオオオオオオオオオ」
三体は興奮状態になっている。陽道に向かい突進してきた。
単純な攻撃だったから陽道でも回避できた。
三体は自分の突進を止めることができずぶつかりあった。
そこに陽道が攻撃した。あと一体倒せば依頼クリアである。
「出てこい。」
そう念じてると、草むらからガサガサと言う音がした。
陽道は出てきた、と喜んだがすぐに微妙な表情になる。
出てきたのは熊じゃなくて、背中に黒い剣を背負ってる金髪の美少女だった。
(さ、さすが異世界…)
陽道はその場に硬直しながら、そう思うのだった。
美少女を目の前にして陽道はまともな反応ができるわけもなく。
ただ立って見てるだけだった。
「き…君だれ?」
やっとの思いで陽道は声を出す。異世界に来てから陽道の人間力は上がっていっている。
元の世界にいたままなら逃げ出していただろう。
「私は、リリィ。旅の剣士。」
少しぎこちない感じで美少女、もといリリィは答える。
その喋り方に陽道は何となく安心するのだった。
「旅の剣士?強いの?」
「それなりに、強い。」
陽道の質問にリリィは再び答える。
陽道は強いなら仲間になって欲しいなぁと思った。
だけどその前に聞くことがあった。
「なんで草むらから出てきたの?」
「WANTEDモンスターから逃げてきた。」
そうか、と陽道は頷く。陽道も一人ではWANTEDには勝てないのだ。
リリィも一人では勝てないのだろう。
「王都に住んでるのか?」
「宿暮らし。」
(僕と同じか。)
共通点のようなものを見つけてさらに安心する陽道。
そして、話を進める。
「僕の仲間になってくれない?」
「なる。」
即答だった。陽道も驚いた。しかし、ならないと答えられるよりかはいいかと判断した。
陽道はやるべきことを思い出した。ビックベアーあと一体倒さなきゃダメだ。
「ビックベアーどこにいるか知らない?」
「肉なら持ってる。」
「これ。」
リリィは腰の巾着から、熊の肉を取り出すのだった。
陽道はこの人は天使か、と思ったらしい。
「あげる。」
「いいの?」
「いらない。」
「ありがとう。」
陽道は熊の肉を受け取り、箱に入れる。
そして一息つく。飯が食べれるまであと少しだ、と。
「僕はギルドに行くけど、リリィはどうするの?」
「一緒に、行く。」
リリィは陽道についていく。陽道は僕もいつの間にか出世してるなと考えていた。
異世界にいって、自分とは全く似合わない美少女がついてきてくれる。それだけで満足だった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ギルドにたどり着く。陽道は心の中で両手を上げる。
そして受付に行く。
「はい、依頼達成確認しました。報酬の銀貨九枚です。」
「どうも。」
そして宿に戻る。もう腹が空きすぎて意識ははっきりしていない。
それでも最後の力を振り絞る。
「じゃ、リリィ明後日だな。」
「分かった。」
明日は魔法を教わる予定だ。あさってギルドでリリィと会う約束をする。
宿に戻って夕食付きで泊まる。やっとお腹が満たされたのだった。
次回予告
さて、魔法を教わるにあたって魔力と知力を上げるか。
なるほど。魔法とはそういうものだったのか。
早速やってみよう。ものすごい威力になった。
次回タイトル魔力と知力